第22話麻衣ちゃんと話したいな

 昨日は深夜までアイスを食べながら麻衣と一緒に話していたこともあって、日曜日の朝はお昼前に起きてしまった。生活サイクルが崩れてしまいそうで怖いけど、可愛い義妹のお願いだったので後悔はしていない。


 ずっと肌が触れ合う距離だったし、たまに「聞こえないので耳元でもう一度」と言われたときは戸惑いはしたけど、俺たちの距離は順調に縮まって仲良くなっていると思う。


 両親が日本に残っていたら、ここまですぐに兄妹らしくなっていたとは思えないので、出張に行ってくれた二人に感謝してもいいかな。


 遅い朝食としてトーストと目玉焼き食べた後、麻衣は仕事があると言って部屋に戻ってしまった。なんとすぐにMIXの仕事が見つかったみたいで、良い物を作るって張り切っていた。麻衣の特徴が行かせる仕事が見つかったようで、機材を貸してあげて本当に良かった。


 俺も負けてはいられないな。

 二度寝の誘惑を打ち切って、溜まっていた家事をこなすとしよう。


 麻衣の下着だけが抜かれた洗濯物を洗濯機に入れてから動かすと、コードレスの掃除機で部屋のホコリを取っていく。それが終わったら空き缶やペットボトルを捨てるために袋をぶら下げて外に出た。


 マンション内にあるゴミステーションは、一階に降りてから少し離れた場所にある。両手にゴミ袋をぶら下げて歩いていると、お腹がぽこっと出た中年のおじさんの姿が見えた。彼は隣に住む独身の男性だ。確か名前は……高明さんだったかな? 顔を見るのは、引っ越しのご挨拶をした以来だ。右手にゴミ袋がぶら下がっていて、目的地は一緒みたいだった。


「こんにちは」


 俺が挨拶をすると高明さんが振り向いた。なぜか驚いた顔をしている。


 目がキョロキョロと動いていて不審者のようだ。隣に住んでいると知らなかったら通報してたかもしれない。


「こんにち……は」


 絞り出すような声で返事してくれると、小走りでゴミステーションに入ってしまった。人との付き合いが苦手なんだろうか。そんな疑問を持ちつつ、足を止めてビニール袋を地面に置く。このまま俺もゴミステーションに入ったら気まずいだけなので、スマホを見て高明さんが出てくるまで時間を潰すことにした。


◇ ◇ ◇


 ゴミを捨て終わった後に洗濯物を外に干したら、やることがなくなってしまった。


 優秀なエンジニアであれば休日とか関係なくプログラムの勉強をすると思うんだけど、今は仕事をする気は起きない。


「麻衣ちゃんと話したいな」


 ふと頭に思い浮かんだことを口にしてしまった。本人が聞いたら変な誤解を生んでしまいそうな言葉だったので、リビングに誰もいなくて良かった。


 先ほどの思いつきを実現するべく行動に移すことにする。


 台所にはエスプレッソマシンがあるので、水を入れてからコーヒーのカプセルを入れて二つのコップに注いでいく。片方のコップには砂糖をスプーン一杯入れておいた。麻衣は甘いのが好きだからな。このぐらいにしておかないと、苦そうな顔をしながら我慢して飲んでしてしまう。


 トレーにカップを入れてから麻衣がいる部屋の前に立つ。


「コーヒーを作ったんだけど一緒に飲まない?」


 返事はなかった。今度はドアをノックしてみる。やはり反応はない。MIXをしているといってたから、音に集中して声が聞こえないのだろう。


 そこまで気が回らなかった。失敗したな。


 リビングのローテーブルにトレーを置いてから、スマホでコーヒーを飲むか質問をしておく。これで気づかなかったら二人分を一人で飲むか。そんな覚悟を決めてからコップを口につけると、部屋のドアが勢いよく開いた。


「飲みますっ!」

「ここで飲む? それとも仕事しながらにする?」

「一緒に飲みたいです」


 少し考える素振りをした麻衣だったけど、二人で飲むことを選んでくれた。気持ちが通じたように感じて、ちょっと嬉しい。


 麻衣がソファーの所にまでくると、昨日の夜と同じく密着と言っていい距離に座った。お互いの腕が触れ合っている。髪から甘い香りが漂ってきて、俺の誘惑しているように感じてしまう。


 何を考えているんだ。俺は麻衣の義兄だから信用してくれて近くにいてくれるんだ。変なことは考えてはいけないと言い聞かせる。


 首を横に振ってから麻衣のコップを手渡しする。


「ありがとうございます」


 笑顔で受け取ると可愛らしい唇をコップにつけて飲む。

 その姿が可愛いと感じてしまい目が離せない。


「甘い……砂糖を入れてくれたんですか?」

「麻衣ちゃんは甘い方が好きだと思ってね。余計なことした?」

「そんなことありません。好みの甘さでした。ありがとうございます」

「良かった。次からも砂糖を入れて作るね」

「はい!」


 素直で良い子だな。社会人になってから、休日は一人か親父と過ごすことが多かったので、こんな日が送れるとは思ってなかった。


 こういった穏やかな日々が毎日続いて欲しい。

 そんな願いをするぐらいの欲望は俺にだってあるのだ。

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