第27話

「フール国王、アーサー殿下とストーン伯爵令嬢の処罰を」


ウィル様の言葉を受けた陛下はゆっくりと立ち上がる。


「皆、愚かな息子とその婚約者が無礼な振る舞いをした事、それを止められなかった事、ウィリアム殿下に怪我を負わせてしまった事、大変申し訳なく思っている。申し訳なかった」


一国の主が頭を下げた事により、フール王国の貴族達は驚き、他国の王族達は皆神妙な面持ちとなった。

彼らが許すか許さないかは騒ぎを起こした二人への処断によって決まるでしょう。


「我が息子アーサーについては今回の騒動の責を取らせ廃嫡とする。代わりの王太子は後日正式に発表させてもらう」


アーサー殿下の廃嫡は皆が想像していたのでしょう。

誰も、本人すら文句は言わなかった。アーサー殿下自身についてはショックが大きかったせいで言葉を発せなかっただけかもしれませんが。


「次にストーン伯爵令嬢に関しては隣国レイディアントの王太子ウィリアム殿下に怪我を負わせた事、婚約者であるソフィア嬢を害そうとした事から火炙りの刑とする」


火炙りの刑はフール王国の処刑方法として最も残酷な公開処刑だ。

流石に驚きを隠せない。

軽くて身分剥奪、重くて身分剥奪の上で辺境地に建てられている厳しい規則がある修道院送りにされる程度だと思っていたからだ。

しかし陛下の決定。これを覆せるものは居ない。


「またストーン伯爵とストーン伯爵夫人に関しては娘の暴走を止められなかった事に対して処罰を与える予定だ」


陛下の言葉を聞きながら奥の方でストーン伯爵と伯爵夫人が真っ青な顔をしているのを見つける。

当然だ。娘が処刑となるのに、親である彼らに責任が問われないわけがない。

良くて身分剥奪。悪くて生涯鉱山労働の刑となるだろう。彼らも衛兵達によって連れ出されそうになる。

しかし。


「お、お待ちください!陛下!」


蛙の子は蛙という言葉がありますが、どうやら愚か者の親は愚か者のようです。

ストーン伯爵が声を上げました。


「なんだ?娘に引き続き、伯爵も問題を起こす気か?罪が重くなるだけだぞ」


これ以上の揉め事が起きて欲しくないのか陛下は厳しい視線をストーン伯爵に送った。

怖くなったストーン伯爵は顔を青褪めさせながら訳の分からない事を叫び始める。


「ふ、不貞を行ったのは私の娘ではありません!オズワルデスタ公爵令嬢でございます!」


今関係ありますか?

そもそも不貞など行っておりません。

周囲の呆れたような視線がストーン伯爵を刺し、会場の温度が下がった気がする。

主に冷たい空気を身に纏っているのはウィル様と私の家族ですね。


「ほう、どういう事だ?お前の娘は自身の想いを断ったアーサーとオズワルデスタ公を貶める為に何もしていないソフィア嬢を害そうとしていた。彼女自身が言っていたではないか」


陛下は冷たくストーン伯爵を見下ろした。


「お、オズワルデスタ公爵令嬢は私の娘と婚約をしたアーサー殿下に復縁を迫ったのです!二人が仲睦まじそうにしている姿を見て、自分は捨てられたと気に病んだ娘が愚かな真似をしてしまったのです…!悪いのは娘を傷付けたオズワルデスタ公爵令嬢とアーサー殿下なのです!」


滅茶苦茶過ぎますよ。

復縁を迫ったのはアーサー殿下ですし、私はそれに応えていません。

ストーン伯爵令嬢がアーサー殿下に捨てられたのは自身が行った愚かな振る舞いのせいでしょう。

そもそも仲睦まじそうな姿など見せれるわけがないでしょうに。


「ソフィア嬢、今の伯爵の話は事実か?」


陛下の申し訳なさそうな顔がこちらに向いた。


「いいえ、事実無根でございます。確かに私はアーサー殿下から婚約者に戻るように言われましたが既にウィリアム殿下との婚約を結んでいましたのでお断りさせて頂きました」


事実を淡々と述べていく。


「アーサーと仲睦まじそうにしてる姿をストーン伯爵令嬢に見せたというのは?」

「あり得ないお話ですわ。私はつい数日前までオズワルデスタ公爵領におりました。本日の夕刻、王都に到着した次第でございます。その私がどのようにしてアーサー殿下と仲睦まじそうにする姿を見せたというのでしょうか?」


私が領地に行っている話は大きくは出回っていない。

おそらくストーン伯爵は知らなかったのでしょうね。


「アーサーよ。お前が答えろ。何故ストーン伯爵令嬢との婚約を破棄しようと思った」


項垂れるアーサー殿下に陛下が尋ねます。

意気消沈のまま彼はゆっくりと話を始める。


「先程言った通りです。ある日、私は彼女が他の男と肉体関係を持っている場面を見てしまい、裏切られている事を知ったのです」


今のアーサー殿下に嘘をつく気力は残っていない。


「で、では、オズワルデスタ公爵が全て悪いのです!彼が娘を…」


今度は父のせいにし始めるストーン伯爵に頭が痛くなる。彼の声を遮ったのは陛下だった。


「オズワルデスタ公、お前に問おう。ストーン伯爵令嬢に迫られた事実はあるか?」

「御座います。ですが、私が愛しているのは妻だけ。丁重にお断りさせて頂きました。まさかその事がきっかけで娘を傷つける事になるとは…情けない限りです」


父は今自分を激しく責め立てているのだろう。

苦しくて仕方ない。

それは初めて見る表情だった。

批難視線がストーン伯爵に向けられた。


「ストーン伯爵、お前が話している内容は嘘ばかりのようだが?」

「そ、そんなはずありません…!」

「嘘を重ねるなら罪が重くなるだけだぞ?」


陛下に嘘をつくという事は国を敵に回すという事だ。

ストーン伯爵はその場に頽れた。


「ストーン伯爵とストーン伯爵夫人を牢に閉じ込めておけ」


陛下の声により衛兵達が動き出す。

ストーン伯爵と失神寸前の夫人は暴れる事なく連れて行かれた。


「アーサー、お前も会場から出て行きなさい」

「はい…」


よろよろと立ち上がるアーサー殿下。

ちらりとこちらを見た彼は悲しみでいっぱいの表情をしていた。

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