第7話正気もなにも

真田幸隆「殿。正気もなにも我らは武田晴信を倒さなければ生き残ることは出来ないのでありますから。」


私(村上義清)「(どういうこと?……いや)申してみよ。」


真田幸隆「はい。京と関東の対立並びに将軍の後継者を巡る争いにより、中央の政権が及ばなくなりましたり、中央権力の分裂を利用することにより、ここ信濃各地でもいくさが続いております。」


私(村上義清)「うむ。」


真田幸隆「自分の権益は自分で守らなければならなくなりました。」


私(村上義清)「確かに。」


真田幸隆「当時、各勢力の権益は国内外各地に分散していましたが、自分で守らなければならなくなるに従い飛び地が整理され『埴科は殿』のように集約。現在の形となっています。」


私(村上義清)「そうだな。」


真田幸隆「とは言えここは信濃。国土は広大であり、しかも山や川により各地が分断されています。加えて各勢力は基本親戚同士。諍いは起これど相手を根絶やしにするようなことはこれまでありませんでした。」


私(村上義清)「現に上田のことはそなたに任せているのだからな。」


真田幸隆「はい。ただ甲斐の武田。正確には武田晴信は違います。父である信虎を追放することにより当主となった晴信は外交方針を転換し、妹の嫁ぎ先である諏訪に攻め込みました。そこまではけっして無い話ではありませぬ。」


私(村上義清)「何か問題が発生し、自分が不利な状況に陥った時の窓口になってもらうため。あるいは周りの親戚筋から斡旋してもらうための縁組だからな……。」


真田幸隆「で。武田晴信は諏訪を破りました。いつもでしたらここで交渉の場が設けられ、権益の分配など話し合いが行われ。最終的には『現状維持』に落ち着くのでありましたが……。」


私(村上義清)「晴信は違った……。」


真田幸隆「はい。晴信は諏訪の当主に対し、『降伏すれば命は助ける』ことを条件に城の明け渡しに成功しました。当主は甲斐へ移動となるのでありましたが……。」


私(村上義清)「そこで亡き者にされた……。」


真田幸隆「はい。晴信の妹が無事。安全な甲斐に入ったことを確認しての所業でありました。その晴信の妹には諏訪との間に男の子がおり、当初晴信はいづれその男の子に諏訪を継がせることを諏訪の国人に伝えておりました。」


私(村上義清)「しかし実際は……。」


真田幸隆「諏訪には晴信の妹とは異なる母を持つ女の子がおりました。」


私(村上義清)「晴信はその女子を。」


真田幸隆「はい。そして二人の間に男の子が誕生しまして……。」


私(村上義清)「自分の血を継ぐ息子を諏訪に送り込む……。」


真田幸隆「いづれそうなることになるかと思われます。晴信は諏訪を攻め取った後、佐久へと兵を進めています。次なる標的となりますると勿論。」

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