第14話 大人

あの日

栞は目を覚ますと何か予定を思い出したようで慌てて帰っていった

泊まる予定が無かったようで

びっくりしてもいた


「悠ちゃん

ケーキ早めに食べてね」栞


そう言ってたな・・・

小さなケーキだけど一人で食べるには多くて

二日に分けて食べた


ハイカロリーだったな・・・太ってしまいそう


お正月も

実家には帰れなかった


ママが言うには久しぶりに栞が遊びに来たらしい


「栞ちゃん

久しぶりに会ったらかっこよかった~

ママときめいちゃった!1」ママ


そう言って浮かれていた

あれからここへは来ていない


サービス業だし

まとまった休みは世の中が動き出してからになる

落ち着いたら実家に帰ってみよう


1月も10日を過ぎて

やっと日常に戻った


かきいれ時も落ち着いたころ

本社の営業部との打ち上げ的な飲み会が設定された

会社的にも大きいから

全体の飲み会はできないものの

慰労を兼ねた親睦会をチームに分けてすることで

一体感のようなものを作ろうとしているらしく

営業部も忙しいのに幹事として

総務

事務

販売部

配送部

など様々な部署の自分のグループをラインでまとめているそうだ


私は連携といっても社交的なタイプではないので

売り場以外でこういった初対面に近い相手との飲み会のような関わりは

実は迷惑で

でも会社の飲み会はそうそうあるものでもなく

命令に近いものだし

営業の方の苦労を思うと素直に従うよりなかった


飲み会当日

結構おしゃれな半個室の洋食店で私たちの飲み会はおこなわれた


社会人になって外でお酒を飲むことがなかったから

街で酔うのは久しぶりになる

酔いすぎないようにしなくちゃ


各部署から1から2人

販売部は2人だけどお店が違うから面識はなかった

仕事が仕事だけに女性が多いのかと思いきや

合わせたように男女の比率は同じくらいで

自己紹介から始まり

まるで合コンのような雰囲気だった


職場の意見交換から始まり

些細な愚痴

プライベートの趣味など

結構みんな話し上手で時間はあっという間に過ぎた


「では、そろそろお開きの時間になりました

今日の集まりは皆さんのご協力あってのことで

お忙しい中

お時間際ていただきまして有難うございました」営業部


今日の幹事である営業部の男性が挨拶をして

この場は無事に終了した


飲みかけのグラスを置いて

私はコートを着た


店を出ようとしたとき

先ほど挨拶をしていた営業部の男性がこちらに駆け寄ってきた


「あの・・・もしよかったら

もう一軒いきませんか?」営業部


その男性は名刺を見せ改めて自己紹介をした


「僕は営業部の早川 篤史(ハヤカワ アツシ)と言います

27歳です

独身で・・・彼女が欲しいと思っています

ラインでの丁寧な対応と今日のあなたを見て

もう少し知り合いたいと思いました

今日を逃してしまったら

もうないかもしれないので

勇気を出して声をかけさせてもらいました」早川


あまり熱量のある人は好きになれない

以前のトラウマ

グイグイ来る人にスカされた時のショックはとてつもなく大きいからだ


今日は少し酔っている事と早川の誠実そうな物言い

あと

そろそろ私だって彼氏が欲しいと思う気持ちもあって

誘いに乗ることとした


二件目はオシャレなワインバー

静かなお店だから

囁くように話をした

なんだか大人になった気分

この人はこういったお店によく来るのだろうか?

一件目の洋食店も幹事としてチョイスしたのだろうから

もしかしたら結構遊んでいるのかも


少し不安に思う


背は180センチないくらいかな?

割と高め

私が10センチのヒールを履いていても

少し背は低くなる

聞いてみると同じ大学だったみたい

かぶってはいないけど先輩だ

学生時代にはテニス部だったって

爽やかだな

モテたろうな

営業だからか?話が楽しくて

初対面なのに


「悠さんって呼んでもいい?」早川


とスーッと懐に入ってきて・・・

もうけっこう以前からの知り合いみたいに親密で・・・

素敵だな


酔った勢いで聞いてみた


「早川さんって本当に彼女いないんですか?」悠


彼はにっこり笑って


「いないよ

居たら悠さんに声かけたりしない」早川


誠実な答え


「話してて俺の事どう思う?

嫌い?好き?」早川


私はワインを一口含み考える

嫌いではない

だけど・・・好きなのか?

今日会ったばかりの人を簡単に好きになるものだろうか?


「困るよね

そんな質問

ごめんね

だけど俺はもうそんなに若くないから正直

色々と経験があるし

駆け引きのような恋愛は好きではない

気に入ってくれたなら早く始めたいんだ

変かな?」早川


「始めるって?」悠


「ああ

出会って間もなく交際を始めて

それからお互いを知っていくっていうのも

この年齢での恋ではありじゃないかって


俺の先輩なんて

7年付き合った彼女と別れて

半年後に知り合った人と1年もしないうちに結婚してね

さすがに大丈夫ですか?って聞いたら


”新婚生活が新しい事ばかりで楽しい”


って言うんだ

それを聞くとさ

もしかしたら

長く知り合って知り尽くしてってよりも

その方がいいのかもって考えさせられたんだ


だからって悠さんに結婚するかしないかを今聞いてるわけではないよ

俺が嫌なのではないのなら交際を始めましょうって提案してるんだ」早川


妙に納得させられた

直ぐに首を縦に振ってしまいそうなくらいに


今日はじめて会って

話して

彼のことをよく知らない

嫌いになる要素はまだみつからない

だったら

彼の言う通り

それも良いのかもしれない

純一郎とは大学に入ってすぐに思いを告げられて

仲間と好きになる人

その間で積み重ねすぎて

結局ダメになってしまった

もし

もっと早くに決断できていたら

あんな失恋しなかったのかも・・・


気が付くとまた一人の世界に入り込んでいた


「酔っちゃった?」早川


彼は懐っこい笑顔で顔を覗き込む

私はあまりの近さに赤面する

そんな私にまたほほ笑み

彼はさりげなく自然にキスをした


えっ?


驚いたのは嫌じゃなかったこと

それどころか

このままもっと・・・と思ってしまっている自分がいたこと


「どうする?これ以上はここではできないけど・・・」早川


誘われている


彼には私がどう見えているのだろうか?

キスをしても嫌がらなかったから

軽い女だと思っているのだろうか?

そういう事にも慣れている女だと思っているのだろうか?


そう思うと急に臆病な自分が前に出てきた

酔いは一気に冷めて


「ごめんなさい

早川さんの事嫌いじゃないです

だけど

私、そんなに簡単には考えられないので・・・」悠


そう言って店を出た


近くのタクシーに飛び乗る

ドキドキしている


ドアが閉まると行き先を伝える

運転手さんが


「お連れのかたですか?」運転手


と私を見る


車の横に早川が息を切らして立っている

追いかけてきたようだ


私は少し会釈をして


「行ってください」悠


運転手さんにいった

何度か振り返って彼を確認する

見えなくなるまで彼はそこに立っていた


悪かったかな・・・


だけど怖かった

そのままどんどん進んでしまうといけない気がして

なぜだろう

嫌じゃなかったのに









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