第14話 運命の赤い糸、繋げて結んで。

「な、なんでですか!?」


 今のはそういう雰囲気じゃなかったか!? 嫌なのか?? 俺とキスするのは嫌なのか??


 俺は予想外の出来事に、頭を混乱させてしまう。


 え、付き合うのはOKだけど、キスは駄目ってこと!? なんじゃそりゃ!?


「照君。 落ち着いて。 別にキスが嫌だとか、駄目ってわけじゃないから。 寧ろ、キスしたいから」


「そ、そうなんっすね」


 俺は雫さんがキスしたいという気持ちを持っていることを知ると、少し落ち着く。


 落ち着くと、なんでキスしちゃ駄目なんだろうっていう疑問が湧いてきた。


「なら、なんでキスしちゃ駄目なんですか??……もしかして、口、臭いですか??」


 しまった。 ピザとパスタで匂いキツイものは食べていないつもりだったけど、もしかして俺が知らないだけで、ニンニクとかを使っている食べ物を頼んでしまったのだろうか?


「ううん。 そういうわけではないんだよ。 ただの私の小さなプライドが邪魔しただけ」


「小さなプライド??」


「うん。 その辺のことも話したいから、少し私の話を聞いてくれるかい?」


「分かりました」


 俺が頷くと、雫さんは一息吐いた後、話し始めた。


「ぶっちゃけるとさ、私、照君に一目惚れしたんだよね」


「雫さんもですか!?」


「そうだよ。 だから、さっきは驚いちゃった」


 雫さんはにぱぁ〜と口を開けて笑う。


 その笑みは見たことがないものだった。


「視線感じるなと思ってそっちを見たら、運命の相手がいたの。 心臓はドキッと跳ね上がったし、照君の周りにはハートマークとかが浮かんでいるように見えたわ」


「へ、へぇ」


 俺の周りにハートマーク……なんだか似合わないな。


「運命の相手だ、赤い糸が見つかったってすぐに思ったわ。 そして、この糸をなんとか繋げて、ゆくゆくは結んでいきたい、結ばないとって思ったの」


「お、俺も運命の相手だと思いましたし、この赤い糸を逃しちゃいけないって思ったんです! まじ奇遇ですね!」


 そんなことってある!?


「あら、似た者同士なのかもしれないわね」


「やばいっすねー」


 もう以心伝心じゃない? キスしよ。


「で、なんとか心を落ち着かせながら話しかけて、一緒のサークルに勧誘することができた。

 私、とても嬉しかったわ」


 クールに人集りの中に消えていったけど、嬉しかったんだ。


「そこから照君と関わっていくうちに、私はドンドン照君に対する気持ちが大きくなっていった。 その結果が、突撃お宅訪問よ」


 そう言って、雫さんは悪戯っぽく笑ってウインクする。


 まじで来たくなったから来たのか……。


「そこからキャンプをして、満点の星空を見て……私は照君に対する想いがドンドン大きくなっていった。 そして、私の家で呑み会をした時、私の気持ちを抑えていたなにかにヒビが入った」


「と、いうと??」


「ぶっちゃけ照君を襲いたくなった!」


「ぶほっ!?」


 俺は思わぬカミングアウトに、唾が変なところに入って咽せる。 いきなりなにを言い出すんだこの人!!


「宅飲みをして、私が酔っ払った。 正直、あの時私は期待してたいんだよ?」


「な、なにを……??」


「……ばっか。 女の口からそういうこと、言わせるな……」


 雫さんは恥ずかしいのか、蚊が鳴くような小さな声でボゾッと言う。


 ……あ、ふーん……。


「襲っちゃいたい、でも、女の子としては……って、酔っ払いながらも色々悶々してたの。 で、結局、照君は私の頬にキスしたでしょ?」


「起きてたんですか!?」


「バリバリ起きてたよ」


 うっわ……あんなに確認したのに……女の人って怖い!


「キスされて、私の中には二つの気持ちがせめぎ合っていた。 一つはキスされてやったー!という嬉しい気持ちと、もう一つはそこは唇にキスするところだろー!?ヘタレやがってという、怒りの気持ち」


「うっ……。 ご、ごめんなさい」


 でも、当時はあれが限界だったんだ。


「謝らなくていいよ。 誰が悪いとかじゃないと思うから。 それで、キスされてからはもう落ちつかないよね。 逆に落ち着かないから、絶対私の誕生日に照君を堕としてやるって決めたの」


「そうだったんですか!?」


 俺の気持ちが暴走気味だった時、雫さんはそんなことを考えていたのか。


「そしたら、私の誕生日に照君がデートに誘ってくれたでしょ? あ、これはきたなって思ったわ」


 それは確かにきたなって思ってもしょうがないな。


「告白したい、でも、告白されてみたい気持ちもあるっていう、めんどくさい葛藤があったけど、もし、照君がへたったら私から告白する、勝負を決めるって決めてたの。 ま、結果は照君が漢を魅せてくれたけどね」


 雫さんは笑いながら肘で俺の小腹を突く。


 なんだか色々とくすぐったかった。


「ちなみに、俺が告白しなかったらどうするつもりだったんですか?」


「星空を見ながら、私から『月が綺麗ですね』って言うつもりだったわ」


「あ、有名なやつですね!」


「そうね。 でも、これで通じなかったら強硬手段に出るつもりだったわ」


「と、いうと?」


「ホテルに無理矢理連れ込んで、朝まで一緒に過ごす予定だったわ」


「あっ……」


 複雑だ。 女の人からリードされる。 それもいいなって思ってしまった。


「でも、結局は照君が告白をしてくれた。 私達は両想いだった。 そして、照君は告白もしてくれたし、キスもしようとしてくれた。 でも、そこで私は思ったの。 あれ? 私なにもできてないって」


「そんなことーー」


「そんなことあるの。 私はそう思ったの」


 雫さんがピシャと言い切る。


 それに俺は反論することが出来なかった。


「だからキスは、キスぐらいは私からしたいって思って、さっきは止めちゃった。 私の小さなプライドのせいでごめんね?」


「いや、謝られなくていいっすよ! 安心したし、なんだか嬉しいっす!」


 そういう理由なら、全然問題ないな。


「ふふっ。 そう言ってくれてありがとう。 大好きよ、照君。 愛してる」


「ん!?」


 雫さんは俺の首に手を回したかと思うと、キスをしてきた。


 初めてのキスは柔らかく、情熱的だった。


「んっ……」


「む、む〜〜!?」


 一度唇が離れたと思うと、すぐにもう一度キスがくる。


 今度は舌が入ってきて、大人のキスだった。


「……ぷはぁ」


「…………」


 唇が離れて、雫さんの顔全体が見えるようになる。


 顔を真っ赤にしていて、妖艶な舌なめずりをする雫さんは、とても色気があった。


「私、ちょっと重いかもしれないけど、これからよろしくね、照」


「………よろしく、雫」


 俺たちは手を重ねて星空を見る。


 俺の横には最高の織姫が座っているのだった。

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