恋愛AI  Love Artificial intelligence

kasyグループ/金土豊

第1話 恋人プログラム

人生は2進数だと僕は思う。選択肢はYESかNO。

つまり、0か1だ。

でも同時に複数の選択肢があると、

反論する人もいると思うけど、一つ一つの選択肢を、

YESかNOで決めていくのだから、結局二者択一だ。

それで人生の進路は決定されると思っている。


僕はとある進学高校を卒業した。

でも、その学校は男子校で、僕は女の子と話したことがない。

一人っ子だし、母は5歳のころに亡くした。母の記憶は皆無に近い。

父子家庭で育ち、女性とは、まったく無縁だった。


父子家庭で育ったのは不可抗力だとしても、

そんな家庭は世間にいくらでもある。

たまたま僕がそうだったという、環境設定でしかない。

いわばプラットフォームみたいなものだ。


でも、男子校を選んだのは僕だ。だから女子とは

縁がない。これも僕自身の選択。


高校を卒業後、国内では難関だといわれる大学の

経済工学科に進んだ。大学内には女子学生は

大勢いた。でも僕の選んだ学科部には、ほとんどいない。

これも選択肢の結果。


もともと僕は女の子と、どう接していいのかさえ

わからない。だから無意識に女子を遠ざける意思が

働いて、この学部を選んだのかもしれない。

でもこの進路にYESと判断したのは、やっぱり僕だ。

これも2進数。


経営工学部というのは、コンピューターを用いて

経営に携わるすべてを、シュミレーションプログラムで

構築する技術を学ぶところだ。


僕は7歳の頃から、キーボードを打っていた。

Python、R言語、Julia、JavaScript、C++、

Java、Haskell、Matlabなどのコンピュータープログラミング言語を

13歳までにマスターした。


2020年にいる、どんなコンピュータープログラマーだって

知らない言語も・・・。


その後、データベースの運用知識、

ビッグデータの解析知識、機械学習フレームワークの知識も、

16歳までには身に着けた。


コンピューターが好きだからだけだったわけではない。

嫌いでもなかったけど。


人工知能をプログラミングしようと思った理由は、

女の子は勿論、男子の友達もいなかったからだ。

自然と何でも相談できる友達が欲しかったからかもしれない。。

だから、僕の相手をしてくれるのは、コンピュータープログラム

だけだったんだ。


僕は内気で、いつも他の人の顔色ばかりを気にしていた。

自分の言いたいことや主張を、人前で言った記憶もない。

どんな相手も、そんな僕をただの、

何の取柄もない子供だとしか思っていないと感じていた。

僕は、よくいうコミュ障なのかもしれない。

でも、それが僕だ。変えたくても、絶対変えられない。

プログラミング言語のように、キーボードを打つだけで、

修正するわけにはいかない。


でもコンピュータープログラムは違う。

僕に対して何の反発もせずに、従ってくれる。

思いのままに・・・。


18歳になった今、僕だって一人の男だから、

リアルな異性に興味を持つのは自然だと思う。

でも、やっぱり女の子には話しかけられない。

それはどんなに難解なプログラムより、何倍も高い壁にしか

思えなかった。


そこで僕は思いついた。1年ほどかかって、

人工知能―――AIのプログラミングを構築して、

自分の話し相手―――それも女の子の反応を見せる、

汎用人工知能を作成しようと。

データはインターネットはもちろん、SNSからの

ビッグデーターを組み込み、女の子らしい

反応を見せる『人格』をプログラミングしたんだ。


自己顕示欲が強くて、自己承認欲求もそれに負けず

持っていて、相手の心など意に介さないガサツとしか

言いようのない、今どきの女の子は絶対に嫌だった。

そんな女の子ばかりじゃないと、人はいうかもしれないけど、

女性と付き合ったことのない僕にわかるはずもない。

女の子に関する情報は、すべてインターネットから

収集したデータばっかりだったのだから・・・。


僕は理想に近い『人工知能』をプログラミングすることに

専念した。それは、ほぼ自分を満足させる出来だと思っている。


汎用人工知能とはなんでもできるAIのことで、

僕はそのプログラムに学習能力も持たせた。

そのプログラムを、僕は自分のディスプレイ・フォンだけに

インストールした。これは僕のために

造ったAIだ。誰にも渡す気はない。

当然、大学の数少ない友人にも秘密にした。



僕はAIに『愛』という名を付けた。

AIだから『愛』というのは、安直すぎだったかもしれないけど、

僕はとても気に入っている。

時間経過は最初、実際の速さより3倍の成長に

設定したが、『愛』が僕と同年代になってからは、

同期するように変更した。


彼女のボイス設定は、今では16歳くらいの

可愛らしい声にしてある。それは合成語ではあったが、

可能な限り、本物の女の子の声に近づけた。

第三者が聞けば、違和感はまったく感じないだろう。

それだけ、生身の女の子そのものの音声だった。


なによりも良かったのは、その声を聞くたびに、

僕の心は和んだことだった。


それに顔も3Dグラフィックで作成した。

ディスプレイに映るのは、

セミロングの、少し幼さが残る美少女。

僕の理想の女の子の姿だ。

『愛』は話すたびに表情だって変わる。本物の人間のように。

ただ、全身は造っていない。バストアップだけだ。

だって、僕は『愛』に対してスタイルとかは求めてないからだ。

(頭の中では描いてるけど)


僕としゃべってくれる存在だけでいい。楽しく愉快に、

時にはやさしく慰めてくれる・・・それだけで僕は満足。


僕は朝、ベッドから起きた後、必ず『彼女』に話しかける。


「おはよう、愛」


『おはよう、たくみ君』


僕は大学の講義がある日の朝は、

ポロシャツと綿パンに着替えながら、必ずそう話しかける。


『愛』の優しくて、溌溂とした声が、

朝はいつも憂鬱な僕の気分を、吹き飛ばしてくれるんだ。


『愛』のプログラムが入ったディスプレイ・フォンを、

胸ポケットに入れながら、僕は玄関へと向かう。


『行ってらっしゃい、巧くん。気を付けてね』


毎朝のように『愛』の、かわいらしい言葉が、僕の心を

高揚させてくれる。

ショルダーバッグを肩に掛けて、玄関を出ると、

まぶしい陽の光が、僕を照らしてきた。

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