異世界アイテ厶管理局

砂漠の使徒

第1話 なんでもキレるなんでもキレる剣

「あなたの対応が悪いんですよ!?」


「はあ……」


「もっと笑顔になったらどうなんですか!?」


 笑顔ねぇ……。

 これでも営業スマイルを欠かしたことはないのだが……。

 もしかして、俺のこの顔はスマイルとは呼べないのか?


 そんなお客様からの理不尽なクレームにうんざりしていると、こんな呼び出しがかかった。


「お客様対応課のサイトー君、用があるので至急アイテム倉庫まで来るように」


 げっ。

 なんだろう……嫌な予感がする。

 でも、このクレーマーにはうんざりしていたので、助け舟を出してくれた課長には感謝しよう。


「すみません、ちょっと用があるので!」


「あ! 待ちなさい!」


 誰が待つかよ!

 どうせ待ってもクレームしか出てこねーよ。


――――――――――――――――――――


「君にこのアイテムを預けよう」


 課長は木でできた光沢のある細長い……剣?

 とにかく何かを俺に差し出した。

 確か刀っていうんだよな、これ。

 どこかの国でサムライとかいう職業の人が使うんだよな。


「これは?」


「これはなんでもキレる剣だ」


「へー」


 そいつはすげぇや。


「なんで俺に?」


 まさかもらえるのか?


「この剣を鞘から抜いてみてくれ」


「はあ……」


 俺はバカにされてるのか?

 その鞘ってのはこの入れ物だろ?

 んなもん、こうやって……。


「何しやがる!」


「へ?」

「課長、何か言いました?」


「いや?」


 課長はとぼけた顔だ。

 からかっているのか?


 俺はもう一度剣の持ち手に手をかけて、力を込め……。


「だから、触るなって言ってんだろ!」


「え?」


「これ、課長ですか?」


 むしろ、そうじゃなかったら……。


「い〜や、違うよ」


 ええ!?


「じゃあ、誰が?」


「おそらくその剣だね」


「剣……」


 俺は今も握っている剣を……。


「早く手を離せ!

「汚ねー汗が染みるだろ!」


「うわ!」


 再び誰かの声が頭に響いた。


「この剣は触れた人物に語りかけるんだよ」


 ほう。


「それも怒りながら……」


 あー……確かに。

 でも……。


「なんで俺なんですか?」


 俺がこの質問をするやいなや、課長はニヤリと笑った。


「こういうお客様には馴れているだろう?」


 なるほど~。

 さっきのお客様もブチギレてたからな〜。

 そんな人の相手は……まあ……馴れてる。


「はい、そうですね」


「それで、私が何を頼みたいかというとだね」


 あ、まだ話は続くのね?

 てっきり、預かるだけかと。


「この刀を鞘から抜いてほしいんだよ」


「抜く……」


 そんなの、こんな風に……。


「やめろ!!!」


「うわ!!」


 さっきの数倍はする怒号が頭に響く。


「もうわかったと思うが、そいつは抜こうとすればするほど大声を出す」

「おかげで、我々は未だにその刀を鞘から抜けずにいるんだよ」


 変なの。

 というか……。


「そもそもなんで抜かなきゃなんねーんですか?」


 別に無理して抜く理由は……。


「それはかつて『切断王』と呼ばれた人物が持っていたと言われる刀でな」


 『切断王』か……ちょっとかっこいいな。


「伝承によれば、なんでも斬れるらしい」


 ははーん。


「だから、それを確かめたいんですね」


 課長はうなずいた。


「ものわかりがよくて、助かる」


 そういうことなら……。


「任せてくださいよ!」


「ありがとう」


 ただ……。


「一つ気になってることがあって……」


「なんだね?」


「この入れ物……鞘はどうして斬れないんですか?」


 俺がそう言うと、課長は少し首をかしげて


「なんでもキレる剣でも、キレルものは必要なんじゃないか?」


 と言った。

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