第49話 片鱗

 メリルの剣術の腕前はかなりのものだ。

 剣戟の中で十分に伝わってきた。


 剣を使う魔物──骸骨剣士やエクストラボスの海賊ウィリアム・キッドも確かに手強かったが、リズムは一定で動きに法則性がある。

 なので、そいつらの行動の方が対応しやすかった。


 それに、対人だと[MP回復薬]を補給する時間の確保が難しそうだ。

 節約のために《身体強化》のオン、オフ、を上手く切り替えながら戦っているが、この勢いだと決着の前にMPは底を尽きる。


「ふふふ……! やはり其方は剣術の天才だ! 人を相手に剣を振るったことは全くないだろう!」

「そんなことよく分かるな」

「ああ、分かるさ。そして、戦いの中で私に対応してきていることもな! 驚異的な成長速度だぁ……」


 メリルは恍惚とした表情を浮かべた。

 厳格なイメージのある騎士がしてい良い表情ではないな。


「そうかい」


 剣を振り払って、メリルと距離を取る。

 そろそろMPが切れる頃だ。

 [MP回復薬]を補給しなければいけない。


「《アイテムボックス》」


 [MP回復薬]を取り出して、口に運ぶ。

 ……ふぅ、とりあえず魔法の補給は完了。

 早飲みにも慣れたもんだ。


「どこから取り出した……? それは魔法か?」


 不思議そうにメリルが尋ねてきた。


「ま、そんなところだ。見慣れない魔法だろ?」

「う、うむ。見たことがない。だが、次はないと思え。その魔法を使う暇は与えないぞ」

「はは、じゃあついでにもっと面白いものも見せてやるよ──《紫電一閃》」


 魔法陣が展開され、メリルはハッとした表情を浮かべた後にすぐに動き出した。


「《魔転歩》」


 メリルの両脚が青藍に光った。

 そして一歩を踏み出すと、凄い勢いでこちらに近づいてきた。

 俺とメリルの間に距離は2秒で詰められるようなものではないはずだ。

 ……と、思っていた想像以上に距離を詰めてくるペースが速い。

 まじかよ!

 この距離を一瞬で詰められるのかよ!


「おいおい、どんなスピードだよ……ッ!」

「それを発動されたらまずかったな。だが、それはスキルではなく魔法だ。こうして攻撃を繰り出せば、詠唱は止まる」

「よく知ってるな」


 知らなくて良かったのに。


「騎士としてこれぐらいは当然だ。それに、接近戦で魔法は私のようなスキルに勝ち目はない。ふっ、なに、魔法を使わなければ私もスキルは使わん」


 まぁ《身体強化》も魔法の一種なんだけどな。

 しかし、現状俺が不利なのは紛れもない事実だ。

 詠唱時間のいらないスキルを使えるメリルを相手に魔法は相性が悪い。

 それでも使わないという選択肢は既に俺にはない気がする。

 これだけ実力に差があるのなら、自分の武器を使うことでしか状況は打破できない。

 自分の武器とは、すなわち魔法だ。

 魔法だけはメリルよりも優れている。


 だからなんとかして魔法を使わなければ。


 ……でもどうやって?

 あれだけの距離を一瞬で詰められるのなら今のところ使う方法が思いつかない。

 上手く隙をついたと思ったんだけどな。


「さぁ、どんどんいくぞ! ふふふ……!」

「ったく……!」


 メリルは考える隙も与えてくれない。

 カンカンカンッ、と木剣がぶつかり合う。

 繰り返していくうちにどんどん腕が痺れる。

 そこに、メリルが強撃を放ち、俺の木剣を弾いた。

 なんとか握力を振り絞り、木剣が飛んでいくのは防いだが、これでは次の攻撃を防ぐことは出来ない。


「これで2回目──ッ!」


 メリルは右腕を引き、突きの姿勢を取った。

 また俺は負ける。

 そう思ったとき、メリルの動きが止まったような錯覚を覚えた。

 スローモーションのように、視界がゆっくりと流れていく。


 ……なんだこれは。


 これならメリルが次とるであろう行動が、いとも簡単に読めてしまう。

 メリルの剣先が俺の右肩を狙っている。

 左に半身をずらせば、この状態でも攻撃をかわすことが出来る。


 でも、それを実行するための能力が俺にはない。

 自分の身体の状態は、自分が一番分かる。

 頭では理解しているのに、身体が追いつかない。


 それを穴埋めしてくれるもの──俺には魔法しか思いつかなかった。




『【魔法創造】の効果が発動しました』




 いつもと同じような神の声が聞こえた気がした。


 そして次の瞬間。


 俺はメリルの突きをかわしていた。

 思い描いたイメージ通りに俺は動いていたのだ。

 その軌跡に俺は雷の残像を僅かに見た。

 これは雷魔法……?


「なにっ!? なんだその動きはッ! ──《速撃》」


 メリルが叫ぶと同時にスキルを発動した。

 かわしたと思った次の瞬間に、メリルは次の攻撃に移っていた。

 見える。

 メリルの動きが俺にはハッキリと見えた。


 これなら剣を合わせるように振れば──。



 ヒュウンッ!


 カラッ、カラカラッ……。


 気付けば俺は、メリルの木剣の先を斬り飛ばしていた。

 そして、俺の左手に持つ木剣は彼女の首もとで止められていた。

 木剣は紫色の稲妻を纏っていたかと思えば、すぐに消えた。


「な、なんだその動きは……。そ、其方は今、何をしたのだ……?」

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