予知夢

 結唯の付き合っている相手、樹との出会いは大学時代のサークルでだった。研究一筋のいかにも理系男子、と言った風体の樹だったが、不思議と一緒にいると落ち着いた。

 樹は新薬の開発を目指し、大学卒業後、大学院へと進学した。そして有名な教授について新薬の研究に明け暮れている。

 一方結唯は、大学卒業後、地元の小学校で教師として勤めていた。

 結唯は樹の結論から話す癖を理解し、樹もまた、結唯のことを愛しいと感じていて、周囲から見た2人はお似合いだった。



 しかし、樹には結唯に言えない秘密があった。それは、予知夢を見る能力だった。

 高校を卒業し、大学に入学した頃、その予知夢は落ち着いていた。幼い頃から繰り返し見、そして現実となっていた予知夢の数々。それが落ち着き、樹も普通と変わらない学生生活を送っていたのだった。

 大学院に進学後、それは突然やってきた。


(夢……?)


 余りにも突然だったため、樹はそれが意味することを一瞬分からずにいた。もしかしたら、ただの夢かもしれない。そう思い直す。

 しかし、予知夢特有の同じ内容の夢を何度も見る日々が続き、樹は確信したのだった。


 毎日のように見ていた夢の内容はこうだ。

 結唯が30歳を目前に、難病にかかってしまう。原因不明のその難病は治療薬はおろか、治療法も確立されていなかった。その難病と闘う結唯だったが、最期は感染症による腎不全で亡くなってしまう。

 葬儀に出た自分は、涙も流せずにいるのだった。


(こんな未来は、絶対にイヤだ……!)


 幼い頃から予知夢の通りになってきた現実だったが、今度ばかりはそうはさせたくない。否、させない。

 しかし、結唯と一緒にいると、安心感から甘えてしまう自分もいた。だから樹はあの日、橋の上で結唯に別れを告げたのだ。新薬開発に専念し、結唯の命を救うために。


 期限は限られている。

 あと数年。

 その数年で新薬を開発しなければ、結唯の命はない。




 焦りの中、樹の教授の手伝いをこなしつつも独学で研究を続ける日々が始まった。

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