第46話 野暮用を思い出した

 転移石のないマーシャのために俺たちは一緒にダンジョンから帰還した。

 まぁあれだけ足が速かったら一人でも問題なさそうな気はするが、罠の存在もあるしな。

 それにマーシャが死んでしまったら、今助けた意味もなくなってしまう。

 《泡沫水鞠》を使って、結構レベルアップもしたし、1日の戦果としてはまずまずだと思う。


 冒険者ギルドに戻ると、マーシャを雇ったであろう冒険者パーティに声をかけられた。

 男の4人パーティだ。


「おい! 運び屋! お前がいなくなったせいであの後魔物を倒しても素材を回収できなかったんだぞ!」


 マーシャに文句を言うこの男がパーティのリーダーだろうか。


「ひ、ひぃっ! ごめんなさいっす!」

「報酬は無しだ!」

「そ、そんなぁ……」

「当たり前だろ!」

「お金ェ……」

「ふんっ……」


 放心気味のマーシャを置いて、冒険者パーティはギルドから去って行った。

 報酬がないのは俺も当然かなと思ってしまう。

 マーシャは運び屋としての役割を全うしていなかったのだからな。

 だが、一つ引っかかるところがある。

 足の速いマーシャがなぜ、彼らのパーティとはぐれたのだろうか。

 パーティ側も戦闘力の高くない運び屋には気を遣うはずだ。

 冒険者にも性格の悪い奴はいくらでもいる。


 ……真相は果たしてどうなのだろうな。


「ソニアとマーシャは食事をしていてくれ。俺はちょっと野暮用を思い出した」

「あ、はい。分かりました」

「金ェ……」

「マーシャさん、元気だしてください。ご飯ぐらい私がおごってあげますから」

「ほんとっすか!?」

「はい。いいですよ」

「うおー! ありがとうございます!」


 現金な奴だな。

 まぁいつまでも落ち込むよりもそれぐらい明るい方が良いだろう。


 さてと、俺はさっきのパーティの後を追ってみるとするか。


 ギルドを出てから立ち止まって、周りを見回した。

 お、いたいた。

 ちょうど曲がり角をまがっていくところだった。

 それなら尾行もバレにくいな。

 俺は曲がり角までいき、《録音》を小声で唱えた。


 まだパーティとの距離はあるが、バレないように詰めていく。


「ほんと笑っちまうよな〜。あいつ何で気付かないんだろ」

「魔物の素材を回収してる最中にどこかに行かれたら、そりゃ気付かんわな。でもあいつ、俺たちに何も文句言ってこなかったな。少しは言うと思ったんだけど、拍子抜けだぜ」

「その方がこちらとしては助かるだろう? あいつは今、俺たちに迷惑をかけた責任を感じているはずだ。それを上手く利用すれば、少ない報酬で運び屋を雇うことが出来るってわけさ」

「お前ほんと、ずる賢いよな。ま、そこが心強いんだけど」


 金に困っているマーシャなら、責任を感じて、それも少ない報酬で運び屋として仕事をするだろう。

 確かにずる賢いやり方だ。


「なるほど、そういう裏があったわけか」


 俺はパーティに声をかけてみた。


「な、なんだてめえ!」

「さっきあの運び屋と一緒にいた奴だぜ、こいつ」

「お前、あの運び屋に言うんじゃねーぞ!」

「《再生》」


 生活魔法の《再生》を発動すると、先ほどの会話が流れてきた。

 それを聞いたパーティメンバー達の表情は険しくなる。


「はは、別に言わないって。信じてくれよ。まぁその代わりちゃんと運び屋としての報酬は頂くけどな」

「……ハァ、ヒーローを気取るのは良いが、そういう奴は痛い目を見ることになるんだぜ!」

「やっちまうか!」


 喧嘩に発展してしまった。

 よし、逃げよう。

 そう思った頃にはもう遅い。

 俺の退路は他のパーティメンバーによって断たれてしまった。


「へへへ、どこ行こうとしてんだよ」

「舐めたことするからこうなるんだぜ?」

「4対1を卑怯だと思わないのか!」

「まったく」


 そうか。

 思わないか。

 俺は卑怯だと思うけどなぁ〜。

 と、そんなことを言っていても埒が明かないか。


「《身体強化》」


 俺は大きくジャンプして、冒険者達に囲まれていたところを抜け出した。

 そして着地と同時に駆け出した。

 あんな囲まれている状態で勝てると思うほど自分を過信してはいない。


「こら、待てぇ!」


 もちろん奴らも俺を追ってくる。

 先ほどの曲がり角をまがったところで待ち伏せて、真っ先にやってきた一人の顔面に一発殴る。


「ふげぇっ!」

「この野郎……!」


 そしてまた逃げる。

 一人で複数人を相手するときは1対1になるように立ち回るのが大事だ。

 数の暴力に勝つには、相手の実力を圧倒していない限り不可能。

 奴らはアルムントで活動していることからCランクの冒険者だと予想できる。

 となると、俺のステータスは《身体強化》を使用した状態でも互角……いや、少し劣っている可能性が高い。

 だから尚更1対1の状況を作る必要があった。


 お、こことか良さそうだな。


 俺は狭い路地を見つけて、迷うことなくそこに入って行った。

 先は行き止まりでパーティの面々は、頬を緩ませた。


「バーカ! 自ら行き止まりに進む奴がいるかよ!」

「へへ、観念しろ!」


 俺がこの狭い路地に入った理由が気付けないとはな。

 魔物相手となら戦い慣れているが、対人戦は場数を踏んでいないとみた。

 まぁ負けることはないだろう。


 喧嘩は俺の思惑通りに進んだ。

 やはり《身体強化》を使用した状態ならば、大体五分五分ぐらいのステータスのようだ。

 そして俺は冒険者パーティを返り討ちにすることに成功したのだった。


「「「「す、すびばせんでしだぁ〜〜〜!!!」」」」


 4人の冒険者は路地を出たところで俺に向かって土下座をした。


「謝るならお前らの運び屋をしていたマーシャにするんだな。報酬もちゃんと渡してやれ。冒険者ギルドで食事中だろうから」

「「「「は、はい。分かりましたァァ!!!」」」」


 よしよし、これでマーシャも機嫌を取り戻すはずだ。

 たぶん金さえ手に入れば文句は無いだろうからな。


「──ふむ、なかなか見事な身のこなしだったぞ」


 女性の声がした。

 スタスタと横から歩いてきたのは銀色の鎧を身にまとった金髪の女性だった。

 腰には細剣を携えている。

 女性は騎士のような格好をしていた。


「……だれだ?」

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