第6話 圧倒的な力




 ニフティーは会場の遥か上に到着した。


「もう着いたのか?! 5分もかかってないんじゃないか?」


 上空から下を見るとジンクス同士が戦っている。 カメラをUPにして状況を確認すると青い機体が膝をついて止まっていた。 あれはケイの機体だ。 あらかた自分と同じ目にあったのだろう。そうライルは察した。 そして優勢を握っているのが、ナキート。



 ライルは一気に下に降りた。


「終わりだな、青いの」


 ナキートがハンマーを振り下ろした時、ハンマーは何故か下まで行かず止まってしまった。機体をへこますほどの勢いで思いっきり振り下ろしたのに。


「何だと!?」


 ナキートの前に得体のしれない機体が現れた事に怒りを覚える。 早く帰りたいのに邪魔がはいるのはストレスが溜まった。 何より横入なんてのは誰がされても腹が立つ。 これが決まれば試合も終わって帰れると言うのに。



「お~~~~っと、なんという事でしょう。 チャンピオンのとどめの攻撃に邪魔が入りました。 あの得体のしれない機体はいったい何なんでしょうか!?」


 会場はざわつきをきす。  何なんだ。 邪魔をするな! とケイを助けに入ったロボットに野次を飛ばす観客たち。 だが驚いていたのはジンクス乗り達だった。あんな機体見たことがない。と言うより、ジンクスなのかと? バビルも特別室からそれを見ていた。 彼の顔は凝固した。


 「ネクスト・・・・ ネクストがなぜここに。 いや、あんな造りのネクストを見た事がない。なんだ、あのシルエットは、 何処の新型だ」


 そんな困惑もたらしながら、いきなり胸元を開きけロボットからパイロットが出て来る。 その姿にナキートは目を丸くした。


「よう。 お前の言う通り、”もう一機”で来てやったぜ、チャンピオンさん」



「あのガキか」


 バビルは観客席で拳を思いっきり机に叩きつけた。 後ろに控える黒スーツの男共に手を払って命令する。


「あいつについているバックを調べろ」


「てめぇ……そんなのどっから……」


 明らかに最初に戦った機械よりも造りが精巧な機械。ナキートもまさかそんな機械を持ってくるとは思っていなかったので、仰天だった。


「つう訳で、ここからは選手交代だ。 そっちも見たとこ、腕一本だけだろ? そんなに損傷もないみたいだし、チャンピオンのハンデって事で、いいよな?」


 観客はライルの登場にさらに騒ぎ立った。罵声だったそれは、歓声へと変わった瞬間である。 あんな約束をしなければ。 こんな異例の試合はただの一度もなかった。





 経済都市の一室では高価な椅子に座りながらモニターを囲んで、沢山の男や女たちが注目していた。 皆は酒を飲み、果物やデザート等も置いてある。 しかし、宴会をしている雰囲気では無く、どちらかと言うと会議室。 彼らは口元が緩みはしていたがとても真剣なまなざしで見ていた。


「これはすごい。 なんと面白い大会なんだ」


 ドレスを着た女が煙草を吸いながら口を開く。


「溜まらんな。 この盛り上げ方。 今までで一番のショーじゃないか」


「バビルの奴だな。 あいつもくそだとは思っていたが、これは大盛り上がりを見せているに違いない。 後で昇進の話しを持って行ってやるか」


 ここに集まった連中はさぞ喜んでいた。 それはこの試合で大金が動くからだ。大いにかけたナキートへの掛け金。 今回のこの演出は見ている者すべてを湧きたてたのは一目瞭然。当然、他のスポンサーがまた目を向け利益が動く。 本来の彼らの試合なら異例の挑戦者など決して認めないのだが、演出だからこそそれをよしとする。 彼らの中に不信がってバビルに連絡する者などいなかった。



 それとは反対にバビルは頭を抱えていた。 いつ上から連絡が来ることかと思うと動揺を隠せない。


「なんてことだ。 戻ってきやがった。 あのパイロット。 なぜだ? 誰が来ても時間がかかる場所に建てたと言うのに、どうしてだ。辺り散らべた警備は万全のはずだ。そんな機体、何一つ見つかってもない。 こんな荒野のどこに隠せる。岩すらないような場所だと言うのに。 仮に持っていたとしても間に合うはずがない。 どうやって来たんだ」


 ナキートと腕のあるパイロットとが戦えば確実に、ナキートが負ける。 そうなればここにかけた金額、おおよそこの大会が2回開ける程の金額が損失する。 ナキートはこの結果だけは避けたかった。 見られれば首が飛ぶ。 つまりは必然的に経済都市に居られなくなってしまう。 家族が苦しんでしまう。 被害を被るのは自分だけではない。 許してもらえるからする危うい。



「ふ、ふざけるな。 お前どうやってここまで来たんだ」


「どうやってて、こいつで来たに決まってんだろ? なんだ、もしかして言ったことをしらばっくれるつもりじゃないだろうな? チャンピオンともあろう者が」


 ライルは挑発して見せてた。歓声をより際立たせるための波はこちらにある。 ナキートも観衆の目がある。 何より高らかに宣言した事は皆に聞かれているのだから戦わなければならない状況がそこにあった。


「何やってる!チャンピオン!早くやれ!」


「そうよ、またコテンパンにしちゃってよ、チャンピオン」


 しびれを切らした観客たちが後ろから押してくる。


「な、ならやっていやるよ。 か、掛かってきやがれ。 このガキがぁ」


 もう、半分やけくそであった。 ライルはその言葉を待っていたと言わんばかりにまたコックピットに乗りこむと、両者互いに突撃した。 しかし、ライルはまだ上手く機体を動かせないのは事実。 何をどうすればいいのかすら分かりはしない状況。 ナキートとて容赦はない。 ナキートのハンマーは開始の合図を待たず見事にニフティーの胸に当ててみせた。 


 その状況に観客は豆鉄砲を食らったように笑う。 ナキートもこの一発で退場願おうと思っていた結果が以外にもあっけなく当たったものだから、勝利を確信した。


「ははははっは。 やはり、雑魚は雑魚。どれだけ、機体を乗り換えても同じ結果なのだ」


 ライルは驚いていた。 ありえないからだ。 普通、いや、経験上ならへこんでとてつもなく強い衝撃がコックピットを襲う。なんせ不意に攻撃されたのだから。そのはずなのに何の振動もない。 ニフティーが語り掛けてきた。


『質問よろしいでしょうか? これが、ジンクスと言う機体なのでしょうか?』


「そ、そうだけど……」


『でしたら、先ほどの質問の答えですが、こちらの機体が奪取されない限り、負ける事は99%ありません』


「なぁ、ちなみに、今のダメージって?」


『はい、軽微なものでしょう。 装甲に薄く傷が入ったぐらいではないでしょうか?』


「あと、パンチってどうしたら出せるんだ?」


 ナキートは止まったニフティーをまたハンマーで殴りつけた。 動かない今がチャンスだと思わんばかりに容赦のない叩きが入る。 観客はその一方的な光景に盛り上がっていたが、当の本人は手ごたえがないのである。 


『右手で良ければ窪みの部分を押し込んでください』


 ニフティーの言われた通りに軽く触ると、右手が前に出た。 それは左側の腰部に当たりナキートの機体左足が付け根から飛んでいく。 


 それは誰もが驚く光景だった。 この世界でそんな事をやってのける機体は無いからだ。


「終わりにしよう、チャンピオン」

 

 そう言って崩れ落ちたナキートの機体を両手でつかむと、場外へ向けて思いっきり投げ飛ばした。


 圧倒的な勝利。開始僅か1分ほどの戦いだった。 


「え、えっと……い、一度審査に入らせて頂きます。 誰か、チャンピオンの救出を急いで下さい」



 バビルはすぐさま何処かへ電話をかけていた。  こうして、連続一位の記録を崩した機体の登場に人々は喜びの声を上げ。しばらくして、ライルの優勝が発表されジンクスファイトは幕を閉じた。 



「ライル君、おめでとう」


 バビルから優秀賞金、10億リルを手にし、ライルはその金を一人去ろうとするケイと分け合った。



 敗退者たちが去って行く中、ジンクスファイトの格納庫でニフティーを見上げるクレイドと話すライル。 クレイドは興奮している。


「こ、これ、何なんなのよ。 ライル、こんなの隠し持ってたの?」


「拾ったんだ。 何の運命か分かんないけど、こいつのおかげで助かった」


「ねえ、私も中見ていい?」


「良いよ。 俺ちょっと気分がすぐれないから少し休んでくるよ」


 ふらふらとよろけながら歩くライルを心配するクレイド。


「ライル、あなた、本当に大丈夫?」


「なに、ちょっと色々あり過ぎただけさ」


 ライルはそのまま行ってしまった。


「にしたってこれ、どうやって動かすんだろ? どこ見ったって、何も無いんだけど…… ていうか、どこがスクリーン?」


 中を見て、操縦席はあれどあまりにももぬけの殻状態にクレイドは戸惑っていた。 



 ケイは自分のテントに戻ろうとするライルとすれ違った。 


「ライル! 色々ありがとうな。 優勝賞金まで山分けしてもらって」


「っはは、良いって」


「……ライル? お前どうしたんだ」


「ちょっとな、 色々あり過ぎて、疲れたみたいだ。 優勝して安心したら急に疲れが出たんだと思う。 少し休むよ」


「そうか。 今度何かあったらお礼をさせてくれ。 俺で良ければ力になるから」


「あぁ、それは嬉しい。 また、後で、連絡先教えてくれるか。少し寝るわ」


「そうだな、悪い。 後で来る」


 そう言って二人は分かれた。





 その頃地球の上。



「主力戦艦、前へ!」


 何十もの戦艦がお互いにらみ合うように宇宙に浮いていた。 動き出したのは艦体にL.S.E.E.Dと書かれた戦艦たちだった。 




「始まりましたな。提督」

 戦いを見守る男は黙って静かにその輝く宇宙を見つめていた。



「ラミアス指令。 敵艦体が動き出しました」


「動き出したか! こちらも迎撃態勢をとる。私の合図と共に、一斉射撃を開始せよ。早まるなよ」


「ラジャ! 全艦に伝えます」


「それから、クワイガン隊を出陣、それに続いて後衛艦は援護につかせろ」




「全艦主砲準備!」


 それは、お互いの軍が、一斉に合図を送り、宇宙に火花が散り始める時であった。


「撃てぇぇ!」


 

 L.S.E.E.Dの文字がある宇宙連合艦隊は、40ほどの艦隊が一つのまとまりを作って横一面に広がる敵艦体を一斉射撃していた。 いくつもの連なった主砲の光線。 迎え撃つ敵戦艦の逃げ場を無くし、確実に仕留めていく宇宙連合政府の主たる陣形だった。

 


 対する、アルカ―ナ帝國軍は平たく、横に広がった陣形を見せていた。これは、敵に自分の存在を大きく見せる打って付けの陣形であり、自軍の数を多く見せる心理をつきたい時にも使える。

 だがしかし、この陣形では、L.S.E.E.D隊の取った陣形に対しては不利な状態となる形であった。 一斉に撃ってくるL.S.E.E.D隊の攻撃により、その射程内に入ってしまった戦艦は確実に落とされていくのに対し、アルカ―ナの帝国軍隊は当たりはせど、L.S.E.E.D艦体を落とすまでの火力がないまま撃沈していく光景が多く見られるように見える。




「良し、我々が押している。このまま陣形を崩さず、一機に艦隊を押していく。 続け」


 L.S.E.E.D艦隊はこれを狙っていた。 横に広がる帝国軍に対し、中心の列隊に道を空ける。 その開いた道に突撃し部隊を分裂、左右両方から横に広がる司令艦潰しをしていく作戦だった。


「艦長! 後方から、少数の戦艦が有と報告があります。 後方が攻撃を受けていると」


「なに? 何故だ。我々が来た方向からどうやって」


「艦長、あれです、見えました」


「あれは、ニストルの艦隊か!? 各艦、反転して迎え撃て。 通信隊は至急提督に連絡を」



 突撃途中、提督の艦隊に連絡が入った。 しかし、たかだか6隻の小さな艦隊が後ろについたところで、7隻ほどが反転して落としてしまえば済む話である。しかし相手がニストルであるが為に致命傷となった。 この時を待っていたと言わんばかりに獲物を捕らえるのはニストルだった。


「バカな、ニストル隊だと。 全艦緊急停止! 距離を取れ。 前艦後退しつつ、後ろ艦隊は反転して、向かって来る、小級艦を迎撃せよ」



 してやられたのはL.S.E.E.D側だった。


「やりましたね、指令。 まんまと罠にかかった」


「ふん。これぐらいは予想している。 ただ、その為にわが軍の5分の1を失ったのは痛手だが。 このまま撃つぞ。 全艦に伝えろ。 よく堪えた、これより総攻撃に移る。 全艦前へ、アームズドール全隊出撃! ここで叩くぞ」


 

 前に並ぶオレンジ色の帝国軍艦が、一斉に押寄せる。 



「提督、後ろ艦隊が壊滅状態です」


「くそ、やってくれるなニストル」


「あぁ、そんな、ニストルなんて……


「速く後方の援護に」


「ならん! 今ここで奴らに背を向ければ、奴らの思うツボだ。 耐えろ。 全滅は避けねばならん」


 提督の言う通り、後ろに後退させるのが帝国軍の策略だった。 背を向けてしまえば、攻撃を受けるだけの動く的。


 大型の司令艦の一つから提督へ無線が入る。


「提督、艦が壊滅します! 何とか、してくだ だすtgじぇ」


 途切れる通信の中、一つの戦艦が大破した。


 白黄色に輝く一つのアームズドールがエターⅣを2機連れて、舞い踊る。


アームズドールとは、宇宙に住む人たちが作った人型の二足機械である。その名の通り強大な兵器であり、この世界の主戦力となっているモノである。


 L.S.E.E.D隊の艦隊が1機のアームズドールに次々と落とされていく。


「やはり出たか」


「総督、前方より、アームズドールの接近を確認。 その数、30です」


「な、何だと。 あいつら……、ここで我らを全滅させるつもりか。

 ……腹をくくれ。 大規模な撃ち合いになるぞ。 アームズドール、全艦出撃要請。 艦隊を守らせろ。 主砲ひらけ。 前方、敵アームズドールに向け、一斉射撃!」



 戦闘は激しさを増していた。 


「提督! この宙域で合流するはずだった、輸送艦並びに新型が落とされたようです」


 提督はその指令が入ると、頭を抱えた。 この戦況を変えてくれるかもしれない頼みの綱が切れたのである。


「あの新型は我々世界の希望だ。 構わない。 まだ潰された訳ではないのだろ。 その為であった特別隊をこの戦域から逃がせ」


 それはより敗北を宣言するようなものであった。 陣形中央に位置する場所に一つだけ様変わりな船があった。まるでL.S.E.E.D隊がそれを大事そうに抱える様に陣形を組んでいたのは、これを隠す為でもある。 表面はただの黒い横長の箱の様に見えるその艦隊は、今回の戦争での秘策であり、一艦で6戦艦を相手にできる想定で作られた特別製だった。

この艦を任せられたのは、まだ30代と若い艦長。エールス=ノンである。 彼は自身の家族を守るために、この任に自挙手をした。 


 この黒い新型艦に乗る彼らは重大な特別な任務を背負っている。 その一つが今回の宙域での新型機回収により、実戦を兼ねた敵大隊部隊の撃破である

 これは今回の大戦で敵に大打撃の目玉をくらわせる、とっておきの作戦でもあったのだが、これも今や届かないと言う。

 この戦いはすでに終わったに過ぎない。  L.S.E.E.D隊の作戦はこの大隊の前にほとんどがつぶされたことになる。


「しかし、それでは、」


 艦内はうろたえた。 しかし提督は行かせた。  


「ここでわが国が負けるような無駄死にはさせられん。 彼らは、世界を託された希望でもあるのだから」


 エールス=ノン率いる サーゲンレーゼは未知の惑星に落ちた新型機体の改修を命名され、その戦線を離れろとの命が下った。

 だがこの命に首をかしげたのはブリッジにいる面々である。  惑星などレーダーでは捉えられないからだ。


「ノン艦長! この状況で、我々だけ!?」


 そう話すのは情に熱い男、ニルスだった。


「仕方がない、これは提督からの特任だ。 もともと我々はその為に動く艦。 そして、あの機体は作戦の要でもあったものだ。 この戦いに必要なのだとそう判断されたのだ」


 ノン艦長はぐっと握り拳を作っていた。 手が幾度にも震えるほどに。


「そんな……。 提督の艦隊が全滅してしまう。 我が艦と、アルバがあればまだこの戦況を変えられるかもしれないと言うのに」


 その時だった、ニストルと言う男が乗る、白黄色のスリムなボディーの機体がサーゲンレーゼとすれ違う。 その圧倒的な力とスピードで艦隊の中を突き抜けてきたのだ。 後方隊はニストルによって指揮を失う。挟んできたのはたったの5隻。それも小級艦。

 いや、ニストル隊であれば、一隻でも容易くやり遂げただろう。 ニストル隊が後ろに回れた事でこの勝敗はついていたのだ。 サーゲンレーゼに乗るサフィーは、ニストルのあまりの進撃の速さに通信を忘れ、口を押えていた。その白黄色の機体は一目、美しくも有、恐怖でもあった。



「奢るな、ニルス隊長! これは戦争なんだ。 たとえこの武装が特別でも、この一隻で戦争を終わらせれるほど甘くはない。 我々は指令通り、未知なる惑星に向かう。 皆


ヘルメットはしておけよ。 何があるかわからん。 そして、急いで新機体の回収を行い艦隊に合流する」



「艦長! 座標が届きました」


「目標は落下地点。 サーゲンレーゼ発進せよ」


 

 新たな任務、目指すは未知なる惑星。ノン隊長が乗るサーゲンレーゼは、地球へと降下を始める。


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