第3話

 めぐるの乳首からビームが発射される瞬間をこの地域で有名な暴走族・暴隠栖の構成員達も見ていた。


(家に帰る途中でめぐるさんを発見して思わず追跡したらとんでもないことになってしまった)


 無骨な表情でこの状況を見つめる大男とは対照的にチャラチャラした男達はその見た目通りテンション高めに騒いでいる。


「ヤベー! 町尾まちおのやつ、急に胸がデカくなったと思ったらレーザー出しやがった」


 町尾まちおもだけど勇者みたいな男もヤベーって。ふつう剣を容赦なく振り回せるか?」


 見るからに下っ端みたいな男達はワイワイと盛り上がっている。


豪拳ごうけんさん、あの勇者男をウチに引き込んだらあの女にも勝てますって。いよいよ俺らの天下到来っすよ」


「ん? ああ」


 豪拳ごうけんと呼ばれた大男は他のことで頭がいっぱいで生返事しかできなかった。なぜなら彼の頭の中は


めぐるさん大丈夫かな? 急に胸が大きくなったかと思えば、ビームで服が破れてるし。おい! そこのヤサ男! 写真撮ってんじゃねーぞ! ああ、今すぐ巡


《めぐる》さんを助けてめぐるさんの王子様になってお礼のチューをされたい!)

 めぐるを心配する気持ちとあわよくば両想いになりたいという欲望に支配されていた。


豪拳ごうけんさんがあんなに真剣にあの女を見つめている……そうですよね。俺達が束になっても勝てなかった町尾まちおが自滅したみたいに倒れてる。だけどここで手を出しても買ったことにはならない。さすが豪拳ごうけんさん、おとこの中の漢っす!」


 下っ端は勝手に豪拳ごうけんへの憧れを膨らませて感動に浸っていた。そんな声は無視して豪拳ごうけんはある考えが浮かんでいた。


(もし勇者男がめぐるさんに斬りかかったところをオレが助ければ暴隠栖ぼういんずへの裏切り行為で脱退できるし、めぐるさんの命の恩人になれるんじゃ)


 今までの暴走族と警察官という敵対関係から脱し、男と女の関係になれるかもしれない。そんな浅はかな妄想に駆られた豪拳ごうけんはすぐに決断を下した。


「あの勇者男を探し出せ。ビームと一緒に西の方に飛ばされたんだろう。あの男は只者じゃない。きっと無事だ。あいつと一緒に町尾まちおを倒し、暴隠栖ぼういんずの天下を手に入れるぞ」


 豪拳ごうけんの号令と共に下っ端達の士気が高まり各々自慢の愛車で西へと向かう。そんな暴隠栖ぼういんずのメンバーを見て豪拳ごうけんはため息をついた。


(ああ、これでやっと平穏な日々が手に入る。なんでオレ、暴走族の総長なんかになってるんだろう……)


 下っ端の盛り上がりとは対照的に、自分のここ数か月の人生に対する嘆きとこれからの人生への期待が入り混じっていた。

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