第3話


 朝起きた部屋には一枚の置手紙と朝食が置いてあった。


(もっと酷くなったなぁ…)


 紙にはこれから食事は部屋で食べるようにと書いてあった。


(まぁあんな空気で食べたくないからないいや)


 カイはそれ以上は何も言わずに朝食を食べた。




 朝食を食べた後屋敷にいてもやることがないため、日課にしている素振りをしにカイは家の近くにある森に行こうと考えた。

 しかし、カイは部屋を出て少ししたところで会いたくない人に会ってしまった。


「おい」

「…グイ兄上」

「どこに行く気だ?お前がいるだけでクノス家の評判は悪くなるんだ。あまり領内を動き回るな」


 グイは両親の領民や執事たちへの態度を見ていたせいか、自分より劣っていると思ったものをバカにして見下している。そのため態度はとても横暴で命令口調で話しかけることが多い。


「これから俺は剣の稽古をしに行くんだが、お前も来るか?」


 一見優しく一緒に稽古するために誘ったように見えるが実際のところは違う。


(「俺様がサンドバックにしてやる。感謝しろ」と言ったところかな…?誘うときはいつもこうだ…)


 カイは今までこのように誘われてしぶしぶついて行ったところ、グイの得意な武器である剣で一方的に叩きのめされた過去があった。


「兄上、お誘いはありがたいのですが、私などの実力では兄上の練習相手になることもできませんので辞退させていただきます」

「そうか。とにかく、領民の前に出ないようにしろ」


 カイの返答を聞いた瞬間、隠す気のない舌打ちをしたグイはそれだけ言って去っていった。


(ふー、グイ兄上の相手をするのは疲れるなぁ、言葉選ばないと殴ってきそうだし)


 カイはそう思いながら廊下を歩く。その予想は合っており、舌打ちなんかしたら殴るのは確定だ。


 家から出ようとしたところでカイの後ろで叫ぶ者がいた。


「おい!何しに家から出るつもりだ!」


 今度は弟のパピットだった。


「外の空気を吸いに行くだけだよ、別にいいでしょ?」

「その口の利き方はなんだ!!お前は無能の出来損ないなんだから俺様に敬語を使うべきだろうが!」

「…申し訳ありません、パピット様」

「ハッハッハ、それでいいんだよ無能が」


 パピットはカイが敬語を使ったことに満足したのか、笑いながらその場からさった。


(何がしたかったの?暇なの?)


 カイは呆れながらもここにいては良いことがないと思い、足早に森に向かった。




 森の入り口前にはカイの見知った顔の人がいた。


「レイ兄上!」

「カイ、これから森で素振りでもするのか?」

「うん。魔法は使えないから剣を使えるようにしないといけないから!」


 レイは両親やグイのことを嫌っており、クノス家で唯一カイのことを家族と思っていた。


「昨日はごめんな、かばえなくて…」

「大丈夫だよ。それに冒険者になったら自由に世界を見て回れるからね!もしかして前に冒険者になりたいって言ったの覚えててくれたの?」

「まぁ、たまたまだ。たまたま。でもカイに適性魔法が無いとはな…」

「兄上でも聞いたことがなかったの?」


 レイはクノス家の中で一番頭がよい。そのため、カイはわからないことはレイに聞くようにしていた。


「さすがに聞いたことが無かったな…。調べてみる。わかることがあるだろうからな」

「兄上、わかったら教えてもらってもいい?」

「ああ。カイはかわいい弟だからな」

「兄上…。父上の前で言ったら殴られますよ?」

「大丈夫だ。あいつらの前では言わないから」


 カイは正直驚いた。前まではレイは家族のことを「あいつら」と言うことはなかったからだ。カイが驚いているの気づいたレイは話をそらすように聞いてきた。


「それより森に行くなら前に渡したネックレスは持っているか?」

「持ってるよ。肌身離さず持っているように言われたからね!」


 カイは首にかけているネックレスを見せた。このネックレスはレイが学園にいるときに作った魔法道具マジックアイテムでカイを守るために作ったらしい。その能力は装着者が襲われそうになると、風の盾が守るというものだった。また、もし発動したらレイにも発動したことがわかるようになっている物だった。


「そうか。気を付けてな。そろそろ戻らないと屋敷を抜け出してきたのがばれそうだ」

「ありがとう兄上、じゃあ行ってきます!」


 レイは森の中に入っていくカイを見守った後、屋敷のほうに歩いて行った。

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