第16話 涙(上)

最近では同じ売り場に新卒生が配属されてきた

彼女はヒマワリのように笑う子で

私とは違う

彼女は先輩たちからも上手に好かれて

初めての接客だって完璧で

少しおっちょこちょいなところもあるけど

そこがみんなを笑顔にさせて

きっとこんな子がこんな職場に向いているのだろうと考えさせられる

私は二年目にして自分の不向きさに絶望感で一杯になっていた


弱っている時の女はずるい


若干、面倒に思っていた早川からの誘いにのって

最近では月に一度くらいは食事へ行っている


彼はなんにでも早く気が付く人で

感が良いというか、間が良い

私が弱っている時にはちゃんと誘ってくれて

元気な時には音沙汰がない

だから


”そう言えば最近会ってないな・・・”


と思ったときにメールが来るから

最近では少し嬉しさもある


もしかしたら恋愛上級者なのかもしれない


彼は最初の日の事を気にしてくれているようで

あれから一度も積極的に口説いてくることは無い

もしかして

今がキスする雰囲気?と思う時ですら

何もしない

逆に気になる

もしかして

既に私は彼の恋愛対象から外れてしまって

ただのお食事仲間のような存在になってしまったのだろうか?

自分の立場に不安を抱く


今夜も早川とデート

最初に会ったオシャレな洋食店で予約をしてくれている

現地集合

18時半

私は早上がりだから

少し早めにお店に着いた

半個室の角席に案内されると

椅子に腰かける前に彼も店内に入ってきた


「悠さん、待った?」早川


私は座りかけた腰をもう一度上げて


「今来たところです

今日は仕事が早く終わったから

少し早く着いちゃった」悠


早川はホッとしたような笑顔になる


私たちは席についた

何の話でも聞いてくれる

早川の前ではおしゃべりになる

彼は優しい目でこちらを見つめ

うんうん

と同意してくれる

そして

たまに

本当にたまに自分の意見を言ってくれる

押し付けるわけでもなく

提案のように・・・それは的確で関心すらする


ワインのおかわりがテーブルに届いたとき

聞きなれた声で呼ばれる


「悠ちゃん」


私は呼ばれた方に目をやると

そこには栞


えっ?栞

私たちのワインをテーブルに置くと

栞は少し寂しそうな表情で


「デート?」栞


小さく言った

私は状況がよく分からなくて

栞からの質問にはこたえずに


「アルバイトしてるの?」悠


そう聞く

彼は小さく頷く


「悠さん、お知り合い?」早川


早川の声にドキッとして

彼のほうを向くと


「ええ、弟の友達で・・・よく知っている子なんです」悠


そう言うと

早川は


「悠さん、弟がいるんだね

会ってみたいな」早川


栞は小さく頭を下げてそこから去っていた


いつからこのテーブルに配膳していたんだろう?

何枚もお料理の皿がテーブルに届いた

大きなお店ではないから

そんなにスタッフも人数はいない気がする

もしかしたら

私がおしゃべりに夢中で

栞は声をかけるのにためらっていて

ずっと私を

私たちを見ていたのかも・・・

全然気が付かなかった

だって

ここでこんな風に会うなんて予想できない

私は悪いことをしているの?


違う

違う

違うよね!


だって

栞にはちゃんと彼女もいて

幼馴染の前でも平気でキスなんかして

そんなことをしているんだもん

全然、会いに来ないし

待っていても来てくれないし

思わせぶりなことをして勘違いばかりさせられて

だから

私が彼(早川)とデートしてても

栞には見せないような甘えた感じで話を聞いてもらっていても

彼から愛おしい眼差しで見つめられても

それに気が付きながらココに座っていても


責められることは無い


私はまた

頭の中の自分と自問自答していて

一緒に居る早川を置いてけぼりにしていると

彼は静かに話しかけた


「なんだか考え中みたいだね」早川


何かを見透かしたような目

私はビクッとする

取り繕うように首を横に振る

それを見て早川は小さくため息をついて

少し笑った


そこからはいつものように!


を心がけて話をした

チラチラとホールの方を見ながら・・・


いつものようにはなれなかった

ワインはそれ以上進まなかった

ウェイターがお皿を引きに来ると

毎回、顔を見てしまう

栞がこのテーブルに来ることは無かった


食事を終えると彼はいつになく無口で

タクシーに私を乗せた


「じゃまた」早川


なんだか申訳のない気持ちになる


「また・・・」悠


そう言うと彼はドアをまた開けて私の横に座り


「やっぱり家まで送らせてよ」早川


タクシーの運転手さんに行き先を告げる

家までの25分間

彼は私の左手を握る


私は彼の方をチラッと見ると

彼はこちらを見ることなく真っすぐを見ている

何かを考えているようだ

何も話さない

私も何も話せない


家の前について二人でタクシーを降りる


「待ってますか?」運転手


そう聞かれると

早川は私の方を見る

なんて言ってほしいかは私だってわかる


どうするんだ?


と言わんばかりで目を離さない

私はうつむき


「早川さん今日はありがとう

ここで大丈夫です」悠


そう言って彼から手を離す


早川は困ったように後ろ頭をかきながら

大きくため息をついて


「そっか、じゃあね」早川


爽やかな笑顔で乗ってきたタクシーに戻った


ドキドキした


帰ってくれなかったら

部屋まで来ていたらどうなっていたのだろう?


失礼なことをしたのかな?


彼はよく気が付く人だから

私の栞に対しての気持ちに気が付いたのかも・・・


だけど

はたから見たら

栞は高校生

まだまだ子供だし

そんな風に見ないよね

まさかと思うよね


私が少し変なだけだもん・・・


そう独り言をぶつぶつと呟きながらマンション内に入ると

ホールの隅に栞が立っている


涙目?


早川から送ってもらって来たところや

彼とのやり取りを

ここから見ていたのだろうか?

私は入り口を振り返ってみる

自動ドアのガラス越しにしっかり見える


別に見られて困ることはしていない


栞のほうに近づく


「どうしたの?」悠


私は栞の顔を覗き込む

栞は私と目を合わさない


「部屋に行く?」悠


そう言うと栞はコクリとうなずく

小さな子供みたい

私は栞を連れて部屋へ帰った








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