018 反射

――――――作者さくしゃからの大切たいせつなおらせ


本作ほんさく記述内容きじゅつないよう反応はんのうかんする記述きじゅつふくみます。)は、実際じっさい科学的意義かがくてきいぎおおきくことなります。ストーリを展開てんかいするうえで作者さくしゃ創作そうさくしたものであり、架空かくう設定せっていぎません。あくまでもフィクションとしておたのしみください。


――――――





薄々感じてはいたのだが、俺のカウンター、やっぱりおかしい。トッププレイヤーさんの動画を何度か視聴したけど、カウンターが決まりまくるようなシーンはなかった。だからこそコメントらんで騒がれているわけで、俺の特異性を物語っている。


俺の体感を表現すると、次のようになる。ゲームの画面に集中すると、普段よりもスローモーションな世界が見えてくる。相手の攻撃も当然ゆっくり確認できるわけで、あとはそれに合わせて回避の操作をする。返す刀でカウンター。そんな感じ。



―――多分、一般的には反応できない速度なんだよね。



とんでもなく記憶力が良い人、計算機並みの計算速度を持つ人。人類の可能性は無限大だ。俺のように反射速度がすごいという人がいても、不思議ではない。


というわけで今から受けるのは「反応」の検査だ。もちろん医学的なものではなく、ゲーム機械的な検査に過ぎない。正確な測定ではないのだが、どのタイミングでボタンが押されたか、その記録をみることができる。普段ならば見ることのできない、プログラム上の数字を確認できるのだ。何だかこう、テンションが上がる。



「こちらが、簡易版FPSです。」



開発の遠井とおいさんが、セッティングを始めている。俺の隣に鎮座している筐体きょうたいとは異なり、一般的なノートパソコン程度の大きさだ。ゲーム機の小型化が進む現在、もしかしたら携帯型ゲーム版FPSの登場も近いのかもしれない。



「機能は製品版とあまり変わりません…よいしょっと…技については、どう設定しましょう?」



「えーっと…どれでも大丈夫です。多分、使わないので。」



画面を見ても、製品版と大差はないと思う。違いがあるとすれば、背景が真っ白になっていること。プレイするうえで特に問題はないのだが、なんだか不思議な感じがする。機器の背後からのびるケーブルはパソコンにつながっており、俺ではさっぱりな文字列が並んでいる。



「それではこちらで操作しますので、プレイをお願いします。」



準備は整ったらしい。



「はい。」



大会のときとは、また違った緊張感がある。対戦相手…というか、相手キャラクターを操作しているのは遠井さん。伝えられてはいないが、おそらく「炎陽えんよう」や「春霞一閃しゅんかいっせん」あたりをカウンターしなければならないのだろう。





特にこれといった合図はなく、ぬるっと始まった。



―――まずは…集中、集中。



やることは普段と何も変わらない。いつも通り相手キャラクターの動きをしっかりと見る。



「通常攻撃から行きますね。何度か試しますので、カウンターをお願いします。」



「はい。」



相手キャラクターの右腕が動く。少し構えが変わった。めた力を解き放つかのように、右ストレートがとんでくる。人間でいえばまだひじが伸びきっていない、肘が体側たいそくと重なるタイミング。



―――ここっ!



身体をそらせての回避。そこからカウンター。



「おぉ!大樹だいき、すごいな!…あ、すみません…。」



おっちゃんの声に反応したいところなのだが、さすがにそこまでの余裕はない。次の攻撃に備える。


また同じ動作が始まる。右腕が少し下がり、力を溜めるような構えに入る。腕が前方向へと動き出し、パンチがくりだされる。回避のタイミングは、さっきと同じ。肘が体側と重なる瞬間だ。



―――よいしょっ!



ちょっと余裕が出てきた。一発目よりは緊張もほぐれてきた。



「あ、ありがとうございます。」



遠井さんが、きつねにでもつままれたような表情をしている。おそらく俺のプレイ動画は見てみえると思うのだが、やはり現実で見るのはまた違うのだろう。ちなみに社長さんは、おっちゃんと全く同じ目をしている。



「ひとまずご説明いたしますね。


まず、FPSの方針といたしまして、12フレームが全ての基準となっております。一説には、集中状態における反応速度が0.2秒程度とされております。それをフレームに換算すると、12フレームとなります。」



さっきのキャラクターの動き、普通に動いているように見える映像だが、実際は静止画の連続に過ぎない。パラパラ漫画が動画のように見えるのと同じ理屈だ。この1枚をフレームと呼び、単位秒あたりのフレーム数が多いほど、なめらかに見える映像となる。よく動画で60fpsとか表示されているが、あのfはフレームのf。



「そしてカウンターですが、要求される回避のタイミングを12フレーム以下に設定してあります。実際にカウンターされてしまった後で申し上げにくいのですが…基本的にカウンターはラッキーで起きる程度と考えております。」



「それじゃあ、俺は12フレーム以下で反応しているってことですか?」



理屈的にはそういうことになる。狙ってカウンターができているということは、反応速度が12だ。



「はい。こちらが今回の測定結果です。」



加瀬さんがパソコンの画面をこちらに向けてくれる。そこには。

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