番外 失敗談

 今日もまた事務所に泊まりだ、そろそろ寝袋生活から簡易ベッドにでも進化できねえかな。

 と、寝袋のなかに充満する自分自身のにおいに辟易しながら、俺はねぼけた頭でそんな事を考えていた。ああタバコが吸いたい。メシはいらない、コーヒーが欲しい。

 寒い朝だった。エアコンは入ってない。机の下のフローリングはキンキンに冷えていたが、段ボールを敷きその上に寝袋で寝ていた俺は、なんとか寒さで痛む全身の関節をボキボキならしながら起き上がった。

 昨日は夕方まで通常の業務で、夕方に折込チラシの入稿があり、次の日の朝イチで初校というタイトなスケジュールだった。当然泊まり込み前提という鬼業務で、普段から会社へ泊まり込みをしている俺にとっては、それが「普通」の出来事だった。

 仕事に狂っていた。

 単価があがらず、仕事は減る、パソコンなど機材の費用は高騰するという三重苦で、何を狂ったかそういう仕事ばかり受注するハメになっていた、いつから狂ったのかもう覚えていない。

 夜中に初校を先方へファックスしてから、夜明けの少しの間仮眠がとれた俺だが、妙な疲れと、ハイテンションの絞りかすで、寝起きなのに疲れ切っていた。タバコとコーヒーが欲しい、のんびり風呂につかって足を伸ばしたい。おひさまの匂いがする布団で、足を延ばしてぐっすり眠りたい。

 そんなことを考えていた。

 校正は初校をふくめ三回行われた。赤字はあってもすぐに訂正して、見落としがないようにチェックもしていた。

 だが、納品後ミスがみつかった。冷や汗ものである。何が原因かわかってない。

 いやわかっている。そもそも論としてタイトなスケジュールで、仕事を請けるものではないって事は分かっていた。しかしクライアントや上司に対してそれらを伝える事はできなかった。

 この辺の間に何があったかとか細かいディテールはごっそり記憶から抜けているので割愛する。初校から納品(下版)まで、ただひたすらバタバタして、終わるのが常だった。いい記憶は残っていない。

 ミスをどうすりゃ減らせるか?意図的なしくじりがあったかと言うと、多分ないので意図しないミスばかりで、無意識だから、対策をしようもないというのが当時の自分だった。

 五十才の今なら品質管理の勉強をしたり、人間はミスをする前提で作業フローを構築してみる、ダブルチェックや第三者の力を借りるとか、もう少しどうにかできる気がする。気がするだけで実際ミスは減らせないのだろうなと思うけれども。

 建前だけでもミスを減らす努力をしてますよと、アピールをすりゃよかったのか、今も気に残る事ではあるが、本当にミスは減らそうとしてなくせるモノではないのを、経験で知っているのでどうしようもない。

 後年うけた、いわゆる現場仕事の安全教育関連もそういう部分で思うところがあるが、異論をいった所で通じないだろうので言わずじまいだ。

 パニックになって思考停止して何が悪いんだ。俺はそのような性格なんだ。と諦めている。

 仕事のしくじりについて書くのはつらいが、もっとつらい記憶を掘り当ててしまったので困惑している。

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