第20話



薄暗い個室は、12畳ほどの洋室だった。

床は、合板でなく単板、磨き込まれている。

窓際には白いカーテンが掛けられており

そこが、病室、を強くイメージさせた。

壁はオールド・ファッションの漆喰壁で

昭和初期の西洋館のような感じ。

その、中央付近に薗子は、静かに眠っていた。



....やっと、出逢えたのに......。

静かに、眠ったままの薗子は水晶のように美しく

僕は、落雷に打たれたように陶然と、立ちすくんだ。


この子と僕は、1年前、16歳の春から恋をしていた、と言うのだろうか....。



全く記憶が無い。それに、メールを寄越したのは

一体誰なんだ?


眠っている薗子が、メールを出せる訳が無い。



逢えた、と言う喜び、それと.....

言葉を交わす事も出来ない、と言う空しさ。


僕は、何故か涙ぐんだ。そんなに涙脆い男じゃない筈なのに。


涙をさとられまいと、斜め後ろに居る汀子

を見ると、彼女も涙ぐんで居た。



俯いて、涙している汀子は、とても淋しげで

僕は、思わず肩を抱き寄せようとした。


汀子は、体を硬くし「...すみません...。」と

か細く言った。








「5年になります....姉が17歳の夏、突然

眠りから覚めなくなりました。

ボルンホルム病と言う、とても珍しい病気だそうです。」




僕は、訳が分からなくなった。

「では、今、ここで眠っているお姉さんは...21歳?」




汀子は、頷く。






連想する。薗子は、僕をと同じ17歳で、16から僕とつきあっているようだった。

でも、僕自身には記憶が無い、スマート・フォンを貰うまで、薗子の存在は知らなかったのだ。


その僕と、僕と親しいと言う薗子。

あのメールは、5年前から送信されたものだ、と言うのか?


僕は、5年前の薗子にメールを送信していた、と言うのだろうか?






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