第10話

「いたたたた」


 道端に座り込む一人の女性。かつて勇者と共に魔王を滅ぼす寸前まで追い込んだ神官プラートルも異世界にやってきていた。


「勇者様を追って次元の狭間に飛び込んだのはいいのですが、こんなにも危険な場所とは思いませんでした。もともと魔王のいなかった世界とはいえ侮れませんね」


 今回のひったくり事件の被害者は彼女だった。


「大気中に魔力を感じないこの世界で魔法を使うことはほぼないと思いますけど、杖がないと魔王を滅ぼす時に勇者様のお力になれません。しかし、あのような速さで逃げられてはとても……」


 別世界からやってきたプラートルにこの辺一帯でひったくりが横行しているなど知る由もない。雰囲気もことわりも違いこの世界で彼女はふいうちのように杖をひったくられてしまった。


「はぁ……わたくし、これからどうすれば」


 大きなため息をついても、どこかの魔王おっぱいとは対照的にその胸が揺れることはなかった。


「通りかかる人々もわたくしを一瞥いちべつするだけで手を差し伸べてくださりません。やはり胸のない女には声を掛ける価値はないということでしょうか。わたくしがこのような状況になったのも魔王のせい。憎い! 魔王と巨乳が憎い!」


 聖なる力を司るはずの神官プラートルは魔王のついでに巨乳への怒りも募らせていた。これからこの二つが同時に襲来し、自分を助けてくれるとも知らずに。

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