第11話 昇格について相談するオレです(1)

 翌朝、仮眠から目覚めた京はミヤビと双子を雑に起こすと、昨夜のキンの伝言を簡単に伝え、各々が飲みたい飲み物だけ頂くと、ミヤビの家へと向かった。



「あー。昨日飲みすぎたのかな? 記憶が曖昧なのよねぇ」



 ミヤビの家でコーヒーを飲みながら欠伸をするモミジ。ミヤビとカエデも彼女の言葉に同意するように頷く。



「そんなに飲んだ感じはしなかったのに。キョウさんは大丈夫ですか?」



 カエデの言葉に京は微笑しながら頷く。京の住んでいた世界で考えたらあの度数でここまで酔っていた彼女たちが可愛く見えたのだ。



「あれくらいは別に」



 京の返事に今まで口を開いてなかったミヤビが顔を上げながら京を見つめた。



「さすがです……お姉様」



 気持ち悪いと付け足しながらも京にほほ笑みかけるミヤビ。カエデがコップに水を入れてそっとミヤビに渡す。



「お前は二日酔いするタイプか」



 カエデから貰った水を一気に飲み干し、再度机にへばりつくように顔を伏せるミヤビ。



「フツカヨイ? あぁ、確か飲みすぎると翌日まで酔いが抜けないアレですよね。でも、アタシたちそんなに飲んだ記憶がないんだけど……」



 ワインを一、二杯と付け足し、考え込むように腕を組むモミジ。アルコール度数が多少強い酒が存在することを知らない彼女たちにとって、これ以上は想像出来る範囲を超えていた為、モミジは考えることを放棄した。テーブルに置いてある一口サイズのクッキーを手に取り口にする。


 クッキーの隣で吐き気と戦っているミヤビを見て、京はちょっとした悪戯心が働き、小さく笑った。



「ミヤビ。いい事教えてやろう。二日酔いがキツイならまた酒を飲むといい。迎え酒って言ってな、二日酔いを緩和する効果があるぞ」



 酒を飲むようなジェスチャーをしながらミヤビを見る京。そんな京を見たミヤビは重い体を無理矢理起こし、立ち上がり、冷蔵庫からワインボトルを取り出した。



「いや、普通に考えて酒の酔いを酒で治すなんて不可能だろ。冷静になれ」



 自分の発言だったが、慌ててツッコミを入れ、ミヤビからワインを取り上げ、元の場所に戻す京。



「お姉様。案外いたずらっ子なんですね。ステキ」



 千鳥足でテーブルに戻るミヤビ。カエデが再度コップに水を注ぎ、ミヤビに飲ませる。



「まぁ、二日酔いのミヤビは置いといて、双子二人に相談したいことがある」



 再度机と仲良ししているミヤビを横目に、京は昨日金からもらった紙を取り出し、モミジとカエデに見せた。簡単に目を通すと、モミジは顔を上げた。



「これって、第一騎士の昇格推薦状じゃない!」



 目を見開き、紙と京を交互に見るモミジ。カエデもまた、同じ行動をとっていた。



「推薦状? 昇格方法と攻略法だとオレは聞いていたんだが……」



 首を傾げる京。黒い長い髪が首を傾げることによりサラリと揺れた。




「あぁ……。疑問に思うお姉様もステキ……」



「水を差すな。二日酔い」




 ミヤビを雑に扱い、彼女の隣に座る京。双子もその向かいに座った。再度京が渡した紙を熟読するモミジ。



「うーん。どっからどう見ても本物だわ。アタシは初めて見たけど、この紋章や便箋が誰がどう見ても本物と断言出来る証拠だもの」



 モミジの言葉により、紙に押されている印鑑のような紋章と、独特な紙質の便箋がこの国での信ぴょう性を高めるものだと京は理解した。



「んで、その第一騎士に昇格するにはどうすりゃいいのかってのと、今のオレに第一騎士は相応しい地位なのか、意見をくれ」



 京の女性にしてはやや切れ長な瞳がモミジを映す。モミジは一度深呼吸をした後に口を開いた。



「まずは、一つ目。これは簡単よ。推薦状を持っている状態で第一騎士昇格用のクエストを受けてクリアする事。推薦状が無いとどんなに力量のある騎士や魔道士でもクエストクリアしてもなれないわ。これは単純に第一騎士専用のクエストがペアで行く事が多いから他の第一騎士とウマが合う状態の人じゃないとやってけないってのが一番の理由じゃないかしら」



 一度口を閉じ、京を見るモミジ。彼女の明るい赤髪と似たような色をした瞳が京を映す。京は右手をゆっくりと自分の顎に触れさせ、考える素振りをする。



「なるほど。上の人間が認めないと昇格出来ないって事か。んで、オレにはその資格がある」



 京の言葉に双子がゆっくりと頷いた。



「はい。キョウさんはキン様に認められた第二騎士という事で第一騎士になる資格があります。これはここ十数年噂ですら聞いた事の無いことです」



 今度はカエデが口を開いた。モミジと同じ緋色の瞳が京を映す。モミジと違い、腰まである長い赤毛がゆっくりと揺れた。



「そうか。意外とレアキャラなのか、オレ」



 キンが京を第一騎士として推薦する理由を唯一知っている京。咄嗟に演技で知らないふりをしていたが、双子の話を聞く限り、今まで自分と同じような境遇の第二騎士が居なかったんだなと判断し、演技が正しい選択だったと実感した。ゆっくり深呼吸し、腰の剣に触れた。



「キン様がそもそも特殊な第一騎士様で、レディースパートナーを一人もつくらず、あんな男と結婚して暮らしている。更に今まで大勢の第二騎士がレディースパートナーの申し込みと第一騎士への昇格推薦状をお願いしていますが、全て断っています。キョウさんには何か特別な力か何かを感じたのかもしれませんね」



 京の行動に一番に気付いたカエデが微笑みながら京に話しかけた。キンの本当の姿を知っている京はカエデの言葉に背筋が一瞬だけだが、凍ったような気がした。



「なるほど。次は、お前ら個人の意見を聞かせてくれ。オレは第一騎士になれると思うか?」



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