Y/Z

KIKI-TA

第1話 アドバンス

 時間はたっぷりとあった。地球全体の総和

時間としては。それは誰もが認識していたこ

とだ。センターのデータとしても計算されて

いたことで、AIによる予測誤差をもってし

ても、それは充分な長さだった。

 しかしとカゲルは思う。

 それは総和としての地球時間だろうと。コ

ントロール体一人一人に割り振られた生命時

間としてはどうなのか。一体の生命細胞とし

て組成され、地中深く「シード」と名付けら

れたセンターで誕生した自分たちにとっては。

 自分だけじゃない。過去の歴史にある性別

間の交配、自然交配で子孫を残していくこと。

その非効率性。食糧、水、エネルギー、居住

地の枯渇、植物資源の衰退による酸素濃度の

低下。残された人類で対応するしかない、ど

のような子孫が誕生するか分からない、自然

な交配という手段に委ねる危険性。そんな判

断がそこにはあるんじゃないか。その結果と

して人工的に誕生した自分がここにいる。

「今月の血液データなんだが。ギリギリで大

丈夫だとは思う。経過観察の範囲だな。先月

はサーフェスに何回くらい出た?」

 落ち着いた調子で担当ドクは言う。

「第2、第4週は休みがあったのでローテー

ションで2回です」

 カゲルは応える。

「それがギリギリだね。3回以上では血中免

疫濃度が下がり、君のように免疫コントロー

ル体として組成された種ですら、循環機能に

障害が出始める怖れがある。そうなったら生

命時間を修正しなくてはならない」

「生命時間の減少ということですか?」

「そうだね。そこまでいく前に制御しないと。

君に設定されている生命時間はどのくらいだ

ね?」

「センターからの初期データでは45.88

年です」

「若干短く設定してあるように思えるが」

「ベースになった試験細胞の劣化度とあとは

サーフェスで健全に作業ができる年数を統計

的に換算してあるらしいですが」

「何か気になる自覚症状は?」

「そう言えば、睡眠時間を地球自転時間にス

ライドさせられなくなる時があります。いく

ら後で、脳内チップを更新しようとしても調

整が効かないんです。あと、必要な維持栄養

素が経口取得できない時もあった」

「どのくらいの頻度で?」

「覚えている限り、睡眠時間の方は先月2回

くらい。食事の方は1回だけです」

「歩行、目眩、言語など、実生活や作業に不

都合が出たことは?」

「無いです」

「ちょっと眼を見せて?毛細血管は大丈夫そ

うだね」

「有難うございます」

「分かった。とにかくサーフェスに出る回数

は制限するように。継続して経過を観察して

行こう。なにせ君は大切なコントロール体だ。

我々にも必要な監視と記録の義務がある」

 カゲルは検査機関アドバンスを後にした。

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