第5話

 夜会も中盤を過ぎた。すでに王族への挨拶は皆済ませたようで、各々談笑やダンスを楽しんでいる。


 ユーフィリアが扉から出ていくのが見える、宣言通り抜け出したのだろう。


 言っておくが、別にずっと見ていたわけではないからな。たまたま、見えただけだ。

 無能と揶揄される俺に声をかけてくるような人は限られており、大抵の社交界では一人になっている事が多く、今回も例にもれず一人で食事をしている

 そのため、なんとなく周囲を見渡して、食事をしての繰り返しをしていたら偶然気付いただけだ。


「ねぇ、アル。暇なら、私と踊らない?」


 心の中で、言い訳をしていると、いつの間にか俺の近くにシルヴィアが来ていた。


「暇だけど、俺は社交界では有名人だからな。俺と踊ると目立つぞ?」


 シルヴィアは強気な雰囲気とは裏腹に、大勢の前で目立つ事が苦手なのだ。


「そうだけど、せっかくだし踊りたいなと思ったのよ」


 シルヴィア少しがっかりしたような表情で言う。


「それなら、レオと踊ったらいいんじゃないか?」


 レオナルドとシルヴィアなら、美男美女のコンビで華やかになるだろう。

 俺と組んで変に目立つよりも、良いほうで目立った方がいい。


「レオは、女の子をとっかえひっかえしながら踊っているわよ。あいつ、ずっと踊って疲れないのかしら」


 シルヴィアは、呆れたように言う。


 レオナルドは大の女好きで、本人の顔立ちもあり、こういう場では女性といる事がほとんどである。俺がそんなレオナルドの事を女性関係で失敗しないか密かに心配している事は本人には内緒だ。


「あぁ、なるほどね。じゃ、俺と踊ろうか。いや、シルヴィア嬢、俺と踊ってくれませんか?」


 シルヴィアが見てわかるくらいしょんぼりし始めたので、俺は彼女と踊ることにする。


 俺は、しっかりと片膝をつき右手を差し出す。


 今では、大事な時以外には行われなくなったが、女性をダンスに誘うポーズである。


 大げさだが、こうすれば俺から誘ったとアピールできるし、シルヴィアは相手が無能であっても誘いを断らない慈悲深い女性という印象を周囲に与えることができるだろう。


「えっ、ほんと?うれしい。喜んで!」


 シルヴィアは俺がダンスを申し込んだのを見て、ぱぁっと表情を輝かせる。







 俺はこういった場で踊りを誘ったり誘われたりすることはほとんどなく、しっかり踊れるか不安だったが、マリアに小さい頃からスパルタ教育されてきただけあって、特に大きなミスもなく踊りきることができた。


 気になる点を挙げるとしたら、終始シルヴィアの顔が真っ赤に染まっていたことくらいだろうか。


 やはり、俺と踊ると嫌でも周囲から視線を集めてしまうからな、少し彼女に悪いことをしてしまったな。


「シルヴィアがダンスを上手で助かったよ。おかげで最後までしっかり踊れた、ありがとう」


 シルヴィアがたどたどしい俺のリードをしっかりサポートしてくれたおかげだ。


「アルも上手だったよ。ねぇ、アル、私ね、アルの事が…」


「どんなに無能でもダンスは踊れるもんなんだな。驚いたよ」


 シルヴィアが意を決して、何かを伝えようとするが、横からエリオットが割り込んでくる。


「エリオット!また、アルの事馬鹿にして。今回ばかりは許さないわよ!」

 

 シルヴィアが自分の話を邪魔されたのもあってか、エリオットに怒る。

「馬鹿になんかしていないさ。ただホントの事を述べただけだ」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらエリオットは応える。


「それを馬鹿にしているっていうのよ。スキルが無くたって踊れるし魔法も使える。剣だって振れる。何だってできるんだから。アルを無能って呼ばないで」


 シルヴィアが心の奥から僕の為に怒ってくれているのが分かる。


 でも、シルヴィアごめん。スキルがある人とない人の間には絶対に超えられない壁

があるんだ。どんなに努力しても超えられない壁がね。


 俺は何度もその壁にぶつかったし、何度も超えられると信じて努力した。けど、結果は何も変わらなかった。スキルはそれだけ絶対的なものなのだ。


「シルヴィア、もう怒らないで、もういいんだ。無能だってことは俺が一番感じている事だから」

「そんなこと、ない。アルは無能なんかじゃ」


「歴史上最強とされているユーグバッド=リングスターはね、天才とは1%のスキルと99%の努力であると言ったんだ」


「えぇ、知っているわ。99%の努力をすれば誰でも天才になれるって事でしょ?」


「そう考える人が多いけどね、俺にとっては違うんだ。どんなに努力しても1%のスキルが無ければ、天才にはなれない。どんなに努力しても無駄になるんだ。スキルを持っている人には勝てないんだよ」

「そんなこと」


 シルヴィアは、そんなことないって言いたいのだろうけど、やはり言い切れないのだろう。少し彼女に申し訳なく感じるがこれでいいんだ。


 どう答えればいいのか彼女が逡巡していると


『キャー』


 入り口付近で悲鳴が上がる。


 そちらに視線を移すと、武装した男の集団が入ってくる。


 すでに先頭にいる数名は騎士達と戦闘になっているが、人の多い室内の為、押され気味である。その為、他の騎士たちも援護しようと入り口側に移動していく。


 会場内の騎士たちが入り口に移動していくのを見計らったように、今度は反対側のガラス窓がガシャンと大きな音を立てながら割れて、仲間だと思われる男たちが入ってきた。

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