第7話 ヒロインは幼馴染

「俺の、望み通り……?」




 亜希の言葉に、俺は動揺する。


 その態度を見て、亜希は呆れたように溜め息を吐いた。




「友馬が『俺のために生きろ』『どんな手を使っても、絶対に幸せにする』って、告白……むしろ、プロポーズみたいなこと、言ってきたんじゃないょ!」




 言いながら、亜希は恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていた。


 これまでずっと俺に対しては塩対応だった亜希が、公人に対するような反応を、俺に見せている。


 どうして俺にそんな表情を見せている……? いや、その前に。




 いじける亜希、めっちゃ可愛い……っ!




 参った、色々と考えることがあるはずなのに、亜希が可愛すぎて考えがまとまらない。


 うーん、と悩んだまま無言でいると、亜希は恐る恐るといった様子で、俺に問いかけてくる。




「もしかして……嘘、だったの?」




「嘘じゃない!」




 不安そうな表情を浮かべる亜希に、俺は反射的に答えていた。


 俺のために生きて欲しいと思ったことも、どんな手を使っても幸せにすると決意したことも、一つの嘘もない。


 俺の言葉を聞いて、亜希はぱぁっ、と顔を明るくして喜んだ。




「なによ、それじゃあ、あたしが告白をOKしたのが信じられなくって、まともな反応が出来なかっただけってこと?」




「……そんな感じだ」




 告白をしていないつもりなのに、告白をOKされれば、多くの人は今の俺のようにまともな反応はできないだろ。


 俺が答えると、亜希はクスクスと楽しそうに笑ってから、




「なーんだ。結構可愛いらしいとこあるのね!」




 と、俺の頬を指先でツンツンと突きながら言った。




「亜希の方が可愛いんだけど!?」




 俺はまたしても反射的に答えていた。


 その言葉に、「へっ?」と惚けたように漏らし、手を引いてから「ありがと……」俯きながら、恥じる様に言った。その様子も抜群に可愛く、可愛いの大洪水になっていた。


 それから俯いたままで、亜希は俺に問いかける。




「そういえば。さっき言いかけていた……これからのことって、何よ?」




「それは……」




 俺はそう呟いてから、可愛いに阻害された頭で必死に考える。


 このまま予定通り、『公人と付き合うための作戦会議』をするわけにはいかない。


 少し話しただけだが、亜希が俺のことをちゃんと好きでいてくれているのが、態度から分かる。




 しかし、俺と亜希が付き合って、どうなる?


 死亡フラグを回避するために、亜希には公人と付き合ってもらわないといけないのだ。


 俺の恋人になった亜希に、公人の恋人なってくれとお願いをするのは……非常にハードルが高い。


 だからといってここで、「告白は誤解だから」と断り、亜希との関係が悪化するの絶対に避けたい。




「それは、何よ?」




 首を傾げて、亜希が答えを急かしてくる。




 ……選択の余地はない。


 このまま亜希と付き合い、彼女の身に危険が迫ればすぐに助ける。


 そして、様子を見ながら、公人との関係を再構築するために動いていく。


 難易度が高くなるとして、これしか道はない。




「折角付き合ったんだから、これからは沢山一緒にいたいんだ、亜希!」




 可能な限り一緒に行動をして、いつでも亜希を助けられるようにしなければ。


 そう思って、俺は道化の友人キャラのテンションで、お願いをした。




 俺の言葉を聞いた亜希は、照れくさそうに微笑んだ後、困ったように言った。




「ごめん、それは嫌」




 複雑な表情を浮かべる亜希。




「えぇ……」




 断られるとは思っていなかったため、普通に肩を落とす。




「あ、でも勘違いしないでよねっ、別に友馬と一緒にいるのが嫌ってわけじゃないから!」




 慌てて亜希は言う。




「友馬は周囲、特に女子からすこぶる評判悪いから、皆にあたしたちが付き合い始めたことを言えば、きっと変に心配をされちゃうわ。だから、友馬が心を入れ替えて周囲の評判が変わるまでのしばらくの間は、周りの人には内緒にして、隠れて付き合いたいんだけど」




 確かに、付き合ったことを公表すれば、亜希が周囲の女子から心配されるのは間違いない。




「……確認してなかったけど、もちろんあの趣味の悪いノートつくりは、やめてくれるわよね?」




 亜希はジト目で俺を見ながらそう言った。


 付き合うからといって、俺のこれまでの悪行を許すつもりはさらさらないらしい。




「も、もちろん」




 俺の言葉に、亜希は満足そうに頷いた。




「それじゃあ、日中はこれまで通り、普通の友達みたいに過ごすってことだよな。……放課後は、一緒にいられるよな?」




「うん、それはもちろん!」




 俺の言葉に、亜希は頷いた。


 亜希の場合、放課後に死亡イベントが起こることが多いため、その時間帯に留意していれば一先ずは大丈夫だろう。


 そう思っていると、亜希は「あ、それともう一個」と前置きをしてから、続けて言った。




「日中一緒にいられない分、放課後はその分……目一杯、甘やかしてよね?」




 亜希は上目遣いに俺を窺い、そう言った。




 めちゃくちゃ可愛くて、可愛すぎて。


 俺は涙が出そうになりながら、必死に頷くのだった。




 それから、教室に戻るのだが、時間差で入るために、途中で俺はトイレに寄った。




 個室に入り、初めて彼女が出来たことににやけてしまう頬を叩いてから、気合を入れる。


 油断をしてはいけない。


 まずは今日、再び亜希を死の運命から救わなくちゃいけない。







 ――それから、3日後。


 俺は亜希の様子を、恋人として近くで見続けていた。




 死亡フラグは確実に立っていたので、いつ不運な事故に巻き込まれるかと、気が気でなかったが……結果から言うと、それは杞憂に終わった。




 亜希が俺と恋人になってからの三日間、一度として死の危険に巻き込まれたことは無かったのだ。


 これまでのパターンでは、死亡につながるイベントは必ず翌日・・に起こり、ヒロインが死ぬまで不運は繰り返されていた。




 そのパターンから外れ、既に三日。


 勿論これから先も決して油断はできないが……既に死亡フラグは折れている、と考えて良いはずだ。


 しかし、公人と恋人になっていないのに、フラグを折れたのは何故だろうか。




 ……いや、そもそも俺は、ヒロイン達のバッドエンドの条件を、何か勘違いをしていたのではないか――?




「……ねぇ、なんかぼーっとしてるけど、あたしの話ちゃんと聞いてる?」




 俺と亜希は今、屋上で二人、彼女が作ってくれた弁当を食べているところだった。


 考え込んでいる俺を見て、不満そうに彼女は言う。


 ヤベ、全然聞いてなかった……。




「あ、ああ。ごめん、弁当が美味しすぎて、夢中になってた」




 俺が咄嗟に誤魔化すと、「は、はぁっ!?」と驚いてから、




「ベ、別に友馬のために一生懸命作ったわけじゃないんだからね、勘違いしないでよねっ!」




 ふん、とそっぽを向いてから言った。彼女の横顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。


 ……可愛い。




「なんで亜希は、俺と付き合ってくれたんだ?」




 可愛い亜希に向かって、俺は尋ねる。


 公人が好きだったはずなのに、亜希はどうして俺のことを好きになり、付き合うことにしてくれたのだろうか。




「は、はぁ!? 何でそんなこと言わないといけないのよ!」




「……もう、公人のことは吹っ切れたのか?」




 俺の言葉に、亜希は「はぁ」と溜め息を吐いてから、呆れたように言った。




「はぁ、バッカじゃないの? 付き合ってからずっと様子がおかしいって思ってたけど、そんな気にしてたわけ? ……友馬と付き合うって決めた時点で、もうとっくに吹っ切ってるに決まってるじゃない」




「俺のことを好きになってくれたのは、疑ってないんだけど。どうして俺のことを好きになってくれたのかは分からなくて……」




 俺の率直な感想を聞いて、「ははーん、なるほどね」と亜希はしたり顔を浮かべる。




「友馬のどこを好きになったのか、改めてあたしの口から言わせたいってわけね。そんなの、恥ずかしいから教えないわよっ!」




「そんなつもりじゃなくて、だな」




 俺が言うと、亜希は真直ぐにこちらを見てきた。


 真剣な気持ちが伝わったのか、亜希は「もう……しょうがないわね」と呟いてから、続けて言う。




「助けてもらえてうれしかった。本当はあの時、凄く怖くって、でも失恋もしたばかりで。頭の中はぐちゃぐちゃになって、どうしようもなく不安で、生きる意味も目的もなくなったって、本気で思った時に。……すごく馬鹿みたいで、でも情熱的な告白をされて……嬉しかったの。私のこと、命がけで救ってくれて、しかりつけてくれて、本気で想ってくれて」




 そう言ってから、亜希は自分の胸の上に手を当てる。




「部屋に帰ってから、そのことを思い返してみたら、失恋で開いた心の穴は……塞がってた。あたしの心に、友馬がもう、居座ってたのに気づいて。だからその……あたしは友馬のこと、ちゃんと大好きだから。もう変な心配しちゃだめよ?」




 恥ずかしがるよう、亜希は笑いながらそう言った。


 その後すぐに、焦ったように彼女は俺に向かって言った。 






「え、今の泣くとこあった!?」






「……えっ?」




 俺はその言葉を聞いてから、自分の頬に一筋涙が流れているのに気づいた。


 それから、俺は指先で涙を拭い、「ははっ」と笑い声を上げる。




「どうしたのよ、大丈夫?」




 亜希は急に笑ったり、泣いたりした俺を心配したように問いかけてきた。


 俺は彼女の言葉に、微笑みを浮かべてから答える。




「大丈夫。ただ、安心しただけだ。……亜希が生きてくれてて良かった、って」




 俺の言葉を聞いて、亜希は一度俯いた。


 それから、ぐっと距離を近づけてきた。




「今更? ……でも、私も生きててよかったって思う」




 そう言って、亜希は俺の頭を押さえてくる。


 その力に大人しく従うと、彼女の胸に抱きかかえられた。




「あの時友馬に助けてもらえなかったら、きっとあたしは死んでたたわ。あたしが今こうして生きているのは、間違いなく友馬のおかげ」




 温かな体温と、早鐘のように打っている鼓動が伝わる。




「心臓の音、聞こえているわよね?」




「うん、聞こえてる」




「好きな人を抱きしめてるんだから、ドキドキするのは当然よ。……こんな風に温かい気持ちにさせてくれる友馬のこと、好きになって本当に良かったって思ってるわ」




 彼女はそう言って、俺の顔を自分の胸からはなした。


 そして今度は俺の頬に両手を添え、間近で俺と見つめあう。


 俺がもう少し距離を詰め、ほんの少しでもその気になれば……キスが出来てしまえるくらい、近くまで。




「約束、覚えてる?」




 潤んだ瞳が、普段よりもずっと大人っぽくて、色っぽく見える。




「ああ、もちろん。ここでもう一度、改めて約束する……!」




 俺の言葉に、亜希は優しく笑った。




「あたしは友馬のために生きるから。だから、絶対に。あたしのことを幸せにしてよね?」




 そう言って、彼女は瞳を閉じた。


 俺は彼女が何を望んでいるかを理解する。


 それから俺は、彼女ともう少し距離を詰め、ほんの少しだけその気になって――。




 自らの唇と、亜希の柔らかな唇を重ねるのだった。



__________________________________

あとがき


ここまで読んでくれてありがとっ(≧◇≦)

【世界一】超巨乳美少女JK郷家愛花24歳【可愛い】です(*´ω`*)


友馬くんが無事、一人目を攻略しました(∩´∀`)∩

キリが良いタイミングなので、良かったら★や感想をいただけると、

とっても嬉しいのです(*´ω`*)!

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