男子校に入学したはずなのに、クラスメイトがどいつも女子っぽすぎる件

怪物mercury

プロローグ

 俺の名前は佐藤カヅキ。今日は、高校の入学式だ。自慢じゃないが近くでは有数の偏差値を誇る男子校に、高校受験で入った。


 女子とのコミュニケーションにかなりの難があり、いつも話しかけられてはしどろもどろになったり、言葉に詰まったりする。だから、男子校を受験した。


 小学校からの幼馴染であるカオリとだけはまともに話せるが、カオリは男っぽいから女子として意識していないだけ。好きとか、そういうのもない。


 普段の朝なら、俺はかなりのんびり起きただろう。だが、今日は別だ。もちろん、入学式だからというのもあるが、それよりなにより俺自身が高校に入って新しく友達を作る準備をしないといけない。


 男子校と言えば何か!答えは簡単!ノリのいい奴の勝利である!


 そこで俺は考えたのだ。例えば、入学式に思いっきり女装なんてして行ってやったらどうだろうか、と。


 カオリにこのことを話し、爆笑されつつも、女装のノウハウを学ぶ。なるほど、化粧はむしろ薄め、髪は下手にロングのヅラとかはつけないほうがよさそうだな、などなど。


 軽く明るい色に染めた髪は、何日も前から痛まないように母親のリンスを勝手に使い、さらさらにしてある。服装は、最近は性差別がどうのとかでズボンの女子も増えているし、変えなくていいだろう。


 胸への詰め物は自分で買った。カオリに貸してほしいと言ったら、ガチの右のグーが飛んできた。


「叩くならパーだろ。」


 と文句を言ったら、


「それはあんたの頭でしょ!」


 と、今度はチョキで目つぶしをしてきた。恐ろしい女だ。持っているなら、貸してくれてもいいと思うんだけど。


 もちろん、パットだけでどうにかできると思うほど、俺もバカじゃない。きちんとタオルでずれないように固定して、ボディラインもごまかせるように、きちんとタオルを巻きつける。


 鏡をみて、ちょっとした美人が移っているなと自分の顔に見惚れること二秒。


「カヅキィ!遅刻するよぉ!」


 と母親の声が二階から聞こえてくる。


「朝飯は食パンだけでいいから!」


 と、キッチンの食パンを咥えると、こんな姿を母親に見つからないうちに家を出た。





 まず、最初に果たさないといけない約束がある。


 例のパットの件以降、へそを曲げてしまい、女装を見せることで許しをもらったカオリと、最寄りの公園で待ち合わせだ。


 こいつのことは、女子として好きではないものの、美少女であることは認めよう。男っぽい言葉遣いと、陸上で引き締まりすぎた体をどうにかすれば、かなりモテるのではなかろうか。


 日に焼けて茶色くなった長髪をポニーテールにしてるいつもの姿は、待ち合わせの公園のそばに近づいただけでわかった。


 冷静に考えれば、そもそもこんな時間に公園を利用する奴なんてそういないか。


「おい、カオリ。」


 驚かせてやろうと、少し女子っぽい声を心がけたら、結構うまくいった。いいなこれ。男子校名物、一発芸に耐えれるぞ。


「えっと、前に会ったことあるっけ?」


 相変わらずとぼけるのが上手いカオリは、振り返ってこちらを見ると、いぶかしげに聞いてきた。


「俺だよ、オレオレ。」


「詐欺にあうほど、お金ないですけど。」


 急に敬語になったカオリは警戒するようにあたりをチラチラ見ている。俺といるのがそんなに恥ずかしいかコラ。


「だからあなたの幼馴染のカヅキ君ですが。」


 皮肉っぽく返してやると、カオリはフリーズした。


「あれっ?カオリさーん?カオリさーん!?」


「ふあっ!?」


「うわっ!?」


 急に動くな、びっくりするから。


「なんだよ、そんな変な目で見て。笑わば笑え、だ。」


 少しイラっとしてので言わせてもらうと、


「その声は、本当にカヅキなのかっ!?」


 ようやく現実に頭が追いついたといった雰囲気で聞いてきた。もしかして、本当にわからなかったのかよ。幼馴染を忘れやがって、酷い奴だ。


「悪かったな、女装の才能があって。

 でも、これでお前よりももはや俺の方が可愛いだろ?」


「あ、ああ。女としても幼馴染としてもすごく悔しいし、やるせないが……その通りだな。」


 俺のすごさを思い知ったか。


「って、いけね。ウチ、もう行かないと、始業式始まっちゃうよ。お先に、カヅキ!」


 人のことを呼び出したのは向こうのはずなのに、さっさと先へ走って行ってしまった。


「あ、おい、待てこら!」


 あいつは、足がくそ速いから追いつけないのはわかってはいるが、俺の立場的に、追わないという選択肢はなかった。





「はあっ、はあっ、もう無理だぁ!」


 幽霊部員だったとはいえ、中学のころはバスケ部だった俺を撒くとは、また腕、いや、脚を上げたな、あいつ。


 最寄り駅で電車に乗り、揺られること西に5分。そこで降りて、再び三分ほど歩くのが俺の学校への道である。俺の通う学校には系列校があり、駅を挟んで反対側に同系列の女子校がある。


 カオリはそちらに通うらしい。電車を降りる中にも、ここまでは共学みたいな雰囲気があり、駅の北口、南口で男女が分かれるのだ。


 この珍しい構造は、この駅周辺の雰囲気丸ごと形作っていて、男子校のある北側にはラーメン屋や、数は少ないが大型のジムなどがある。南側には、少しおしゃれなカフェや、服屋などがあるらしい。一袋持ってきたのは間違いだったことに気が付きつつも、持って帰るのも時間的に無理なので食パンの最後の一枚を咥え、改札を飛び出る。


「うわあっ!」


 改札を出たところで、同じように食パンを咥えていた男子生徒とぶつかる。随分声が高いな。


「わ、わりぃっ!」


 女装なのにうっかり出た男喋りに、こいつは気にすることなく、


「だ、大丈夫!

ほ、本当にこんなことあるんだ……。」


 とか何とかもごもご言っている。


「すまん、俺も急ぎだから!

俺の名前はカヅキ!お前も新入生だろ?また後で会おうぜ!」


 運よく地面に落とさず、制服の上に転がっていた食パンを咥えなおすと。俺は人の流れに沿って走ることにした。


 そう。この時、太陽が左手にあることに気が付いていれば、もしかしたら俺の学校生活は平穏そのものだったかもしれない。

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