LOK!集う変人キャロット城

ひろめる

プロローグ ニートミーツガール

 ゲンム歴5年 プリテン キャロット城


 大森林の奥地、周りを天然の城塞に囲まれたキャロット城。


そこはオンラインゲーム、レジェンドオブキングが始まって以来一度も落とされた事が無い城。

 そんな難攻不落の要塞の中は、現在数千という敵軍の兵士で溢れかえっていた。


 先頭で指揮をとっているのは赤い軍服にでっぷりとした体、胸にいくつもの勲章を携えた男。


 リョーマ帝国傘下の地方領主、飛べない豚


 その胸の勲章から今まで数々の武勲を立ててきたように見えるが、しかし実はただのアバターアクセで領土戦の指揮は初めてという飛べない豚は、焦ったように足を鳴らす。


「ええい!まだ見つからんのか!?」


 一見するとキャロット城が陥落寸前に見えるこの状況。

 しかし戦闘が開始してからの間一切の戦闘は起こっておらず、1時間という領土戦のタイムリミットだけが迫ってきているのだ。

 このままだと引き分け、相手は一切の物資を使っておらず、大量に物資を用意した飛べない豚だけが損をするという実質的敗北。 


「最初から戦う気など無かったとでもういのか!」


 飛べない豚は雄たけびをあげながら近くにいた部下を蹴りつける。

 大将は討ち取られていないし軍の兵士は無傷だから、実質的な被害は少ないが、納得出来る筈もない。


「ふざけるなぁ!私は戦争をしにきたのだ、かくれんぼがしたいなら公園にでも行ってろ!」


 飛べない豚は自分の顔が真っ赤になるのを感じながら、雄叫びをあげる

 ええい卑怯者め!難攻不落の要塞の制圧を任されたと思えばこういうカラクリか!


 どんどん顔が熱くなっていくのを感じる飛べない豚は、しかし熱くなる顔と比例するように冷たくなる尻に違和感を感じる


 首を傾げながら後ろを確認した飛べない豚は、背後に佇む白タイツの姿に熱くなった顔が冷たくなっていくのを感じる。


「貴様の貞操・・・もらい受ける」


 そんな白タイツのキメ台詞と共に、尻から嫌な汗が大量に流れる。

 よくよく見れば尻に禍々しいモザイクのかかった槍が付けられているのだ。


 このモザイク処理のかかった槍、パッツンパッツンになった全身純白のタイツ・・・


「アーサー王の側近、円卓の騎士・・・ランランロットか」


 その槍は現実世界の英雄が所持していたと言われる伝説の槍のレプリカ

 一度放てば相手の急所しりを的確に穿つと言われている名前は・・・


「・・・ケツ・ホルグか」

「この槍に貫けないしりは無い」


 吐き捨てるように呟いた台詞に、ランランロットが得意気に微笑を浮かべる。


「い、良いのかね?ここでわしをヤれば本国が黙ってないぞ?私は本国では指折りの武将だぞ?」

「ええ、それは願ってもない事です、ですよねアーサー?」


 ランランの言葉に、先程蹴とばした兵士が笑い声をあげだす。


「そっちの連合から来てくれる?上等!こちとら防衛戦だけは最強なんでね!しぼれるだけ搾り取ってやるよ!


 兵士は呆然とする飛べない豚を一通り笑い終えると、兜を脱いでニヤリと笑みを浮かべる。


「き・・・貴様は!?まさか最初からこちら側に忍び込んで!?」


「灯台下暗しってやつだよ、お前が今回の領土戦の大将だな?やれ、ランラン」

「お・・・おのれおのれおのれ!これも全て策の内だったという訳かぁ!アーサアッーーーー♂」


 ◇


「いやぁ、今日も防衛成功お疲れさんっと」


 パソコンの光だけが辺りを灯す暗い部屋の中、男の小さな笑い声とカタカタというキーボードを叩く音が響く。


 アカウント数、数千万という莫大な数値を叩きだしているオンラインゲーム、レジェンドオブキング

 題材は〈天下を統一する国盗り戦略アクションシミュレーションRPG〉

 見ただけで胸やけしそうなゲームジャンルだが、目的はとてもシンプル

 自らの軍団を率いて天下を統一するだけ。


 そしてここはプリテン地方、八方を大国に囲まれいつ滅びてもおかしくないと言われているキャロット城


 そんなヤバイ領地を管理しているのは、この汚部屋の主のアバターアーサーだ。

 今まで防衛戦において100戦100勝。

 ゲーム内だけで見ると結構凄いやつなのだが、ネトゲで凄いやつってのは大抵社会的にはヤバイやつだったりする。

 今回の場合は筋金入りのニートである。

 この春から大学生のはずだった彼は、ただの一度も着なかった高校の制服を雑巾代わりに机の埃をはらう。


「しかし今回の防衛戦は長かった・・・まさか周りの大国が順番に攻めて来るとは・・・」 


 エンドの田舎侍を追い払ったらヴルハラの尖兵、それを追い払ったら今度は魔界の化け物共、そこからはもうてんやわんやだった。

 自軍の士気が0になると負け、というゲームの仕様上ログアウトする事が出来なかった俺とランランは本日で6徹目

 俺達何かしたか?したとしても精々ランランが男のケツを掘ったくらいだし、そんな恨まれる事はしてないと思うんだが・・・


 椅子の上で首を傾げていると、次第にまぶたが重たくなってくる。


 ・・・っは!いかんいかん、意識が飛びかけてたぜ。


 俺はヨダレを拭いながら、今回の防衛線で手に入れた金袋片手に隣街にキャラクターを進める。

 生憎とウチの領地は貧乏なんでね、換金だとか買い物は他でする事にしている。


「しかし良い加減こんな生活してたら体がもたんな」


 これからのことも考えて少し兵士を雇うか?

 俺は大量の金貨ぎ入った袋を見てゴクリと喉を鳴らす。

 これだけの金貨があればどのくらいの軍隊が買える?

 歩兵は金貨1枚あたり100・・・弓兵なら80だったか?そういえばプリテンのユニークユニットで重歩兵ってのがいたな、普通の歩兵よりHPが高くて90で買える財布に優しいユニットだ。

 そいつらがいれば一日数時間の睡眠時間に・・・もしかしたら領地の拡大が狙えるかも・・・


「つっても俺とランランは統率力が0だからな、雇用する事も出来んのだが」


 レジェンドオブキングには統率力というステータスが存在する。

 この数値は最初から最後まで変動せず0~100の数値で決められ、ステータス1につき100人の軍団を連れていけるが変わりに全ステータスが%で下がるという物。

 ちなみに俺は0だ、全ステータス100%という破格の能力を持つ変わりに、引き連れていける軍団は一人もいないという、国盗りゲーにはあるまじき能力をしている。


 そしてこのゲームにおける戦の勝利条件は、敵軍の王を倒すか士気を0にするという物

 そこに目をつけた俺は即座に頭のニート細胞を活性化、俺と同じく統率力0のランランに声をかけて二人で領地を開拓した。


「俺が倒されなければ負けは無いし、俺とランランの士気が下がらなければ負けた事にはならない・・・最初は良い策だと思ったんだけどなぁ」


 俺の策は見事に成功、絶対的ゲームの勝利条件故に負ける事のない領取り合戦を繰り広げてきた。

 しかしこの策は思ったよりも穴が大きく、俺とランランがいなければキャロット城の士気は0。

 一歩でも敵が侵入すれば即陥落という形式になってしまった。


 普段は俺とランランの二人で交代して見張り、攻城戦に向かう事も出来ず、結果としてサービスが開始して数年間終わらない泥仕合を繰り広げる事になってもいる。

 ならメンバーを増やせば良いとも思ったが、サービス開始直後は大量にいたプレイヤーは全て大国に移籍、新規のプレイヤーは皆無に等しい。


「今更こんな辺鄙な土地からスタートする新規がいるとも思えんし」


 溜息を吐きながら木々の隙間を鼻歌混じりに縫って歩く。

 まぁそういう訳だからこの金貨は軍に使うことは無い。

 領地の治水はするとして、俺とランランの装備を補強して・・・それでも余るな。


「これは・・・折角だから楽しんで帰るのもありかもなぁ・・・げっへっへ」


 アーサーが王にあるまじきゲス顔を浮かべながら歩いていると、木陰にプレイヤーの気配を感知する。


 こんな場所にプレイヤー・・・?間違いなく辻斬りとかそんな奴らだよな?


 音をたてないようにうつ伏せになり、茂みに一体化するように茂みを掻き分けて目標を探す。

 俺の領地で悪さしようとは良い度胸じゃないか、有り金全部搾り取ってやる


 ゲスイ顔を浮かべたままプレイヤーが見える位置まで来たアーサーは、目の前の光景に絶句する。


 とても大きな大樹の下

 サラリとした青い髪に、吸い込まれそうな金色の瞳

 シンプルな白い布切れの服は始めたばかりだという事を強調し、その背には小さな翼が生えている。

 そんな少女が無表情に、しかしどこかはかなげに大樹を見上げている。 


 翼人種?プリテンに?しかもあの服は・・・新規か?いや、罠かもしれない、翼人種は統率力が高いし実は周りを囲まれている・・・事も無い?

 アーサーの頭の中で様々な何故?浮かび上がる。


 しかしそんな事よりも・・・


「ふつくしぃ・・・」


 アーサーは思わず感嘆の息を吐く。


 このゲームは相当自由なキャラメイクが可能だが、美男美女を作るには相当な技術が必要。

 幾人もの猛者が挑戦し、結局諦めてデフォルトに近いキャラでプレイしている。

 なのにあのアバターは何だ?なんつー美少女キャラだよ!

 歳は16-18くらいか?JKの無駄遣いすぎやしないか?名前は・・・アズリエルか。


 少女はしばらく辺りを見渡すと、その場でグルグルしたり飛び跳ねたりし出す。


 ・・・操作確認中か?はたから見るとすっごいほほえまなんだが?あ、目が合った。

 思わず気配を隠すのも忘れて呆然としてしまっていた。

 もし罠だったら今頃袋叩きにあってる所だぞ?・・・だがまぁそうなっていないという事は少なくとも彼女は兵団を雇っていないという事だろう。


 アーサーは咳払いを一つ、キーボードを叩く。


「お嬢さん、お名前は?」


 俺の質問に少女・・・アズリエルが無表情でこちらを見ている。


 いや、違うんです。そんな頭上を見ればわかるような質問をしたのには訳があるんです。

 決して美少女キャラに話しかけるのに緊張したとかそういうんじゃないんです、通報したりされないよな?というかこんな可愛いアバ使ってるって事はおっさんだよな?そうだよな!?


 アズリエルの無言に一人ドギマギしていた俺は深呼吸を一つ、少し冷静さを取り戻す。

 もちつけ俺、相手はおっさん相手はおっさん・・・よし。

 というかよくよく見ればアズリエルさんの上に吹き出しのような物が現れているじゃないか。

 いわゆるチャットアイコンという物で、相手が何かチャットを入力中に現れるアイコンだ。


 という事は今何か入力中か、ここは男らしく待ってやるとしよう。


 しばらくアズリエルさんの上でチャットアイコンが流れては消えを繰り返すと、頭の上にキーボード無しのマークが表示される。


 あ・・・諦めやがった!

 いや、キーボードが無いのは理解したよ?けどもう少し粘ろうよ!


 アズリエルは俺の内心の叫びに気付いた様子も無く、ただ無表情に立ち去ってしまった。


 いや、別に良いんだけどさ、この場限りの出会い、どうせ戦場では敵同士・・・待てよ、これはチャンスなんじゃないか?


 アーサーは頭のニート細胞をフル回転させる。


 見た感じアズリエルは完全なご新規さん。

 最初はサブキャラかとも思ったが明らかな初心者ムーブを感じるし間違いないだろう。

 ここで恩を売り上手く抱き込めれば戦力アップ間違いなし。

 しかも助言という形で俺好みのステータスに成長させれば・・・ぐふふ、笑いが止まりませんなぁ! 


「ちょ、待てよ!」


 黒い笑みを浮かべながら、アズリエルを追いかけるアーサーなのであった。

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