第14話 勇者覚醒!(1)

 今日は金曜日、しかも、すでに夕方だ。

 実際に、デートの準備に費やすことができるのは土曜日の一日だけだ。

 俺は焦った。

 と言うのも、童貞の俺はデートなどしたことが無いのだ。

 婚活パーティで、女性と話すにしても、いつも周りには野郎どもがいた。

 女性と二人っきりで話すシチュエーションなんて、今まで全くありゃしない。

 マジで、何をどうしていいのか分からなかった。


 と言うことで、俺は、仕事帰りに本屋によってデート本を購入した。

 何事も、攻略本があれば容易なのだ。

 これをじっくり読みこめば、デートなど超簡単!


 だが、俺はこの時一つの不安に襲われた。

 そう、俺は童貞なのだ。


 もしも!

 もしもだ!


 デートがうまくいき、ランチからカフェ、そして、お酒でもと言った流れになれば、当然その後は……ムフフフ!


 ちょーーーーーっとまてぇぇぇぇ!


 ムフフはいいのだ! ムフフは! だが、実際、ムフフになった時、俺はどうすればいいのだ!


 ガソリンスタンドでバイトした時のヤンキーの姉ちゃんの言葉を思い出した。

「なんだ、残念。でも、次はないからねぇ~」

 そう、その時に行動しないと次はないのである。


 それはマズイ!

 非情にまずい!

 何とかしないと……


 俺は本屋から帰り道を頭を抱え悩みながら歩いていた。


「よう! グダぐだ男! 久しぶり!」

 不意に背後から声がした。

 誰だ! こんな緊急事態に声をかけるのは!

 俺は、イライラしながら振り向いた。

 そこには、遊び人風の男……いや、遊び人がいた。

 そう、この男は大学院の時の男友達であったのだ。

「お……おう! 久しぶり!」

「真面目に冒険、頑張ってるじゃん!」

「そういう、お前は、遊び人か?」

「まぁな! そのうち、賢者にでも転職するから大丈夫だって!」

 得意げに大笑いする男友達の遊び人。

 まぁ、無職を自慢すべきところではないと思うが、彼には悲壮感が全くない。

 なぜなら、彼の実家は資産家なのである。

 ムリして働かなくても、食っていくぐらいは余裕なのだ。

 しかし、昔から、やることが少々、危なっかしい。

 いつも気が付けば、ちょっと変わったことをやっている。

 インターネットが流行り出した時には、早々にアダルト画像を収集して、裏でCDを売りさばいていたり。

 日中はパチンコ屋さんのサクラで足しげくホールに通っていたりと。

 これ以外にも、おそらく俺の知らないところでは、もっといろいろなことをしていたのだと思う。


「お前、彼女できたか?」

 遊び人は俺に声をかけた。

 まぁ、このへんのくだりは、男同士のくだらない会話の社交辞令みたいなものである。

 だが、今の俺にとって、このフレーズは急所であった。

 そう、まさに今、彼女ができようとしているのである。

 しかも、その彼女ができた際に、ムフフなシチュエーションになったらどうしようと考えあぐねていたところなのだ。

 俺は、やめておけばいいのに、素直に今の心配事を話してしまった。

 まぁ、俺の頭の中で、女神さまとのデートは解析処理できないほど困難なクエストだったのだ。

 少しでも情報が欲しい!

 その一念で、話してしまったのである。


「なんだ、そんな事か!」

 大笑いしながら遊び人が俺の肩を叩いた。


「で、お前! 今、財布にいくら入ってる?」


 ――はいぃ?

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