第17話悪夢と覚えのない感触

***


瞼を上げると視界には白一色の空間が広がるだけだった。

足もとに視線を落とすが変わることなく白一色だ。

明らかに現実リアルに存在する空間ではない。

誰も居らず、私だけがぽつんとこの空間に取り残されたかのような感覚が身体中を支配していく。呼吸が浅くなっていくのを肌で感じるだけで、どのような行動アクションを起こせば現実世界に戻れるか分からずじまいだ。


私は床から上体を起こし、立ち上がり足を踏み出し、歩きだした。

30分ほど歩き続けると、視界に人影らしきものを捉え、恐る恐る近付くとある人物が控えめに両手を広げ待ち構えていた。


待ち構えていた人物は母で彼女のお気に入りの衣服を身に纏っていた。


感じていた恐怖心にムチ打って歩き続けた足が意思を宿したかのように私の意思とは勝手にスピードを速め駆け出し、両手を広げ待ち構える母の胸に飛び込んでいった。


母は私の背中に両腕を回し、抱擁してくれ、優しく声を掛けてくれた。

「遅かったじゃない、芽愛。おかえりなさい......心配してたのよ、芽愛のこと。芽愛が無事なのが何よりだわ」

「えっ?うっ......うん、心配させてごめんなさい。あのっ......わた──」

何処にも出掛けてないのに、遅いって......何を言っ──。

「いい娘ね、やっぱり私の娘は誠実だわ。それに──」

「離しぃっ、てぇっっ!」

彼女が続けようとした言葉がフッと脳内に浮かんだと同時に叫んで、彼女が回していた両腕を力ずくで解いて背後へと後ずさりして距離を取った私。

「誰、なの......?」

恐怖で身体が震えだし、まともに立ち続けることが難しいなか、勇気を振り絞り母の姿をした生物ナニカに訊ねた。

「誰って、私よ。芽愛の母よ、私はっ!芽愛のッあナたの母よっ!」

母の姿をした生物ナニカは叫びだした。


生物ナニカは、さながら幼い子供が喚き散らしているように、叫びだした。


「違う......ちが、うよ。心配してたとか、誠実なんて言葉を私に対して一度も言ったことない親だもんっ!いい娘なんてあのひとが言うかっっ!誰だよッッアンタァッ?」

「そう、カァ......キミはそうヤッテ──」

生物ナニカは、一人?で納得したように呟いて、母の姿だった生物ナニカはスライムのように液状化して、消えていった。


呆然と立ち尽くしていた私に背後から声を掛けられ振り向くと、灯莉の姿があった。

「芽愛、私と一緒に行こうよ」

「灯莉?灯莉なの?ねぇっっどうなの?答えてよぉー!」

私は疑心暗鬼で情緒不安定になっており、本物の灯莉か分からず一心不乱に叫び続けた。

「灯莉だよ、私。灯莉......肌が敏感で撫でただけで──」

彼女が言い終わらないうちに私は駆け出し、彼女の胸に飛び込んだ。

彼女が私の身体を支え切れずに倒れ、私も同時に倒れて痛みを感じ──。


***


パッと瞼が上がり、視界には見慣れた自宅の──私の自室の天井があった。


はっああっはっああっはぁはぁ、と呼吸が荒く顔から腹に掛けて抱擁されていたかのような感触があった。


ベッドを下り、階段を下りていると母の笑い声とテレビから流れるニュースキャスターの声がし、安堵した。


「食事摂れたんだね、あんな具合悪そうにしてたのに」と母から声を掛けられ、首を傾げた私だった。






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