第21話 カラスのステーキ~黒い燃えカスを添えて~

 ウィンドツリーの燃えカスを片付け、ダンジョンの奥へ歩みを進める。


 ふと、バサバサという鳥が羽ばたく音がした。

「カァーカァー」という鳴き声も聞こえてくる。

 もちろん、こんなところでただのカラスがモンスターの死体を突っついている訳がない。

 モンスターだ。


 事前に調べた《AD-100ダンジョン》に出没するモンスターの中に、リーフウィングクロウというモンスターがいた。

 翼の羽毛が植物の葉になっているため、カラスとはいっても体は緑色。

 そこに赤い目を持つという、なかなかに特徴的な見た目のモンスターである。


 主な攻撃スキルは【シックススラッシング】。

 左右の足にある計6本のかぎ爪を素早く振り、同時に6個の斬撃を飛ばしてくる。

 攻撃前に特徴的なモーションはあるものの、斬撃は目に見えないし、正面から6個の斬撃が等間隔で飛んできては地中の潜りでもしない限り避けられない。


【ジグザグジャンプ】でぴょんぴょん跳ねようものなら、あっという間にズタズタである。

【グラウンドウォール】で防ぐのがベストだ。


【シックススラッシング】では、6個の斬撃が連続で5回飛んでくる。

 5回しのげば、こちらが攻撃するターンだ。

 使いこなせるかは分からないが一応【シックススラッシング】をコピペし、後は【ヘルフレイム・ネット】で焼きガラスにしよう。


 ダンジョンの奥に、ギラリと赤い目が光った。

 バサバサという音が大きくなり、リーフウィングクロウが現われる。

 翼を広げた時の大きさは3mほど。

 街中でゴミを漁っているカラスの2倍ほどだ。


「カァァァカァァァ!!」


 緑色のくちばしを開き、リーフウィングクロウが鳴き声を上げた。

 俺は早々と、防御に入る。


「【グラウンドウォール】!!」


 土壁の陰から少し顔を出して覗くと、リーフウィングクロウが空中で翼を大きく広げ、土壁をにらみつけている。

 翼が3度、バサバサと音を立てた。

 リーフウィングクロウが空中で一回転する。

 攻撃前のモーションだ。


 斬撃が来る。

 俺は、すっぽりと土壁の陰に隠れた。


「カァァァカァァァ!!」


 大きな鳴き声と共に、風を切る音がした。

 直後、土壁に斬撃が当たりザシュッという音を立てる。

 土壁で向こうの状況が分からない以上、この場で頼りになるのは聴覚だけだ。

 俺は耳を澄まし、ダンジョン内に響く音を注意深く聞く。


 再び、ザシュッと音がした。

 これが2度目の斬撃。

 連撃が来るという情報通りだ。


 3度目のザシュッという音。

 パラパラと、土壁の削れた部分から土の落ちる音もした。

 残り2回。

 持ちこたえてくれよ。


 4度目のザシュッという音の後に、土壁がミシッときしんだ。

 ただ、まだ崩れそうにはない。

 斬撃は残り1回。

 何とか耐え切れそうだ。


「カァァァカァァァ!!」


 5度目の斬撃の前に、リーフウィングクロウがもう一度鳴き声を上げた。


 そして、最後のザシュッという音がする。

 ミシミシと土壁がきしんだが、崩れ落ちることはなかった。

 これにて、リーフウィングクロウのターンは終了。

 俺の番だ。


 俺は守ってくれた土壁をポンポンと叩くと、その前に飛び出した。

 そして、迷うことなく右手を伸ばす。


「【複製転写コピーアンドペースト】ぉぉ!!」


 俺は飛べないが、跳べる。

【シックススラッシング】と【跳躍】を組み合わせれば、使えないことはないだろう。


「【シックススラッシング】!!」


 [スキル【シックススラッシング】を複製コピーしました。転写ペーストしますか?]


「Yes!!」


 [スキル【シックススラッシング】を転写ペーストしました。]

 [スキル【シックススラッシング】を習得しました。]


 天井の低いダンジョンでは早速【シックススラッシング】とはいかない。

 普通に倒そう。


「【ヘルフレイム・ネット】!!」


 俺は、十八番になりつつある獄炎の網を放った。

 リーフウィングクロウも空中で回避を試みるが、その緑色の体に炎が絡みつく。

 翼を封じられた赤目のカラスは、そのまま地面に落ちた。


「ギャァァギャァァ!!」


 網の隙間から顔を出し、リーフウィングクロウが悲鳴に近い声を上げる。

 翼を広げようと必死にもがくが、ごうごうと音を立てる獄炎がそれを阻んだ。


 俺は【鑑定眼】を使い、焼きガラス完成までの時間を計算する。

 リーフウィングクロウは攻撃系スキルが強力で攻撃力が高い分、防御力が低い。

 50秒あれば十分だろう。


「1、2、3…」


 俺はウィンドツリーの時と同じく、カウントを始めた。


「ギャァギャァ…」


 カウントが進むにつれて、リーフウィングクロウの鳴き声が弱まっていく。


「48、49、50。」


 調理時間50秒ながらレアもウェルダンも通り越した、チキンステーキならぬクロウステーキの完成。

 というより、ただの燃えカスである。


 俺は酸素ボンベの状態を確認した。

 大丈夫、傷一つ付いていない。


【シックススラッシング】は、天井の高いボス部屋で使ってみることにしよう。

 そのためにも、早くボス部屋にたどり着くことだ。


 ボス部屋までの道にはウィンドツリーとリーフウィングクロウが待ち構えている。

 その全てが、真っ黒な燃えカスになることだろう。


「その探索者が通った道には、黒い燃えカスしか残らない。

 モンスターなど、跡形もなく消え去るのだ。」


 うん、魔王は魔王でも暴君だな。

 いや、魔王は基本的に暴君か。


 くだらないことを考えながらダンジョンを歩けば、再びバサバサという音が聞こえてきた。

 俺は両手の指をゴキゴキと鳴らし、迎え撃つ態勢を整えた。


「お前もステーキにしてやろうかぁぁ!!」

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