第34話 家(下)

栞はそれからしばらく話を続けた


「裕也さんとは話したりするの?」悠


栞は首を横に振って


「子供のころから

あまり話したことがないんだ

家では母さんがガードしていて、俺たちが関わらないようにしていたし

俺も悠ちゃんの家に入り浸っていたから

あんまり家にいなかったしね

学校でも

友達が違ってたから・・・

裕也は近所の幼馴染といたし

俺は涼太たちと仲間になって

裕也は避けるように涼太たちと距離をとっている気がした・・・

お互いに友達がかぶらないように遠慮してたのかも

高校からは裕也はうちの学園に入学したから

全く関りがなくなった

この前、帰国した報告で家に帰った時も

家にはいたけど出てこなかった

会いたくなかったんだろうね」栞


私は栞の寂しそうな顔に胸が締め付けられる


「裕也さんは学園を継がないの?」悠


私がこんな踏み込んだこと聞いていいのかな?

そんな戸惑いが声を震わせる

栞はそんな私に気遣い

私の髪をなでてほほ笑む


「中学までは裕也は優等生だったんだけどね

高校から少しやんちゃな友達とつるむことが多くなったらしくて

学園院長の身内だから大学へも進学で来たらしいけど

高校卒業すら厳しいくらいだったらしくて

もちろん大学も堕落してしまって

今は2度目の3年生をしている

その状況だから

卒業できたとしても

しばらくは同じ学校で教壇に立つのは・・・難しいらしくて

裕也が少し大人になって

立場を理解して学びなおせば・・・継ぐことになるんだろうけど

本当は裕也が学園に入って

親の後を継ぐのが本当で

俺は全く違う場所で生きることが

うちの家にとって一番まともな形で

そうなれば

母さんへの恩返しになる気がしていた

母さんは父さんんに強引に俺の存在を任されてしまって

本当は嫌だっただろうけど

受け入れてくれて

静かな人だから

きっと

とてつもない憤りを抱えながら

俺を育ててくれていたと思うんだ」栞


「そう言えば栞のご家族と会ったことは無かったけど

お母さんとは上手く行ってたの?」悠


「・・・一応、母親をしてくれた

よそから見ればちゃんとしてくれていたと思う

先生や近所の人たちといる時は

裕也と俺を同じようにかかわってくれていたし

ま、家に帰ったら嘘みたいに他人になっちゃうんだけどね・・・

しかたないんだ

俺は愛人の子だよ

子供のころは裕也と差をつけられていることが

悔しくて寂しくて

母さんが嫌いだったけど

大人になっていくと

色々と人の立場とか感情が分かるだろ・・・

やっぱ恨めないよ

形だけでも俺なんかを受け入れてくれたことは

感謝以外の思いはない」栞


栞は本当に優しい人だ

私なら道を大きくそれていたかもしれない

彼なりに色々と反抗心のようなものはあったのだろうけど

ちゃんとここまで期待される位置まで来れている


「辛かったね」悠


その言葉しか出ない自分に腹が立つ


「その時はね

だけど

涼太やパパママそれに悠ちゃんがいてくれたからね

俺が辛い時さ

涼太は何にも聞かないんだ

全然違う話とかして

めっちゃ笑わせてくれてさ

”帰りたくない日は

ママに言ったら電話してくれるから

言えよ”

みたいなこと言ってくれてさ

俺、その言葉が嬉しくてさ

ここに居ても良いんだって思ってさ

居場所作ってくれてさ・・・あいつ・・・あいつには頭上がらないのにさ

俺って恩知らずだよね」栞


栞はまた涙ぐむ

私は栞を優しく抱きしめて


「そんな言い方しないで

私たちが思いあうことがいけない事みたいに聞こえる・・・」悠


栞は私に優しくキスをする

涙の味・・・

いつもより長く優しく悲しく

こんなにも不安定な彼を見るのは初めてで

私は壊れてしまわないように抱きしめる


彼の家庭の事

彼が抱えてきていた悲しみ

それは

まだまだ深く

彼の心の中に占めている

そして

彼を苦しめていることに

私との関係が一つ

あることには違いはなかった


ごめんね


なんて言葉を言ってしまうといけない気がした

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