エルフの姫に『弓聖』のジョブを貸与する

俺達はエルフ城にいた。


「トール様……」


 俺達の目の前にエルフの姫セフィリスが姿を現した。金髪をした絶世の美少女。白い肌は雪のようであった。

 どんな男でも目の前にこんな美しい少女がいたら胸が高まってしまう事であろう。


 昨日の事を思い出すと思わず気恥ずかしくなるが、できるだけ俺は平静を装った。


「? どうかされましたか? トール様」


 セフィリスはきょとんとした表情になる。天然なのか? あるいはエルフと人間では文化が違うのか。セフィリスは極めて平然としていた。まるで昨日何もなかったかのように。


 恥ずかしがっている俺が馬鹿みたいだ。俺は気を取り直す。


「どうしたんですか? セフィリス姫」


「トール様。呼び捨てで構いませぬ。あなた様はエルフの国を救った英雄なのですから。そして私の命の恩人なのですから」


「無理を言わないでください。セフィリス姫。あなた様はエルフ国の王女なのです」


 エミリアも一応は王女なのではあるが、それでも幼馴染のエミリアと最近知り合った、しかもエルフ国の王女セフィリスとでは立場が異なっている。


「わかりましたわ。トール様」


 結局そこは変わらないだな。まあ、仕方ないか。俺は溜息を吐く。


「それで何か、俺達に用でもあるんですか? セフィリス姫」


「トール様にお願いがあるのです」


「お願いですか?」


 真剣な顔つきでセフィリスは俺に言ってきた。恐らくそのお願い、とやらには重大な意味があるに違いない。


「エミリア様からお聞きしました。トール様には人に職業を貸し与える能力があるそうではありませんか。ですから私にその職業を貸して欲しいのです。エルフの国の危機を救う為、私自らが皆の力となりたいのです」


 セフィリスはそう語り始めた。


「エミリア……お前。俺の職業貸与者(ジョブレンダー)としての能力は軽はずみに他人に話しなって言ってたよな」


「ごめんなさい、トール。で、でもエルフのお姫様は他人じゃないわ。エルフのお姫様だし、重要な人物よ。話しておいてもいいんじゃないかと思ったの」


「全く……まあ別にいいが。エルフの姫であるセフィリス姫なら、別に話しても差し支えない」


 そして、その俺の能力を聞いたセフィリスが俺に頼みか。概ね想像がつく。


「俺の職業(ジョブ)を貸して欲しいというんですか?」


「は、はい。そうなります。貸していただきたいのです。私に闘える力を授けて欲しいのです。私はこの国の危機を救う、力となりたいのです」


「お貸しするのには構いません。俺の職業貸与者(ジョブレンダー)としての能力の使用制限は後二人分残っています。ですが、ひとつだけ断っておかなければならない事があります」


「はい、なんでしょうか?」


「俺の能力は職業を貸与するだけです。力を得る事はできますが、あなたの無事を保証するわけではありません。それを理解して頂けますか?」


「わかっております。私はこのエルフ国の危機を救うための力になりたいのです。その為ならこの命を捧げても構いません。安全な場所で安穏と暮らしていたいわけではないのです」


 彼女は強い眼差しで言った。美しい少女ではあるが、その美しさや姫としての立場に甘えない、凛とした印象のある少女だ。エルフなのだから年齢は少女どころではないのかもしれない。


 まあ、年齢に関しては置いておこう。女性に――ましてやエルフに年齢を訊ねるのは禁忌(タブー)であろう。世の中知らない方が良い事は確実に存在した。


「では、セフィリス姫。あなたに力を授けましょうか。邪神ネメシスと闘えるだけの力を」


 俺はセフィリスの額ら辺に手をかざした。


「職業貸与(ジョブレンド)」


 俺はエルフの姫セフィリスに『弓聖』の職業を貸し与えた。


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