魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を得てスペオペ世界で個人事業主になる。

なつきコイン

第一部

プロローグ

第1話 転生王子

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動画にしました。YouTubで配信中。

下記のリンク先へ移動するか。なつきコインで検索してください。

https://youtu.be/lXzR_pfV9JY?si=ljOF5ZDpgCiSRFd5

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 もう初夏といえる良く晴れた日の昼過ぎ、いつもなら部屋で昼寝をしている時間であるが、俺は汗ばむ額を手で拭いながら渋々王宮の裏にある宝物庫に向かっていた。


「あれ、セイヤ殿下じゃないですか。どうしたんですかこんな所まで?」

 宝物庫の警備をしている若い兵士が俺を見つけ親しげに声をかけてきた。

 そう、俺の名前は、セイヤ S シリウス、セレスト皇国の第三王子だ。


「いやー、父上に怒られてね『部屋に引き篭ってないで少しは働け』って」

 俺は兵士に近付きながら、左手で頭をかきつつ右手を軽く上げ返事をする。


「ははははは。それはサバラ国王陛下のおっしゃるとおりですね。アベル殿下もダレス殿下も立派に働いていらっしゃいますよ。セイヤ殿下も成人したのですから、少しは働いてくださいよ」

 兵士は笑いながら、誰もが思っている苦言を呈してきた。


 ちなみにアベルが長兄で第一王子、ダレスが次兄で第二王子である。どちらも誰からも尊敬される立派な兄たちだ。


 普通なら下級兵士が王子に軽口を叩けば問題になりそうだが、田舎である我が国では王族と民との距離が近い。下級兵士であっても構わず王族に声をかけてくる。王子である俺にこんなことを言っても不敬罪に問われることはない。

 特に俺は、王族といっても第三王子、それも、成人を過ぎ十六歳になっても、魔法もまともに使えない引き篭りときている。

 そのため、王宮の兵士たちも全くお構いなしだ。日頃から「残念王子」だとか「引き篭り王子」と呼ばれるしまつである。


 まったく、少しは俺にも兄たちと同じように敬意を示してもらいたいものだが、まあ、それも自分のせいなので、もう慣れたから今更だ。

 だから、兵士の言葉に怒るでもなく、落ち込むでもなく、少しの嫌味を込めてこう返した。

「だから態々部屋から出て、来たのだろ。父上が『宝物庫の片付けでもしろ』ってさ」

「こんな所までって……、王宮から十歩も離れてないじゃないですか」


「俺にとって部屋の外はどこも『こんな所まで』なんだよ。第一、お前が先に『どうしたんですかこんな所まで』と言ったのではないか」

「全く、セイヤ殿下は、引き篭りのくせに、本当に口だけは達者ですね」

 兵士は困り顔で手の平を見せ、お手上げのポーズをとる。


「ハイハイ、俺は屁理屈ばかり言っている、引き篭りのニートだよ。それより、扉の鍵を開けてくれ」

 兵士と喋っていても小言を言われては面白くないし、父上に命令された仕事は少しも進まない。さっさと適当に片付けて部屋に戻ってグータラするためにも、俺は兵士に早く扉を開けるようにとせっついた。


「わかりました。今開けます」

 兵士は腰のポーチから鍵を取り出し、ロックを解除し扉を開く。


「殿下、宝物庫の中には貴重な魔道具もありますから、間違っても魔力を通して壊さないでくださいよ」

「わかっているって。散々やって懲りているからな」


「ならいいですが……。本当に問題を起こさないでくださいよ」

 そう言って、兵士はこちらを心配しながらも入り口の警備に戻っていった。


 兵士が心配していたのには訳がある。

 俺は魔法もまともに使えないと言ったが、魔法が使えないのは魔力がないからではない。

 むしろ逆だ。魔力が高過ぎて上手く魔法を制御できないからなのだ。

 そのため、今までに、俺が魔力を通して魔力過多で壊してしまった魔道具は一つや二つではない。


 そうなのだ、俺は生まれた時から魔力計測器の針が振り切れる程の魔力が高く、周囲から先祖返りだろうと大いに期待されていた。

 だが、五歳になって魔法の勉強を始めると、魔力が高過ぎて上手く魔法を制御できないことがわかった。

 ちょっとした魔法を使おうと思っても、大爆発を起こしてしまい、魔道具に魔力を込めれば、ことごとく魔力過多で壊れてしまう。

 期待が大きかっただけに失望も大きい。皆から「残念王子」と呼ばれるようになるのにさほど時間は掛からなかった。


 それでも諦めきれず魔法の練習を続けた俺は、最後には魔力の暴走を起こしてしまい危うく死にかけるところだった。

 だが、俺はそれをきっかけに前世の記憶を思い出した。


 俺の前世はこことは違う世界の日本人であった。

 ファンタジーな剣と魔法のこの世界でなく、科学文明が栄えた異世界の住人であったのだ。

 そして、前世の日本でも俺は……、今と同じ引き篭りのニートだったのである。


 どの位引き篭っていたか覚えていないのだが、気づいたら天国で神様と対面していた。

 引き篭って不摂生な生活を過ごしていたのだ。多分、何らかの病気になり死んでしまったのだろう。


 そこで対面した神様に「もう少し真面目に生きろ」と怒られてしまった。

 そして「オマケにボーナスポイントをくれてやるからもう一度人生をやり直せ」と言われ、オマケのボーナスポイントをもらって今の世界に転生したのである。

 その時、転生先が魔法のある世界だと聞いた俺は、折角魔法がある世界なら最強の魔法使いになり無双してやろうと、ポイントを魔力に全振りしてしまったのだ。


 そう、魔力が高いのは先祖返りではなく、転生者でチートだからだ。


 だが、その結果がこれである……。

 魔法で無双してやろうと思っていたのに、魔法が上手く使えず、不貞腐れた俺は、結局、また、引き篭りのニートになってしまったのだ。

「引き篭り王子」の完成である。


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