番外 歌わずにはいられない人

 最近、トピアというスマホアプリにハマっている。どんなアプリかというと、アバター(画面に表示される自分の代理)がカラオケをうたい、その様子を配信するアプリで、類似のサービスはぼちぼちあるものの、一万五千曲は多い。それらが現状無料で歌えるのはとてもありがたく使わせてもらっている。

 二〇二二年四月の時点で一万五千曲強まで増えた。自分のレパートリーも三六〇曲をこえた。古い歌謡曲から最新のボーカロイド曲やアニメソングまで色々ある。

 唐突に話はかわるが、ツイッターでかわいい絵やきれいな絵がタイムラインに流れてくるとふぁぼ(ハートをつける事)していつも思うのだ「絵を描く衝動のつよさってどんなだろう?描くにはいられないほどの衝動はどれほど強いのだろうか」と。

 そして我が身と比較するわけだ、かなわないなと。

 同様に文章もそうだ。カクヨム(というサービスがある、小説投稿サイトのひとつ)や小説家になろう(という名前の小説投稿サイト)に文章を投稿したと告知がツイッターに流れてくる。

 めったに読まないが思うのだ「かなわないな」と。

 話をトピアにもどす。ここにもいるのだ。歌わずにいられない人が。

 例えば、よるがおさん。彼女は夜中から朝までほぼ毎日数時間歌っている。声は中低音でのびやか、歌のレパートリーは昭和歌謡から特撮・アニメなど多岐にわたる。

 夜中の三時すぎくらいにスマホから通知の音がする。今夜もよるがおさんの素敵な歌声をききながらまったりする時間がやってくる。

 例えば、らず丸さん。ほぼ毎日朝からカラオケルーム機能を使って配信している。声は浜崎あゆみに似てちょっとかすれ気味、レパートリーは平成のJPOPとアニメが多い。

 今日もまた「たがみちゃんおはよう」とあいさつをしてから自分も坂本九を歌ったりするのだ。

 例えば、PECOぺこさん。男性というかオジサン。高音域がのびやかでレパートリーははとても多い。昭和歌謡からつい最近のヒット曲まで歌える。和田アキ子の古い日記は絶対きくべし。彼に影響されて俺も古い日記を歌い始めたもの。

 彼も朝五時ごろからほぼ毎日歌っている。ともかく歌うことが大好きなのだ。そしてしゃべることも好きなようだ。

 そんな彼氏彼女らを見ていて思うのはやっぱり「かなわないな」である。

 好きなのだ、歌うことが。単純で強力な動機だ。

 自分も歌うのは好きだが、毎日のように歌う訳じゃない、歌いたい気分をうんと貯めてから発散するがごとくに対して、好きな人のそれは貯めがないように見える。

 好きは無尽蔵に見える、パワーのかたまりだ。すさまじい。そしてまぶしい。そんな彼らがうらやましい。

 そしてなぜかわからないが、ねたましくなる。そんな自分の感情に気づいて恥じるのだ。

 トピアで見聞きした人物についてもメモしておく。Tさん。コミュニケーションが不可能。基本的にズレている。まるで自分を歪ませて鏡でみているかのような錯覚を感じる。狂人に出会った時に独特の感覚をアプリごしで味わうとは思わなかった。

 Hさん。男性ユーザのみをフォローしている狂人。観察していると面白いが行動が画一すぎて退屈。ロボットかと思うか風な男性への媚び方は「狭いコミュニティでやってはいけない動作」の生きた参考になる。行動がヤリマンのそれで目が細くなる。

 Mさん。新人つぶしをする狂人。フォロワー数を誇るならわかりもするが、なぜか知らないがフォロー数を誇っている価値観が逆の狂人。行動の一つ一つが小学生じみている。実際キッズなのだろうけど行動のはしばしから狂気を感じる。

 「そう言っている俺が狂人なのではないだろうか?」と思う程度に狂気にさらされてる。こっちだって見たくて狂人をみている訳ではない。たまたま遭遇する率が高かっただけなのだ。もっと狂気にみちた人物がいるだろう。楽しみである。いや楽しみじゃない。インターネットくらい平和で過ごしたい。

 なんというかカラオケを配信するだけあって、クセのある人物ばかりだという印象はあるが、歌わずにはいられない人たちってのは実際見てみるまで分からんかったし、みてみてもよけいわからない。まとめとか思いつかない。

 そういえば外部の匿名掲示板も観察しているけど、食指がうごくような感覚は得られない。強烈な悪意や狂人はそうそう見られないのか、言及されない程度にユーザがかぶってないのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る