異世界転書『アリスフレンズ』~今日もアリスは煙草をふかすし、龍を斬る~

奈名瀬

第1話&第2話 赤ずきん曰く『お茶会』はもはや隠語

「赤ずきん……あなたって本当にオオカミに食べられたのですか?」


 アリスは紅茶に角砂糖をいれながら訊ねる。

 しかし、


「は?」


 赤ずきんは苦虫を噛み潰したような顔で「そんなわけないでしょ」と吐き捨てた。


「オオカミじゃないわよ、ドラゴンよドラゴン」

「あら、そうなの?」

「あのねぇ、オオカミの口が大きいって言ってもたかが知れてるじゃない。飲み込む過程で噛まれたら死ぬでしょ?」


 赤ずきんの話を聞き、アリスは頷く。


「つまり、今からあなたがドラゴンに飲み込まれたならば、私はの役を射止められるという訳ね?」


 飲み終えたティーカップを大きなカバンにしまいながら彼女が独り言ちると、


「今更……そんなヘマする訳ないでしょ?」


 赤ずきんはだらりと提げていた巨大な斧を構えた。

 二人の目前には巨大な龍。

 少女たちの身の丈程と変わらぬ大きな牙を持つ生物に向かって――、


「さて、仕事を始めましょう? 急がないとお茶会に遅れてしまうわ」


 ――アリスは冗談ぽく言ってみせた。


◆ ◆ ◆


「今、なんて言ったの?」


 永い眠りから目覚めた白雪姫――つまり、わたしの前には血塗れになった同業者プリンセスがいた。


「だから、毒りんごを食べて永遠の眠りについたあなたをこので目覚めさせてあげたのです」


 血塗れになったアリスが、真っ白なスカートで手の血を拭いながら答える。

 目前の光景で嫌な予感がしたわたしは、思わず口元に手をあてた。


 血が……べったりとついている。


 直後、口の中にぬめりとした感触。

 意識がハッキリしてくる中、だんだん舌も感覚を取り戻し――


「う、うえええぇえぇっ……」


 ――白雪姫わたしは吐いた。


「大丈夫? 小人さん達呼ぼうか?」


 真っ赤な頭巾を赤黒く返り血で染めた赤ずきんが心配そうに訊ねる。

 でも、


「や、やめてっ! ちょっ――近づかないで!」


 わたしは怯え切った瞳を二人へ向け、永く寝ていたベットから転がり落ちた。


「なんで? なんで!? なんで王子様の愛のキスで目覚める筈のわたしが龍のハツで目が覚めるの!?」


 直後、ニヤニヤと笑う二人に向け、ぴっと指を差した。


「だいたいっ、なんで二人とも血塗れなの! なんで龍と戦ってるの!? 二人ともそんな出典じゃないでしょ!」


 すると、アリスはどこからか取り出した煙草くわえながら答える。


「重畳です。出典というあたり、私達が物語の登場人物ということは覚えてるようですね」


 さらに、赤ずきんが満足げに笑い、


「シンデレラはそこら辺も忘れてたからね。あれには困ったもんだよ」


 と、アリスの煙草に火をつけながら返した。


「白雪姫、よろしくて? 私達――アリスフレンズ物語の逃亡者は、性質や来歴……その他、ありとあらゆるコトを改変された上で、この見知らぬ世界に放逐された、憐れなお姫様のぶせりになったのです」


 口から出た白煙を眺めつつ、


「は?」


 わたしは、お父様その名も偉大な大作家に祈りを捧げた。


 ああ、お父様……これが夢なら醒めさせて、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る