第22話

「そんな経緯いきさつが……妹さんのこと、大変だったね」


 一通り話しを終えると、武藤むとうの口から出たのは妹の事故を気遣う言葉だった。


「まあ、な。でも今はこいつらが比較的安全に暴れるおかげで居眠り運転も事故も起きてない。暴走族を辞めたいと思いつつ、感謝してるとこもあるんだ」


「そんな風に言えるところをメンバーは感じとって、豪拳ごうけんくんをリーダーにしたのかもりえないね」


「ただ単に腕っぷしにビビっただけだろ」


 照れ隠しでそんなことを言ったものの、ほんのちょっとだけオレを認めてくれるこの場所を好きになりそうだった。


豪拳ごうけんくんがこの暴走族を辞めたい気持ちはよくわかった。やっぱり魔王討伐は俺が一人で……」


「いや、それはしっかり付き合うぜ」


 武藤むとうの言葉をさえぎりオレは手伝う意志を表明する。


「恩人であるめぐ……町尾まちおが魔王にりつかれてるんだ。利害は一致してる。それに、異世界から来た武藤むとうを放っておくのも忍びない」


「……ありがとう」


「礼を言うのは魔王を倒してからにしてくれ。その前にはまず自転車に乗れるようになってもらわないとな」


「そうだな。練習再開だ」


 ペダルをぎだすとさっきよりも長い距離を走れるようになっていた。


「コツをつかむと簡単なもんだろ?」


「ああ! ただ、どうすれば曲がれるんだ? このままだと壁にぶつかる」


「曲がりたい方向にハンドルを回せ! ってか、足が付くだろ!」


 ガシャーーーン!!


 オレのアドバイスも虚しく武藤むとうは積んであったダンボールにぶつかり転倒した。


「……勇者がこんな情けない姿をさらしていいのか?」


「はっはっは! 俺は弱い自分もちゃんと受け入れるんだ」


「なに良い事言ったみたいな空気を出してるんだよ。ほれ」


 武藤むとうに手を差し伸べると、それに応えるようにギュッと握り返してくれた。


「ありがとう。前線で戦うけん闘士とうしがパーティにいたらこんな感じなのかもね」


「オレはこんなポンコツが勇者だって信じられないけどな」

 過去をさらけ出し、自転車の練習しているうちに武藤むとうへの信頼は固いものになっていた。


「さ、練習に戻ろう。事態は一刻を争うかもしれない」


「ああ、最近ではおっぱい警察官として町尾まちおが有名になっているらしい。

魔王が町尾まちおの身体を使って暴れてるのかもしれない」


 なんでもめぐるさんのおっぱいに潰されたくてひったくりをするやからがいるとか。許せん。


「魔王の力は強大だ。しっかりと準備をして、町尾まちおさんのおっぱいだけを確実に仕留めなければ」


「頼むぞ。魔王討伐に関してはお前だけが頼りなんだ」


「任されたよ。勇者の使命であり、友人の頼みだ」


 武藤むとうは力強く返事をするとサドルにまたがり走り出す。真っすぐにしか走れないのが実にこいつらしい気もする。


 待っていてくださいめぐるさん。オレはあなたを魔王から救い、そして……!

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