夏祭り、縁日、不条理な預かりものが、僕の空白を柔らかな色彩で染めていく

『夏祭り2023企画』Best 3

ある日、唐突に姉が押し付けていった幼い女の子。
歩にとってみれば持て余すばかりの存在のはずなのに、無碍に手放せないのは彼の責任感だけがその理由ではないのだろう。

露店巡りに無邪気にはしゃぐ香子。
これまでの生い立ちを想うほどに痛々しさを感じるその姿に、歩は戸惑いながらも彼女の好きにさせてやる。

簡潔で精緻な文脈が、その二人の陰影をまざまざと映し出し、読み手は歩の葛藤に共感を覚える。

時として人は思いがけないものにその心の空白を埋められてしまうものなのかもしれない。