第26話 ヒロインは妹

 朝一の学校、その屋上。


 人気の少ないこの場所で、俺は亜希と瑠羽と逢引きをしていた。




「瑠羽、久しぶり」




 俺の言葉に、にこりと微笑みを浮かべる瑠羽。




「ビデオ通話やメールのやりとりはしてたけど、こうして会うのは久しぶりだね。亜希ちゃんも、久しぶりだ」




 瑠羽はそう言って、亜希に抱きついた。


 相変わらず、彼女に懐いているようで、結構だ。




「もう、瑠羽ってば……暑いから、離れなさいよ」




 と、亜希はクールな台詞を放つものの、満更でもない表情を浮かべていた。




「そう言えば瑠羽は、今日一日空いているんだよね?」




「撮影があるから放課後はすぐに帰らないといけないけど、授業は1日出る予定だよ。だから、今日のお昼は一緒に食べて欲しいな、亜希ちゃん」




「そうね、一緒に食べましょっか」




 亜希と瑠羽が楽しそうに昼食の予定を話している。




「友馬くんとも一緒に食べられたら良いんだけど……他の人に見られて、勘繰られるわけにはいかないし」




 残念そうに言う瑠羽に、俺は答える。




「俺も、瑠羽と一緒に昼飯を食べたいけど、仕方ないよな。気を遣わないでくれ」




「そうよ、気にすることないわよ。この男には、カワイイ後輩の女の子が美味しい手作り弁当を持ってきてくれるみたいだし、都合が良いんじゃない?」




 俺の言葉に答えたのは、不機嫌そうな様子の亜希だ。


 昨日の昼、麻衣ちゃんの料理を食べたことを話していたのだが、嫉妬したようだ。




「嫉妬する亜希も可愛いと思う」




 俺が言うと、亜希は無言で中指を立てた。


 やれやれ、困った子猫ちゃんだZE⭐︎


 と茶化したかったが、亜希が割と本気でキレそうになっているのに気付き、自重する。




「……亜希ちゃんよりも後輩の女の子を優先したってこと?」




 正面に立ち、瑠羽は俺の裾を指先で摘みながら、上目遣いに問いかけてきた。


 中々可愛らしい仕草だったが、その瞳の奥にある冷たい感情を隠しきれておらず、普通に怖かった。




 下手なことは言えない、と思いどう説明しようか迷っていたその時、屋上の扉が開かれた。


 瑠羽の追及を受け、足音に気を配るのを失念していた。


 俺が扉へ視線を向けると、そこには麻衣ちゃんがいた。




 彼女は俺を見て、表情を明るくさせたが、一緒に瑠羽と亜希がいることに気づいた彼女は、一転戸惑いの表情を浮かべた。




「え、と。なんで阿久さんが亜希ちゃんと……アイドルの人と、一緒にいるんですか?」




 彼女の言葉に、まず瑠羽が動揺し、俺からさっと離れた。


 それから亜希が口を開こうとして、




「ごめんなさい、……何も見なかったことにします」




 そう言って、麻衣ちゃんは踵を返し、扉を閉めた。




「……大丈夫かな? 私たちの関係、怪しまれなかったかな?」




 慌てた様子の瑠羽に、亜希は平然と答える。




「大丈夫じゃない? 後であたしからもあの子に説明するけど、残念ながら学園一の嫌われ者の友馬と、みんなのアイドル瑠羽が恋人同士なんて、想像できるような人間はいないわよ」




「そうそう、大人気アイドルが学園一の変態と悪名高い俺と一緒にいただけで恋人同士だと思えるような想像力豊かな人間はいな……自分で言ってて悲しくなってきた」




「……自業自得じゃない?」




 責める様に亜希は言う。


 正直俺も自業自得だと思っている。




 ――しかし、実のところ、俺たちの関係を怪しまれている可能性は高いと考えている。


 麻衣ちゃんは今、俺に対する好感度が高くなっている。


 彼女の目には今、俺は魅力的な男子に見えているはず。


 だから俺が、クラスの女子からモテモテでもおかしくない、という勘違いをすることも考えられる。


 ……そもそも、勘違いではないのだが。




 ここで麻衣ちゃんに目撃をされる予定はなかった。


 この状況を放置をすれば、後々面倒なことになってしまうだろう。




 ――俺は覚悟を決める。


 今日中に、麻衣ちゃんを攻略してみせる。







 放課後、俺はすぐに屋上へと向かった。


 周囲には誰もいない。


 幸いと思い、サクッと下準備を済ませてから、俺は給水塔の陰に隠れ、麻衣ちゃんを待つ。




 彼女は落ち込んだ時に、屋上で風にあたるのを好む。


 俺に対して好意を抱いていたのなら、今日も屋上に来る可能性は高い。




 ……正直、来てくれないと困る。


 お願いだから来てくれよな、と願っていると、俺の想いが通じたのか、屋上の扉が開かれた。


 屋上にやって来たのは、麻衣ちゃんだった。




 彼女はゆっくりと歩き、柵の近くで立ち止まった。


 いつも通り、風に当たっているのだろう。


 ここに来たということは、俺が女子と逢引きしていたことに、少なからずショックを受けているということだ。


 このまま一気に攻略を進められる可能性は、ゼロではないと確信をする。


 俺は音を立てないようにゆっくりと給水塔から降り、麻衣ちゃんの背後に立つ。




「やっぱりここか、麻衣ちゃん」




 俺が声を掛けると、彼女は振り返りもせずに答えた。




「……何の用ですか、阿久さん」




「今朝のこと、説明したくって」




「説明? 亜希ちゃんから聞きましたよ、愛堂さんの勉強を、亜希ちゃんと二人で見てるんですよね? 他の人に言ったりしませんから、安心してください」




「そうだけど――そう言う事じゃない」




「……どういうことですか?」




 麻衣ちゃんは振り返り、俺を見る。


 平然を装って入るものの、辛そうな表情を誤魔化しきれていない。




「麻衣ちゃんには、誤解されたくないんだ」




 俺の言葉に、彼女は自嘲気味に嗤う。




「誤解なんてしていないですよ。分かっています、阿久さんは誰にでも優しいんですよね。むしろこれまで、私にだけ優しくしてくれているって、特別扱いしてくれているって……そう誤解してました」




「それは誤解じゃない。麻衣ちゃんは、俺にとって特別だ」




 俺の言葉に、彼女は責める様に言う。




「……亜希ちゃんと愛堂さんの視線を見ればわかりました、私と同じなんだって・・・・・・・・・。あんなに可愛い二人から、特別な感情を向けられているのに。それでも、阿久さんは私だけが特別だって、そう言うんですかっ!?」




 俺は彼女の言葉に答えられなかった。


 だけど、引き下がるわけにはいかない。


 俺は無言のまま、彼女に近づいた。




「なんで、何も答えてくれないんですか。もう、阿久さんのことなんて考えたくありません。……私のことなんて、放っておいてください」




 その言葉を無視して、俺は近づくのを止めない。


 彼女は僅かに後ずさるが、柵によってそれ以上後ろに下がれない。




「いや、来ないで……っ」




 俺を目前にした麻衣ちゃんは、そう言って柵に体重を預けた。


 それから、彼女は不自然に体勢を崩した。






「え……?」






 柵が崩れたのだ。


 麻衣ちゃんは腕を伸ばし。後ろ向きに倒れる。


 このままでは、屋上から落ちてしまう。




 ――だが、そうはさせない。




 俺は腕を伸ばし、彼女の身体を抱き、強引に引き寄せる。


 麻衣ちゃんの身体は軽く、俺が姿勢を崩すことは無かった。


 抱き寄せられた麻衣ちゃんは、額を俺の胸に押し当て、俯いている。




「……なんで阿久さんは私を助けてくれたんですか? 下手したら、自分だって一緒に落ちていたかもしれないのに」




「言わないと分からない?」




 彼女の言葉に俺は言う。


 俺の言葉に答えないまま、顔を上げた。




「――なんで阿久さんは。いつも私を助けてくれるんですか?」




 そう呟いた麻衣ちゃん。


 紅潮した頬、濡れた瞳、頬には涙が伝っている。




「阿久さんのことを好きにならなければ。こんなに苦しい気持ちにならなかったのに……!」




 俺は、麻衣ちゃんの瞳をまっすぐに見つめる。






「麻衣ちゃんが俺にとって、特別だから。――麻衣ちゃんのことが、好きだから」






 彼女の頬の涙を拭い、俺は愛の言葉を口にした。




「信じて良いんですか……?」




 縋るような眼差しを向け、彼女はそう問いかける。


 俺はゆっくりと頷いてから、彼女を抱きしめる。




「……俺の心臓の音、聞こえてるだろ?」




 早鐘のように打っている俺の心臓。


 俺の胸に抱かれている麻衣ちゃんには、誤魔化せないだろう。




「……私と同じくらい、ドキドキしてます」




 彼女は小さく呟いてから、顔を上げた。


 今も、彼女の瞳は潤んでいる。


 だけど、その瞳に映る感情は、悲しみよりも、期待と喜びが勝っているように見えた。




「私、自分でも驚くくらい、重いと思います。それに、すぐにいじけて、めんどくさいと思います。それでも阿久さんは、私のことを特別だって言ってくれますか?」




 そう問いかけてから、彼女は目を閉じた。


 何を望んでいるのか、聞かなくても理解できた。




 俺は彼女の唇に、自らの唇を重ねた。




 甘く、蕩けるような感触。


 彼女の細く、だけど柔らかな身体を強く抱きしめる。




 口を離してから、互いに顔を見合わせる、


 麻衣ちゃんは、蕩けたような表情で、俺を見る。 




「阿久さん――ううん、友馬さん。これから、ずっと。私の特別でいてください」




 彼女の言葉に、俺は再び口づけをすることで答えた。







 ――そして。




「こちら、俺の彼女の主麻衣ちゃん。そしてこちら、俺の彼女の真木野亜希と愛堂瑠羽。……みんな、今後とも末永くよろしくお願いします」




 三人の美少女に向かってそう頭を下げた俺は――。


 三人の美少女全員から、中指を立てられることになった。



__________________________________


あとがき


ここまで読んでくれてありがとっ(≧◇≦)

【世界一】超巨乳美少女JK郷家愛花24歳【可愛い】です(*´ω`*)


友馬くんが、なんと三股を達成しました(∩´∀`)∩

中指をたてられた後、どうなるのか…気になるね(*´σー`)エヘヘ

キリが良いタイミングなので、良かったら★や感想をいただけると、

とっても嬉しいのです(*´ω`*)!

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