第2話

 馬車を降りた俺と母上はそのまま城門をくぐり王城の入り口まで来ていた。ちなみに、マリアは中に入ることができないので、馬車で御者と共に待機だ。


 ここに来るまでの道には様々な花や木々が咲いていて、綺麗に手入れされている事がわかった。まぁ、王城なのだから一流の庭師が手入れしているはずで、当たり前の事なのだが。


「やぁ、ミリア。これを、ユーフィリア第一王女殿下へ渡しといてくれるか?」


 俺は入り口にて、見知ったメイドを見つけたので、小鳥を第一王女のユーフィリアへ渡してもらうことにした。

 ミリアはユーフィリアの専属メイドの一人で、マリアの妹でもある。


「直接お渡ししなくてよろしいのですか?」

「渡したい気持ちもあるけれど、今回はパーティーの邪魔になるかもしれないからね」


 生き物を夜会に持ち込んで、トラブルが起きたら王女殿下に申し訳ないからね。


「あぁ、なるほど、確かに邪魔になるかもしれませんね。では、私の方からお嬢様にお渡ししておきますね。添える言葉は「貴方への愛を小鳥へ込めた。俺たちの子だと思って育ててくれ」でいいですかね?」


 ミリアはどこぞのイケメン貴公子のような身振り手振りと声で言う。


「いや、どこの変態だよ。普通におめでとうとだけ伝えといてくれ」

「それじゃ、つまらないですよー」


 ミリアは少し頬を膨らませて言う。

 ミリアは良くこうやって俺の事を揶揄ってくるがなかなか憎めない。


「お前がつまらないだけだろ、じゃあ頼んだぞ」


 ミリアに小鳥を託し、俺は母上と共に会場内へと入っていく。







 会場内に入ってすぐ、母上は仲の良い婦人達の輪に向かい、俺は若い世代のいる方に向かう。


(おい今回も侯爵家の恥が参加するようだぞ)

(なんと、子供たちには無能がうつるから近寄るなと言い聞かせておかないとな)

(おい、聞こえるぞ。もっと小さな声で話せ)


 移動する間にそんな会話があちらこちらでされているのがなんとなく分かる。

 はぁ、嫌になる。


「おい、アルベール。今年も来たんだな。てっきり無能すぎて家から追い出されたかと思ってたぜ」


 にやにやと気味の悪い笑みを浮かべてエリオットが話しかけてくる。

 エリオットは五大貴族の一つであるマークスター侯爵家の長男であり、俺と同じ年でもある。また、いつもこうやって孤立している俺に話しかけてくれるイイ奴でもある。


「やぁ、エリオット。残念ながら、まだ追放されていないんだ」

「もし俺の子がお前みたいな無能だったら、片田舎に追放して人目に付かないようにするけどな。ランスタッド侯爵様もよくお前みたいな一族の恥をいつまでも世間の目にさらしていられるよな」


 正直、エリオットの言う事は、今のこの国の貴族の在り方を表していると思う。

 俺も、父上が俺を追放しないのは異質だと感じている。


 そもそも、有能なスキルが得られなかった時点で秘密裏に殺してしまうという貴族も多々いるのだ。


「あぁ、俺もそう思うよ」

「だよな!お前が追放されたら、マークスター侯爵家の領地で保護しようと思ってたんだがな。場所はオイレ村だけどな」


 そう言うと、エリオットは下品な笑みをさらに深める。

 オイレ村は山岳地帯の麓にあり肥沃な土地が広がる地域にあるが、獣や魔物の被害が多く人がほとんど寄り付かない場所として有名である。


 そんなオイレ村だが、俺の追放された際に住みたい場所ランキングの5位以内にランクインしている。


「もうすでに、お前用に家も用意してあるんだ(ボロボロの物置の事だけどな)」


 最後の方はぼそぼそとしていて聞こえなかったが、家まで用意してくれるとは、エリオットは気が利くな。


 家があるならオイレ村が1位かな。


 そんなことを俺が考えていると後ろから

「エリオット、なんの話をしてるんだ?」

 と語気に力のこもった声が放たれる。


「げ、レオナルドとシルヴィア!アルベール、俺は用事を思い出したから、これで失礼する」


 俺の後ろをみて、そそくさとエリオットは去っていった。

 俺が後ろを振り向くと声を放ったレオナルドと、その隣にはシルヴィアがいた。

 

 二人とも五大貴族の子息子女であり、俺の幼馴染でもある。

 また、レオナルドとシルヴィアも俺と同じ年齢である。

 

 俺は会ったことはないが、もう一つの五大貴族にも俺と同じ年の娘がいると聞いたことがある。

 五大貴族全ての家で同年に子が生まれたとあって、一時期世間は盛り上がったという。


「アル、また、エリオットの奴になんか言われたのか?」


 レオナルドは心配そうな顔で俺に問いかける。


「いや、別に言われてないよ」

「ほんとに?」


 今度はシルヴィアが俺に問いかけてくる。


「ほんとだよ」

「そう、じゃあこの子に聞いてみようかしら」


 シルヴィアはそう言うと俺の肩のあたりから、そっと何かを捕まえる。

 シルヴィアの手元に移った何かは徐々に姿を現し始める。


「精霊に聞くのか?」


 レオナルドが不思議そうにシルヴィアにきく。


「えぇ、そうよ。精霊が見聞きした物を知ることができる魔法があるのよ」

「ほぅ、初めて知ったな」


「アルには何故か精霊がたくさん寄ってくるから、アルベールの事を知るにはすごく便利よ?レオも覚えたら」


 そう言いながら、シルヴィアは手に乗せた精霊に魔法をかける。


 二人とも美形だから、話しているのを第三者から見るとすごくお似合いだと思うが、この二人は互いに異性としては考えられないらしい。以前に聞いた事があって、激しく否定されたのを覚えている。

 

 それよりも、今聞き捨てならないことが聞こえた。俺に精霊が寄ってくるなんて初耳だ。精霊から情報を得る魔法があったら、シルヴィアに隠し事ができないじゃないか!


 

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