追憶戦術

神崎蒼葉

プロローグ

月より遠く、銀河より遠く、もっと。

ずっと遠い場所。


瑠璃るり色と紅色の天体が二つ、観測できる空の下。

雲と岩が浮かぶ上空に純白の橋があり。

それらを覆う波紋はもん常闇とこやみが広がった。


そこは地獄の開門でちたら──終焉おしまい


時はさかのぼり、場所も変わり。


森林の奥深くに進み一面がすい色の場所。

滝壺たきつぼ辿たどる雄大な水の流れと樹の建物が見えて来る。


異界いかいの書が無くなった?」


本棚が無数にある。

樹の建物最上階で椅子に座る老人がコップを倒していた。


「保管庫から紛失、というのは断定し難いですし。でも凄いですね、あの結界はそうそう破れませんよ? 何者なんですかね、お爺様」


対面で問い掛けている緑髪の女性が、持っている薄い板を閉じていく。

老人は深い呼吸にしんみりひげさわっていった。


「本来の持ち主へ渡る事も珍しくないからのう」


「……どういう、こと?」


「紛失かの確認は難しい。しかし展示を禁止にしている本だった、あらゆる均衡きんこうが崩れる危険性からおきてで定め、厳重な術式で封印した。これで持ち主に還るなど…」


「…なるほど。詳細内容は不明と書き記して、残るは結界を破れる人か、あと均衡が崩れるっと…え?」


「ん…」


「掟で定めて?」


「うむ」


「待っ。均衡が変わるってお爺様、まさか食べられる側になってしまうのお爺様!」


「食物連鎖は…そうなりえるのう」


「私達弱くなってしまうの?」


「可能性の話しよ」


「異界の書って何なの…お爺様…」


緑髪の女性が蒼白する。

また掟なら誰しもが知り得るものと思われるがそうはならない。

それは通常通りの責務でいる意向だったために、しかし、数百年の時を過ごしている信頼から応えていった。


「異界の書は、世界の文化を纏めた小さな図鑑、ただし詳し過ぎる……すまん。後にしよう」


老人の規律の姿勢から青い光が現れる。


「構いませんよユグドラシル様」


青い光が球体状に集まり、輝きが増す。

同時に人の姿が見えてくる、白い衣服に身を包む青髪の女性に変容した。


「聖域創始者の、このお方が何故」


緑髪の女性が驚きと緊張を醸し出し、青髪の女性が微笑んで紡いでいく。


「初めまして。異界の書の続きですが、掟は私が定めました。また一つ一つの世界に平穏を願った本。それが異界の書であり一方で、欠陥かけつした観点が一目瞭然の諸刃の剣でしょうか」


「…孫よ」


黙祷かの緑髪の女性に老人が促進する。次第に目を丸くする緑髪の女性が「…あー」と雰囲気に飲まれていった。


ほど…なるほど、その知恵があれば。へ?」


首をかしげて沈黙ちんもくした。

また微笑ましく青髪の女性は紡いだ。


「世界一つほろぼすなど、造作ぞうさもないのです」


「滅ぼす。それでも均衡が崩れるのでしょうか?」


「授かった者次第で」


「私は…争い事が苦手です。世界を穏和にする術があるのだとしたら私の行いは無意味だったのでしょうか」


「無意味とは、世界に影響を与えられたと視るか否か。貴女と交わった人が笑顔であれば、穏和を願う行いに価値があったと知れる」


「私は変わっているのでしょうか」


「いいえ、貴女と同じ意志を持つ者は決まって周りを笑顔にしていますよ。個性を伸ばし、学び、生命を桜花なさい」


「はい」


緑髪の女性が顔を赤らめている中で、老人は謙虚けんきょな目をつかわした。


「シイル様、来れからどうなりますか」


「さて、管理の世界で失敗したなら、それは上の判断が適切では無かったという事。私達の使命はここまでにして、託しましょう。きっと、追ってしまえば凡ゆる危険の巣にちてしまいますから」



◇◇◇


何処かでこの光景を視ている人がいた。

樹の建物から空へ進むと宇宙が広がるが、銀河が限りなく少ない所をボイドという。

そこで数少ない光の夜空を野原から眺める女の子が心で尋ねた。


あなたは史上と現行どちらへ行きますか?



──第一章 魔術世界

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る