第5話 夢見る淡水魚

「はぁ。モテたいなぁ。」

『どうしたの?急に?』

「ちゃん美優〜。私ね恋をしたいんよ。」

『相模川でも行けば?』

「違うよ!鯉じゃないよ!ベタすぎない!?」

『何よめんどくさい。恋したいの?めんどくさい。仕方ないから話聞いてあげるわよ。めんどくさい。』

「そんなにめんどくさいって言わないでよ。泣きそうになるから!」

『で、なんで恋したいって思ったの?』

「ほら、命短し恋せよ乙女って言うじゃん?女子高生って短命なわけよ!」

『中年のアルカホリック破壊僧みたいな?』

「一緒にしないで欲しいな!!!!」

『でも、奈緒の異性への条件って高すぎて架空の生物じゃないと成立しないよね?』

「そりゃぁ、昔は白馬の似合う長髪の剣術使いの男性だったよ!」

『改めて聞くと心配になるわね。』

「でも、今は違うのです!」

『へえ、どう変わったの?』

「まず、電車の優先席で年寄りや障害者に席を譲れる心の持ち主。」

『うん。』

「子供に好かれて、子供のことが好きな人。」

『うん。』

「そして、松坂桃李君であること。」

『は?』

「どうしたのちゃん美優?私変なこと言った?」

『変なこと言った自覚がないの!?』

「まず電車の優先席を老人や体が不自由な人に譲れる人。」

『うん。』

「子供のことが好きで、子供に好かれやすい人。」

『うん。』

「これのどこが変なのよ!!!」

『"松坂桃李君であること"って部分だよっ!』

「またまたー、松坂桃李君と付き合うのが大変って言いたいのかい?」

『なんで付き合えると思ってるの!?見積もり甘すぎるよ!!』

「ええーっ!?付き合えないの!?」

『よーし。まずそこからだね。いいかい奈緒?淡水魚はね、海へは行けないんだよ?』

「行くもん!ドロドロになっても行くもん!」

『世界が違うの!だから同じ淡水魚で相手を絞るの!淡水魚にも綺麗な魚はいるわよ。』

「そうか、私は松坂桃李君とは付き合えないのか…。」

『そもそも理想が高すぎる!これじゃあ命が先に燃え尽きるわよ。』

「え?孤独死は嫌だ!息子達に囲まれて死にたい!白雪姫みたいに!」

『白雪姫デッドエンドじゃないわよ。』

「どうすれば良いのちゃん美優〜!もう私分からないよ!」

『大丈夫。理想さえ下げれば、同じ淡水魚。鯉(恋)は寄ってくるわよ。』

「オヤジ臭いこと言った…。」

『まず理想を下げるの、その三つの条件を修正しないとね。』

「"電車の優先席を譲れる人"って所?」

『そうね。老人や体の不自由な人を見たら席を譲るんじゃなくて、誰にでも席を譲れる人に変えましょ。』

「それ、ただの頭のおかしい人じゃない?」

『次は子供のことが表向きでは好きだけど、影では子どもの悪口を言ってる人に変えましょう。』

「人として最悪じゃないそれ?」

『最後は松坂桃李君じゃなくて、ムロツヨシレベルで妥協しよっか!』

「ねえ、ちゃん美優?それ色々と失礼じゃない?主にムロツヨシさんに。」

『つまり、奈緒の異性への条件は、誰にでも自分の席を譲れる心を持った、子どもに興味ないムロツヨシって事だね!』

「あれ?私の理想、性格最悪なムロツヨシになってない?」

『奈緒ちゃんの理想は性格最悪なムロツヨシだね!』

「断言しちゃったよ!私の理想極端すぎやしませんかね?」

『もー、素直に認めなよ。ムロツヨシだって淡水魚にしたら相当レアだよ?』

「私の異性への条件ムロツヨシだったのか!?というかムロツヨシさんを淡水魚扱いって相当失礼じゃない?」

『ムロツヨシさんは下流、奈緒ちゃんは上流で生きるの。同じ川でも出会うことすら難しいんだから、これくらいで良いんじゃない?』

「私の世界、激しいな!」

『とんでもない恋をしようとしてるんだから、当たり前でしょ。大恋愛のように。』

「ちゃん美優、怖いもの無しだね。あまりドラマのタイトル言わない方が良いかも。」

『よく考えたら、大恋愛の果てに、ムロツヨシさんは捨てられ、松坂桃李君と結ばれたよね?』

「ちゃん美優ーーー!!!」

『本気でヤバかったら、この作者のアカウントごと消滅するから。問題ないでしょ。』

「おかしいよ!今日のちゃん美優おかしいよ!酔った勢いで文字を打ってる作者みたいな!」

『所詮私達なんて、手の上のマリオネットなんだよ。』

「私は結局どこに居るの?川に居るのか、誰かの手の上に居るのかはっきりして欲しいんだけど!」

『恋ってね、めんどくさいの。自分の居場所を見失うし、自分自身も見失う。まさに恋は盲目ってことだね。』

「まず、私の場合、相手が見つからないんだけど。恋が始まらないんだよね。」

『相模川にでも行けば?』

「最初に戻った!?」


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