第3話 成功とジレンマ
オナホールとは、簡単に説明すると男性向けの性処理グッズである。
筒状のやわらかい材質で作られており、男の特徴的なブツというかナニを突っ込むことで、気持ちよくなるという娯楽の分野に類する商品である。
それを僕はスライムで作って売ろうというわけだ。
そんな発想にたどり着いた僕の行動は早かった。
借りているアパートに備え付けられているバスタブに、スライムと魔獣用の安い魔力餌をぶち込んでおく。エサを食べながら一定の大きさになったら分裂しろとスライムに指示して放置する。
言葉にする必要はない。
魂で繋がっているのだから、食い違いが起こることもない。
そしてテイムした魔獣は、よほどのことがない限り従魔士の命令に逆らわない。
凶悪な魔獣なら主人に歯向かうこともあるらしいが、僕の魔獣はスライムである。伝わってくる感情が無の相棒は文句をいう事もなく、ただひたすらに分裂をつづけていた。
そうして一日も経てば結果が出る。
バスタブの中で大量に蠢くスライムを見て、僕は養殖が成功したことを確信した。
***
数か月が経った。
非貫通式スライム型オナホール。
通称「スライムホール」は予想以上に売れた。
というか、大ヒットした。
従魔士は戦場を渡り歩く職業。
魔獣討伐や護衛依頼を受ければ戦闘を行なうし、場合によっては命懸けの状況にも遭遇することになる。それはつまり生存本能というか、遺伝子を残そうという獣の性が刺激されてしまうわけで。
ぶっちゃけると戦闘を行なったあとはムラムラするのだ。
別に命に関わるとかそういうわけではないが、しかし放っておけばストレスが溜まる。
従魔士の仕事によっては野宿で何日も過ごすこともザラにある。
そんな時にスライムホールだ。
拳大のサイズで持ち運びに便利。
汚れをからめとって魔力に分解してくれるので、時間を空ければ再使用可能な上に衛生面に強い。なにより独特の感触、搾り取るように締め付け、うごめくスライムはかなり気持ちいい。
しかも、何も知らない知り合いに見られても、食材として持ってきたと言い張れるという強みもある。
実際、食べられるし。
そういった手軽さ、隠蔽性の高さからスライムホールは従魔士によく売れた。
なんなら別に従魔士でなくとも普通に売れた。興味を示した一般男性、特に思春期の少年の間で爆発的に人気を得たらしい。
まずはとにかく売ることを重視していたので、安価な値段だったことが理由だろう。
少しばかりアダルトであるが故に開拓が進んでおらず、また競争率が少ない分野であったことも、売れ行きに拍車をかけていた。
他の企業もスライムでオナホールを作ろうとしたり、野生のスライムで代用しようとする者もいたが、スライムに気持ちよく動くように指示しているのは僕である。
飛ばない豚はただの豚、動かないスライムはただのスライムである。実際、野生のスライムはスライムホールほど気持ちよくならないので、皆が首を傾げていた。
もはやオナホールというジャンルにおいて、スライムホールの右に出る者は存在しなかった。
他の魔獣と比べればスライムには爪も牙もなかったが、しかしオナホールとしての才能はぶっちぎっていた。
僕はスライムに手に入る限りの最高級の魔力餌を上げた。
自分の一ヶ月の食費よりも高いエサをもぞもぞと取り込む小さな使い魔。相変わらず感情が希薄過ぎて喜んでいるのかわからない、ご飯のグレードを上げる意味があるのかもわからなかったが、こちらはスライム様の売り上げで食べさせてもらっている身である。
稼ぎ主にいいものを食べさせてもバチは当たらないだろう。
とにかく、納品すればしただけ売れるので、金銭面の問題は一気に解決した。
小さいが、街の中で店も構えることが出来た。
できるだけお金を使い、寂しい夜を慰めるスライムホールを売るお店だと思わないように、明るく清潔感のある雰囲気を演出するように外観と内装を整えた。
そうして完成したのが、世にも珍しいスライム専門店「ウ~ズ」だ。
「ウ~ズ」はスライム以外に売れるものはなかったが、しかし用意するスライムの質と量だけは他の追随を許さない。競走相手がいないが故に世界最高峰のスライム専門店だった。
表向きは食材用のスライムを扱い、なんならスライムゼリーも食べることが出来るカフェのような機能も兼ねた、ちょっとオシャレなお店.........の皮を被ったスライムホールを売りさばくお店だ。
主力商品はスライムホールだったので、当然メインターゲットは従魔士と思春期の少年たち___と、思っていた。
実際はカモフラージュとして用意したカフェが、子どものおやつにスライムを買いに来た主婦のちょっとした世間話の場として利用されたり、お小遣いを握らされた子どもが「スライムゼリー」を食べに来たりするので、割と広い幅の年齢層の客がよく来るようになった。
結果、スイーツに興味のなさそうな厳つい従魔士たちが何故かスライムゼリーを買いに来る、不思議なお店として「ウ~ズ」は有名になった。
予想とは違ったが、スライム専門店「ウ~ズ」の人気が出てくれる分には何も問題はなく、まあこれでいいかと僕は思った。
だが、スライムを売り始めて一年以上が経った頃だ。
世間話を機関銃の如く話し続けるヴァイオレットヘアーのマダム相手に、ガクガクと首を縦に振っているときに気が付いてしまった。
僕、強くなるの忘れてるじゃん。
いや、強くなることを忘れていたわけではない。
『ウ~ズ』の目的の一つは、スライムの育成と研究に掛かるであろう資金難の解決である。強くなるためには必要なことだ。
ただ、スライムホールに加え、結構繁盛している「ウ~ズ」のカフェの売り上げで
稼げる稼げる。
あまりにもスライム専門店がうまく行き過ぎているせいで、止め時を見失っていた。
あと単純に忙しかった。
スライムゼリーの果汁混ぜて作るのって結構大変なのだ。何種類も作らないといけないし。スライムを売るのも、カフェの注文を取るのも、会計をするのも全部僕一人である。
そりゃ強くなる暇ないよ。
だって大変だもの、急がしいもの。
オナホだけを売ればよかったのに、飲食業の経営で仕事を増やしたのが響いていた。休日があまり取れないのも地味につらい。
このままではスライム専門店の店長で一生を終えてしまう。
早急に、この状況をなんとかする必要がある。
具体的にいうと、業務を減らしより多くの休日を確保したい。
「.........アルバイトを雇おう」
欲望に忠実な僕は、しばらく考えてかわいいバイトさんを雇うことにした。
***
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
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