とある将棋部員たちの日常

takemot

第1話

 放課後、将棋部の部室、3人で活動中。


「むう。困った。」


 頭を抱える僕。(将棋中)


「ふふ」


 笑みを浮かべる先輩。(将棋中)


「・・・・・・ちっが―――う。」


 突然叫び声をあげる先輩妹。(お怒り中)


「ちょ、いきなりどうしたんですか。」


 部室に響き渡った妹さんのせいで、僕の思考は完全にストップしてしまった。まあ、これ以上考えたところで、先輩を逆転するのは難しかっただろうが。


「・・・対局中なのに。」


 先輩は、妹さんにジト目を向ける。それを見た妹さんは、一瞬たじろいだが、すぐに勢いを取り戻した。


「ご、ごめん、姉さん。・・・でも、二人とも!!これで本当にいいの??」


 今の妹さんからは、「うがー」という擬音が聞こえてきそうだ。


「?」


「?」


 訳が分からず、首を傾げる僕と先輩。


「・・・ああ、もう。つまり、二人は、将棋ばっかりして、青春を無駄にしていいのってこと!」


「・・・将棋してる僕たちって、青春を無駄にしてるんですか?」


「・・・さあ?」


 急にそんなこと言われても、僕も先輩も、将棋が好きだから将棋部にいるわけで。もちろん、妹さんも将棋が好きはずなんだけど・・・。


「そりゃ、私も将棋は好きだよ。でもね、来る日も来る日も将棋ばっかりして、色恋沙汰の一つもないなんて、それもどうかと思うわけ。」


「はあ・・・。」


 どうやら妹さんは恋に飢えているようだ。


 ・・・・・・しかし、・・・恋・・・ねえ。


 ちらりと先輩を見る。先輩は、「いろ・・・こい?」とつぶやいていた。・・・あ、ダメだこれは。


「ぐむむむむ。」


 特に大きな反応を見せない僕らの様子を見て、妹さんはうなっていた。


「・・・えーっと、つまり、妹さんは、恋バナがしたい的な・・・。そういうことですか?」


 とりあえず、これ以上反応しないと面倒なことになりそうだ。適当に合わせておくのが吉と見た。


「そう、そうだよ後輩君!さあ、私と一緒に恋バナしよう!!」


 目をキラキラとさせながら僕に詰め寄る妹さん。・・・というか、いい加減『後輩君』はやめてほしい。同年代なんだし。・・・まあ、僕も彼女のことを妹さんと呼んでいるからおあいこなのだろうか。


 なぜか、妹さんと僕は、先輩視点からお互いの呼び名を言い合っているのだ。先輩から見た彼女は妹。だから、僕は彼女を『妹さん』と呼ぶ。そして、先輩から見た僕は後輩。だから、彼女は僕を『後輩君』と呼ぶ。・・・よくよく考えれば、なんだこれは・・・。


 さて、話を戻すとしよう。


「恋バナって言ったって、・・・妹さん、好きな人いるんですか?」


「そんなの決まってるじゃない。」


「誰です?」


「ね・え・さ・ん・・・・・・きゃ♡」


「・・・はあ~~~。」


 先輩が、それはそれは大きなため息を吐く。あきれているのが目に見えて分かる。


「えーっと・・・あ、はい、お幸せに・・・。」


「君、投げやりになるのはやめてほしい。どうにかして、この子。」


「いや、・・・どうにかしてと言われましても。」


 恥ずかしそうに両手で顔を隠しながら、指の隙間からちらちらと先輩を見る妹さん。近づきたくない部類に入る人とはこの人のことを言うに違いない。


「手遅れですね。」


「そこをなんとか。」


「むむ、そこ!私がいる前でイチャイチャしない。せめて私を混ぜなさい!!」


「・・・末期ですね。」


「・・・末期だね。」


 先輩・・・目が死んでるじゃないですか・・・僕もですが。


 どうしてこうまで先輩と妹さんの性格が異なっているのか。世の中は不思議でいっぱいである(遠い目)。


「ちなみに、後輩君の好きな人は?」


「・・・へ?」


「いや、だから、好きな人。」


・・・・・・


・・・・・・


「・・・・・・イマセンヨ。」


 ・・・・・・


 ・・・・・・


「姉さん、その将棋盤、移動しようか。」


「分かった。」


 二人は、先ほど僕と先輩が使用していた将棋盤を移動させた。まだ対局途中なので、ゆっくりと、駒が動かないように。将棋盤が部室の隅の机に置かれた後、二人は、部室中央の机と椅子をがたがたと移動させ始めた。それをボーっと見ていた僕。・・・早く逃げなかったことを、この後後悔することになるとも知らずに。


「さあ、後輩君、そこに座って。」


 そう声がかかったのは、机と椅子が面接会場のように並べられた後のことだった。二つの机と椅子。そして、それらに向かい合う様に、椅子が一つだけ置かれている。訳が分からず、僕は言われたとおり、一つだけぽつんと置かれた椅子に座る。二人は、僕が座ったと同時に、並んだ机と椅子の方に向かい、座った。


「えー・・・ただいまより、尋問を始めます。姉さん、どうぞ。」


 ・・・甘かった。面接会場のようだと思った自分を殴ってやりたい。


 ここは、尋問会場だった。


「・・・先ほど君の発言には不自然な間がありました。よって、その理由を問いただしたいと思います。」


 先輩・・・目つきが怖いんですが・・・。


「さあ、後輩君。さっさと吐いちゃいなよ。楽になるよ。」


 妹さん・・・ニヤニヤするのはやめてください・・・。


「・・・光の速さで明日へダッシュさ!」


「あ、こら、ベランダに逃げるな。」


 後ろの窓が開いていたのが幸いした。僕は、椅子から立ち上がり、ベランダへと逃避行する。


「マテ~~~。」


「妹さん、恐いです!」


「ダイジョウブ、イタクシナイカラ。」


「ひええ。」


 ベランダで追いかけっこをする僕と妹さん。


 ちなみに先輩は・・・


「・・・本でも読もう。」


 本を読んでいた。助けてくださいよ・・・。




 今日の将棋部活動日誌

・恋バナ

・追いかけっこ


・・・・・・将棋部?

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