改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

横蛍

天文16年(1547

プロローグ・リアル世界

活動報告にてカクヨム様で掲載する説明を記載しております。ご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/oukei/news/16817330650200323910


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◆◆





Side:一馬


 見上げると青空が見える。晩夏の残暑か、今日は暑いな。


「麦茶でもいかがですか? この時代では麦湯と呼ぶんですよ」


「へぇ。それは驚きだね」


 時代劇に出て来るような木造建築の家の縁側で涼んでいると、エルが麦茶を持ってきてくれた。キンキンに冷えていないものの、それなりに冷たい。どうも井戸で冷やしてみたようだ。


 エルは金色の目と髪をしていて、設定年齢は十八歳。スタイル抜群で可愛らしい女性になる。


 ただし、彼女は人間ではない。ギャラクシー・オブ・プラネットというフルダイブ型VR空間で、オレが創った有機アンドロイドになる。タイプは万能型の最高性能アンドロイドだ。


 ギャラクシー・オブ・プラネットとは、リアルよりもリアルな世界。そんな謳い文句で一世を風靡した、SFを主体にしたVRゲームになる。


「しかし、世の中なにが起きるか分からないもんだね」


 空を見上げても飛行機なんて飛んでいない。


 ここはギャラクシー・オブ・プラネットの世界じゃないんだ。


「元の世界に戻りたいのならば……」


 エルの表情が僅かに曇った。


「あいにくとそれはないんだよね。このままみんなで生きていけるようにしよう」


 ここに来て二週間になる。ここは仮想空間ではない。西暦一五四七年の世界。日本の戦国時代に、オレたちは仮想空間から飛ばされてきたようなんだ。


 ギャラクシー・オブ・プラネットの世界のアバターのまま、ギャラクシー・オブ・プラネットの世界でオレが個人で保有していた宇宙要塞シルバーンと、百二十人のアンドロイドと共にだ。


「事実は小説よりも奇なりってね。でも、意外とよくあることだよね。漫画みたいな活躍をした野球選手とか昔いたし」


 テレビやラジオもない時代。車の音も町の喧騒もない。時折、風に乗って人の声なんかは聞こえるが静かなもんだ。ここ、尾張一の港町とか言われている津島なんだけど。


「面白いねぇ。ちょっと出歩いたら喧嘩売られたよ」


「ただいま」


「ああ、ジュリア、ケティ。お帰り」


 のんびりしているとジュリアとケティが帰ってきた。


 ジュリアの年齢は二十歳。肩まで伸ばした少しウェーブのかかったブラウンヘアに、派手めの顔立ちとスタイルをしてる戦闘型アンドロイドになる。


 ケティは黒目黒髪のショートヘアで、年齢は十六歳に設定した。小柄でスレンダーな容姿をしている。基本的に無口で抑揚の少ない話し方をするが、本当は感情豊かで少し食いしん坊でもある。彼女は医療型アンドロイドだ。


 ふたりは近くの津島神社で市が開かれるからと出かけたんだけど、そんなことがあったのか。アンドロイドだし、この時代に合わせた武装はしていったので大丈夫だとはおもったけど。


 治安は良くないんだよね。価値観も常識も違うから当然と言えば当然なんだけど。自分の身は自分で守るのが常識らしい。


「あまり騒ぎを起こしては駄目よ」


「殺しちゃいないさ。ちょっと痛めつけてやっただけだね」


 ケティはともかくジュリアは容姿が日本人と少し違うからな。珍しいこともあるんだろう。エルは少し困り顔だけど、警察もいない時代だ。殺さない限りは問題にならないだろう。


「大丈夫よ。私たちは南蛮船の商人なんだもの」


 そんなジュリアとエルのやり取りにクスッと笑ったのはメルティだ。彼女はエルと同じ万能型アンドロイドになる。青い髪をショートボブにしていて、色気のあるお姉さんタイプになる。


「それより屋敷が手薄です。このままでは賊に入ってくれといっているようなものです」


 そこで少し心配そうに話を変えたのはセレスだ。ジュリアと同じ戦闘型アンドロイドになる。銀髪でクールな切れ長の目を持ち二十歳くらいの容姿をしている。性格は軍人っぽく真面目で敵に厳しい一面がある子だ。


「来たら返り討ちにしてやるよ」


「その前に警備を増やしたほうが……」


 ジュリアは少し好戦的な性格をしているからか、賊が相手でも来られるものなら来てみろと言いたげだが、セレスは屋敷の警備を増やしたいらしい。


 分かっているんだけどね。オレ以外のアンドロイドは全員女性タイプだし。人に擬装出来るロボット兵と有機ボディのバイオロイドもいるが、あまり増やすと警戒されそうなんだよね。


 オレたちここでは余所者だし。


「まあ、蔵には盗まれて困るものもないし」


 一応、下働きに見える人の姿をしたロボット兵を数人ほど置いている。借りている屋敷が凄く広いので、人がいないと玄関にお客さんがきても聞こえないからさ。


 この時代とすると喉から手が出るほど欲しがる人がいる高価な品が蔵にはたくさんあるけど、正直オレたちが盗まれて困るものは手元に置いている通信機くらいだ。


 エルたちと話し合って少し手薄なまま様子を見ようということにしている。オーバーテクノロジーの対人センサーは密かに仕掛けているから、賊が来ればすぐに分かるし。


「それで、なんかあったの?」


「魚と山菜とかはあったわね。あと豆とか雑穀は少し買ってきたわ」


「塩は質が良くない。あれだと美味しくないから駄目」


 うーん。ジュリアとケティが買ってきたのは食料品が少しか。市も毎日やってないんだよね。魚は漁村に行くと手に入りそうだけど、少し開いて干物にしたほうがいいかなぁ。


 ケティはグルメな一面もあるから、この時代の一般で売っている塩がお気に召さなかったようだし。


「それにしても不潔な時代ね」


「欧州よりは格段にいいはずなんだけど」


 夕食は魚かなと思っていると、メルティが少し顔をしかめて衛生環境について口にした。


 この時代でも身を清めることを神社などではしているけど、庶民だとね。お風呂でさえ、お湯を溜める浴槽があるお風呂はお湯を沸かす薪代などがかかるから、身分が高い人の屋敷とかにしかないし。


 オレたちが借りているのは元商人の屋敷らしくお風呂がない。お風呂とトイレとか屋敷の一部を改築するべく津島の大工さんに頼んだけど。それも改築が始まるのはこれからだ。




 しかし、ちょっと迂闊だったかな。織田信長を見たいからって本土に来たのは。まさかいきなり会うとは思わなかったし。


 ここ戦国時代で、オレとアンドロイドたちの第二の人生が始まるのかもしれない。



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