借金3億・ウーパールーパー(!?)、妄想OLと暴走中💘

うぱ子

第1話 7月20日、UPA襲来🌠

 夢と現の際どい淵を彷徨う時。

 意識がはっきりとしてさえいれば、「こんなことは起こり得ない」と断言できる。

 しかし、夢では辻褄が合わない出来事でも、何となく受け入れてしまう。

 今、私が見ているのは、白紙にできる夢なのか。

 それとも、紛れもない現実なのか。 


 雷鳴が響き渡る。

 夏の天候は変わりやすい。

 それは乙女の心だけではなく、平穏な日常にも言える。


「ねぇねぇ」

 背後から声が聞こえ、振り返る。

「こんな日には、こわーい借金取りも来にゃくていいねぇ」

 バスケットボール程の大きさ、色は淡いピンク。

 体を支えるには不十分すぎる、小さな手足。

 とぼけた目に、笑っているのか、悲しんでいるのかはっきりしない口元。

 ちょこんと付いた尻尾。

 そして、特徴あるピロピロ。


 一見、かわいいウーパールーパーのように見える。

 だが、こんなに大きくて、陸地に佇むウーパールーパーがいるだろうか。

 まして、日本語が通じるなんて。

 私はこの不可思議な生物に、「うぱまろ」という名前を付けた。


 20✗✗年7月20日、海の日。

 清々しい程に晴天だ。

 30度を超える気温と、強い紫外線、蝉の鬱陶しい音が耳に鳴り響く。

 灰色のコンクリートが、陽射しのせいで白く光って見える。

 お気に入りの、白地に水色小花柄のワンピースを着てアパートを出る。

 10分弱しか歩いていないのに、服の背から汗がじんわりと湧き出てくる。

 絵に描いたような、ある夏の日。


 私、あぴ子は、駅の改札を通った。

 最寄り駅から電車に乗ると、車内で大学生らしい男女10名程の騒がしいグループと遭遇。

 某100円ショップ名が印字されたビニール袋に大量の割り箸や紙皿などが入っている。

 茶髪で、短パンのポケットからだらしなく長財布を突き出した男性。

 濃いメイクに、背中のぱっくりと空いた派手なリゾートワンピースに、ブランドバッグを持つ女性。

 男女で誰と誰が付き合っただのというくだらない話で盛り上がったり、ボディタッチをしたりで華やいでいる。

 これから、リア充サークルでBBQだろうか。


「噴火しろ☆」

 密かに毒づく。

 もともとこういった「リア充」と言われる人間に対して自分とは住む世界の違う人種だと思い、得意としていないが、ここ最近は特に視界に入れたくなかった。

 理由は、呆れるほどに単純。

 数日前、新卒時代から3年近く同棲した彼氏と別れたばかりだからだ。

 悲しみのどん底となった25歳の夏を、賑やかなリゾート地の如く変貌させるため、ある場所に向かう。


 池袋、池袋。

 電車のアナウンスが聞こえる。

 人の流れがドアの外へと向かう。

 押し出されるようにホームへ降りる。

 上京したばかりの頃は目的地に辿り着けるのかと不安気に歩いたものだったが、今では我が庭のように歩ける。


 実家から私の様子を見にやって来た両親に池袋を案内した際、「すっかり都会の人になっちゃって」と茶化された。

 両親の笑い顔にどこか寂しさを感じたが、田舎に帰りたい気持ちを抑えられたのも、同棲した彼氏との生活が楽しかったからだった。

 しんみりとした気持ちを抱きながら、池袋駅を東口へと向かって歩く。


 池袋駅の地下から地上の出口へ上がると、眩しい日差しが降り注ぐ。

 大通りを歩くと、キャラクターショップ、スイーツ専門店、アパレル関係、ファストフード店、古本屋。

 細い通りにも、穴場のワインバルやタピオカショップなど。

 一つひとつ見ていけば、きりが無い。


 大通りの終点を左へ曲がってしばらくすると、私のオアシス。

 そこは、中古のイケメンキャラクターグッズや同人誌が並ぶ通りだ。

 同棲していた彼氏に遠慮して、隠しながらの趣味だったが、部屋に自分しかいない今、その空間をどう飾ろうが自分しか知らない。

 帰ったら、持っているポスターを壁から天井まで貼って、缶バッジをコルクボードに飾り立てて、同人誌を本棚に並べて、抱き枕を召喚させよう。


 無数のイケメンキャラクターグッズの陳列棚で、私は体に張り巡らされたセンサーによって、最推しのタマキさんの缶バッジを0.05秒で発見する。

 短髪、色白、切れ長の流し目に、薄ら微笑む口元のタマキさん。


 か、か、かっこいいいいいいいー!

 何度見ても惚れる♡

 何ならこの缶バッジ、既に持ってるのに一目惚れの感動、キタキタキターッ!

 テンションも血糖値もぐぃぃぃぃぃんっとアーップ☆

 今なら宇宙まで自力で飛べそうぅ♡


 タマキさんのことになると、どうやら私は人格が変わってしまうようだ。


 今日は新しい出会いはなかった。

 だが、恋する乙女はここで引き返す訳にはいかない。

 男の傷は男で癒やすしかない。

 額から流れる汗は、暑さからなのか、愛するタマキさんへの執念からなのか、分からない。

 さらなる刺激を求めるため、オアシスを背にし、大型ショッピングモールへと向かう。

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