第36話 VS海賊ウィリアムキッド 前半

『海賊ウィリアム・キッドの亡霊』が襲いかかってくると、ソニアが真っ先に動いた。

 盾を構えて、亡霊が振るうカトラスを防ぐ。

 亡霊なのに実体はある。

 カトラスがソニアの構える鉄の盾に当たると、甲高い音が発せられた。


「ぐっ──」


 亡霊の攻撃を受けるソニアは苦しそうだ。

 膝を曲げて飛ばされないように必死だ。

 俺も加勢しよう。


「《紫電一閃》」


 亡霊の背後に回り込み、詠唱を開始する。

 亡霊はそれに気付いて振り返ったが、そこでソニアが動く。


「《自己標的》」


 だがしかし、亡霊はソニアを払いのけて俺を狙ってきた。


「マジか……っ!」


 俺はすぐさま詠唱を中止し、カトラスをミスリルの剣で受け止める。

 ダメだ。

 《紫電一閃》は使えない。

 明らかに時間が少なすぎる……!


「なんで《自己標的》が通用しない……!?」


 ソニアは狼狽えていた。


「大丈夫だ。《投雷》なら遠距離から攻撃することが出来る。ソニアはそのまま耐えていてくれ」

「分かりました!」

「──《投雷》」


 詠唱を開始する。

 さすがに距離を取ったこの状態で俺を狙ってくることは無いか……。

 これなら《投雷》を撃ち続ければ、いつか勝てる。

 あとは勝利を離さないように冷静に戦うんだ。


 詠唱時間の1.5秒が経過し、《投雷》が発射された。

 やはり《投雷》は詠唱時間が短くて使いやすい。


 ──しかし、《投雷》が直撃する寸前で『海賊ウィリアム・キッドの亡霊』は身を翻した。


 《投雷》が直撃することはなかった。

 嘘だろ……?

 《投雷》は結構な速さだぞ!?

 それを避けるって言うのか……?


「おいおい……これは最悪のシナリオだな」

「そ、そんな……! くっ!」


 亡霊は驚く暇も与えてくれない。

 身を翻した後にすぐさまソニアに攻撃を仕掛けていく。


 ……まだだ。

 諦めるな。

 思考を止めてはいけない。

 キングフロッグのときだってそうだったじゃないか。

 諦めなければ必ず何か策はあるはず。

 順に考えていこう。


 ……《投雷》が当たらなかった原因は二つだ。



 一つ目は距離が遠かったこと。

 距離を縮めれば、《投雷》に反応出来ない可能性が上がる。

 しかし、距離を縮めれば縮めるほど『海賊ウィリアム・キッドの亡霊』が俺にターゲットを変更する危険性が高まる。


 二つ目は『海賊ウィリアム・キッドの亡霊』の視界内に入って攻撃したこと。

 背後に回って死角から《投雷》を放てば、直撃するかもしれない。

 しかし、避けられた場合はソニアに直撃する恐れがある。


 他にも原因はあるだろうけど、考えてるだけじゃ戦いには勝てない。

 自分の直感を信じて、この二つが原因だったと仮定して行動する。


 ……まずは距離を縮めてみよう。

 死角から攻撃してソニアに直撃したら終わりだ。

 自ら勝機を逃すこともないだろう。


 俺は亡霊との距離を詰める。

 そして《投雷》を詠唱すると、亡霊はソニアを吹き飛ばしてこちらに駆けてきた。


「お前魔物のくせに賢いな……!」


 亡霊が振るったカトラスをミスリルの剣でなんとか受け止める。

 手がじんじんと痺れる。

 これがステータスの差ってやつか……。

 受け止められるだけまだマシだけどな。

 そう思っていたが、亡霊は間髪入れずに攻撃を続けてきた。

 亡霊の右足が俺の身体に直撃した。

 ゴキッと嫌な音がした。


「ぐああっ!」


 亡霊に蹴られた俺は壁際まで飛ばされてしまった。

 亡霊は畳み掛けるようにトドメを刺しに来る。


「ロアさんッ! ──《自己標的》」


 その間にソニアが入ってきて、なんとか助かった。


「……た、助かったぜ、ソニア」

「ロアさん! 大丈夫ですか!?」

「なんとかな……」


 蹴られた左腹を確認すると、流血していた。

 めちゃくちゃ痛くて、俺は顔を歪めた。

 HPを見ると一気に残り120まで減っていた。

 ……ただの蹴りでここまで減るとはな。

 化物かよ、あいつ……。


「流石はBランクってところだな……」


 これは死角から攻撃しても成功する可能性は低そうだ。


 ──つまり俺の魔法は全く通用しないということになる。


 どうやってダメージを与えればいいんだ……?


 そんな不安がよぎった。



「くっくっく……」



 しかし、なんだか笑えてきた。


 今後は魔法攻撃が効かない相手が現れた場合、苦戦すると思っていたが、まさか通用しない相手が現れるもんな。

 まったく、ビックリだぜ。


 こんなシナリオを考えた奴は一体どこの誰だ?

 少しはバランス考えろよな。

 運命ってやつはどうも俺に優しくないらしい。


 ……いや、考えようによってはバランスが取れているのかもしれない。

 それほどまでに俺が手に入れた【魔法創造】の能力はおかしいのだ。


 ……ああ、そうか。

 これは試練だ。

 あるのかも分からない運命とやらが、俺に与えた試練だ。

 そうに違いない。



 これぐらいの窮地を乗り越えなければ、魔法を極めるなんて偉業を成し遂げることなど到底不可能なのだから。



 パチンッ、と自分の頬を叩いた。



 弱気になるのは俺らしくない。


 こんなところで死ぬ器じゃないだろ?


 魔法が通用しないなら、物理攻撃を与えればいい。



「まさか、こんなに早くを取得する時が来るとはな」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 《身体強化》

 消費レベル:200

 消費MP:秒数×(強化倍率×10) ※倍率は1〜3倍の範囲内。

 効果:身体能力を強化倍率分上昇させる。

 属性:無

 詠唱時間:0


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『【魔法創造】の効果により《身体強化》を創造しました』




 俺は魔法を極めるために、地面に落ちたミスリルの剣を手に取った。



「──さて、第二ラウンドといこうか」

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