第25話 特別な日(上)

今日はきっと特別な日になるだろう

私にもそのくらいの予想はできた


前回、早川に言われた


”再来週の木曜日は初めて会った

あのレストランを予約しているから”


私たちも付き合って二年になる

最近では私たちは将来に向けての会話も増えてきた


きっと

プロポーズされる


彼の特別な言い回しに

私はそう確信していた


木曜日

今日はお気に入りのベージュピンクのワンピースでレストランへ向かった

ここへは久しぶりに来る


そう言えば

あの日、栞がアルバイトをしていたことが分かった日

栞と恋を始めた日以来になる


私が店に着くと

店員はやはりあの席へ案内した

こんな時に

この席に座ると思い出してしまう


早川はすでに席についていて

何やら緊張した面持ち


料理はすでに頼まれていて

席に着くなり運ばれてきた


私たちは静かに

会話を重ねながら食事を始める


やはり早川はソワソワ落ち着かない様子


30分くらいしたころ

早川は小さく咳払いをしてフォークを置いた


”いよいよ来る!!”


私も何か緊張し背筋を伸ばした


「あのさ・・・今日ここへきて話したかったのは二つあって

どちらから話すべきか悩んでいたんだ


考えて考えてね・・・僕には決められないから

右と左

どちらかを選んでほしい」早川


彼は私の前に握りしめた拳をだした


「僕の中で

右を選ばれた時の話

左を選ばれた時の話

それぞれ決めているから

悠さんが選んだ方から話そうと思う」早川


私は子供の頃

よく弟とした宝物を当てるゲームのようにワクワクする


「えっ?何?気になる

でもちゃんとどちらも教えてくれるんでしょ?」悠


そう聞くと

早川は優しくうなずいた


「じゃ・・・左」悠


そう言うと


「そっか・・・」早川


早川は小さく呼吸し少し考えてから話し始めた


「先月の話なんだけど

男の子からナンパされてね

彼の誘いでスタバに行ったんだ」早川


???


話の筋はまだ分からないけど

彼は困ったように微笑みながら話を続けた


「栞くんの事なんだけどね」早川


えっ?


耳を疑った・・・早川の口から栞の名前・・・

それを聞くことになるなんて・・・


「実は、彼とは二度目なんだ

二人で話をするの・・・」早川


素直に驚く

二人が二度も私の知らないところで会っていた


どうして?


「僕らがここで彼に会った時の事覚えてるかな?

栞くんがここでアルバイトをしていることを知った日

あの日、僕は君が彼を見る表情に

二人は特別なのかも?と思ったんだ


勘・・・だったんだけどね


その後、気になってしまってね

で、後日

それを確かめるために彼と会った

こんな大人から呼び出されるなんて

嫌だったろうと思うけど

彼は逃げずに僕と向き合ってくれてね」早川


私は何も言葉が出ない

ただただ頷く


「彼に聞いたよ

悠さんの事・・・どう思ってるのか

もちろん僕の気持ちも伝えてね

そしたら彼

あんな優しい顔つきなのに

急にキリッとした男らしい顔になって


”好きです

悠ちゃんのことは

ずっと前から好きです

だから、誰にも渡しません”


そう言い切られたんだ


もちろん

その時すでに

君たちが・・・


君たちが深い関係に進んだことも聞いた


ショックだったな~


マジか?と思った


だって高校生だし・・・少年だよ

確かに彼は魅力的な人なのは僕も話をしていて感じた

でもね・・・まだまだ子供と大人の間で彼は自分つくりの途中だからね


しばらく考えたけど

俺は彼に言ったんだ


”君は彼女をその場しのぎではなく

永久的に幸せにできる確証はあるのか?”


って

意地悪な感じでね・・・


“君と僕らは費やす時間の使い方が違う

君の今は

僕らはとうに通りすぎた過去の道だから

どう考えても無理があるんじゃないか?

身の丈に合っていないと思わないか?

絶対に君らの関係は破綻する

断言できる

その時、彼女のそばに僕はいるよ“


僕も大人げなく彼に強めに話してね


彼、考えてたよ

真剣に・・・

しばらく黙ってたな・・・


だけど

僕を真っすぐに見て


”俺は悠ちゃんが好きです

悠ちゃんだって俺が好きです

邪魔しないでください

あなたは俺たちにとて邪魔者以外の何もにものでもない!!”


そう言い放って帰っていったんだ


その時の僕は彼の不安定な真っすぐさを見せつけられて

不快感で一杯になってね

絶対に君をあきらめないって決めたんだ」早川


そうだったのか・・・そんな事

知らなかった・・・

栞は何も言わなかった

早川も・・・

知らなかったのは私だけ


「それから

彼とは会うことも無かったんだけど

先月、会いに来た


びっくりしたよ


僕たちは順調に進んでいる自信があったからね

彼と君は終わっていると思っていたから


今更、また君か!!って・・・


今度は彼からスタバに呼び出されて

話をした・・・」早川


私はドキドキ胸の音がおさまらない

初めて聞く彼からの話に動揺が隠せない

そんな私を優しく見つめながら早川は穏やかに話を続けた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る