第23話 逃避

栞からメールが入っていた


私は眠っている彼に気が付かないように確認する


”悠ちゃん、今週行ってもいい?

元気になったかな?”


返信を入れようとすると

彼が目を覚ました


「あ~寝てた・・・起きてたの?」早川


私は首を横に振ってスマホをカバンに入れた

彼は私の首にキスをしてまた抱き寄せた

私は彼の胸の中

心地よく癒される


男の人の一人暮らしの部屋に入ったのは初めて

清潔感がありる中で

男の人らしい雑なところも見える

朝、急いでいたのかな?

飲み終わったコーヒーカップが一つ汚れたまま

テーブルの上に置かれている

クリーニングから帰ってきたスーツやYシャツがソファーの上に置いてある

忙しい彼だからクローゼットに入れるのも面倒だったのかもしれない


仕事中の完璧で几帳面な彼からは想像できない一面は女子の心をくすぐる


彼の布団からは彼の匂いがする

かりた大きめのスウェットからも・・・


こんな予定にしていなかったから

彼との初めての夜に

見せれるような下着じゃなかったのが恥ずかしい

彼のエスコートはとても自然で

身を任せる決心をするのに時間はかからなかった


「私、始発で帰ります」悠


「そうなの?」早川


「お仕事だし・・・私もあなたも・・・」悠


「じゃ送るよ」早川


「大丈夫

今日は遠くまで運転してくれて疲れたでしょ?」悠


「じゃ、せめてタクシーで」早川


そう言って彼はタクシーを呼んでくれた

私は身支度をして部屋を出る


「本当にここでいいんで」悠


私は下まで送ろうとする早川を止めてドアを開ける

彼は私の腕を引き寄せて

抱きしめてキスをした

それはそれは大人のキスで包容力と彼の男らしい香に包まれる


「ごめんね

どうしてももう一回キスしたかった」早川


彼は照れながら笑う

私も頬が熱くなって照れながら

彼の頬にお返しのキスをして


「じゃ・・・また」悠


そう言ってドアを閉めた


私はタクシーに乗って自分の部屋へ向かう

一階エレベーター横には、栞が待っていた


そう言えば返信していなかった

確実に怒っているような表情

私は彼に近寄って


「どうしたの?」悠


目が合わせられない

栞はこちらを睨むように見て


「どこ行ってたの?」栞


黙り込む私に栞はため息をつく

そしてくるりと背を向けて帰っていく


「まって・・・」悠


栞は立ち止まる


「まって・・・何しに来たの?急に?」悠


栞は振り返り冷たい目でこちらを見て


「恋人に連絡が取れないから心配になってきたんだよ

おかしいかな?」栞


栞の真っすぐな目が見れない


「そしたら彼女は違う男の匂いをさせて帰ってきた」栞


気が付かれている

何も言えない


「だから失望して・・・帰ってるんだよ

俺は彼女の浮気を許せるほど心は広くないから・・・」栞


浮気が許せるほど心が広くない・・・


それはこちらも同じ

どうしてそんな事を私に言えるの?

あなただって

私が知らないところで何をしていたの?

私に隠している事あるでしょ?

ずっとずっと

私はそんな気持ちでいたのよ


苦しかった

彼の今にも泣き出しそうな目を見るのも…


栞に言いたいことが多くて言葉にならない

いや、言いたくないのかもしれない


彼は私の言葉をしばらく待っていたけど

私は全部を飲み込んで彼に背を向けた


もういいや


そんな諦めのような気持だった

エレベーターに乗り足早に部屋へ向かった

ドアを閉めて鍵をかけた

栞は追ってくることは無かった

私ももう

追われたくはなかった


終わった


その瞬間に崩れるように泣いた


好きだった

本当に好きだった

だけど栞と私は住む世界が違う

別れた方がいい


傷つけてしまっただろうか?

泣かせてしまっただろうか?


それは姉のような感情


真実を知るのは怖かった

今が苦しかった

だから逃げ出した


それは弱い一人の女としての感情


朝が来て

鏡にうつる腫れた瞼を見た


もういい

もういいんだ

私たちはこれ以上

一緒に居るべきではなかったんだ


自分自身に言い聞かせた




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