断罪ヒロインだと思っていたら、ただのヒロインだった件

ひとみん

第1話

此処は煌びやかな王宮の謁見の間。

数段高い所にこの国の王と王妃、そして二人の王子が、我々キャベンデッシュ侯爵一家を見下ろしている。


「どうかな、そろそろ我が息子どちらかと婚約してみては」


相変わらずくだらない用で人を呼び出す・・・王様って暇なの?

正直、イラッとしていた私は不敬などと一切思わずいつも通り、あっさりとお断りさせてもらった。

「お断りします。私、平民になる予定ですから」

何年間も、何百回、何千回も同じことを聞かれても返事は変わらないわよ。

そんな気持ちを込めて私は、国王に向かってにっこり微笑んでやったのだ。




私の名前はアデリーヌ。アデリーヌ・キャベンデッシュ、十六才。


突然だけれど、私には前世の記憶があるの。

日本という国で、この世界よりも色んなものが進んでいた国だ。

そこでの私は三十才で、バリバリ働いていたのよ。

結婚はしていなかったけど、恋人がいた時もあったわ。

死因は覚えてないけど、私がアデリーヌとして此処に存在しているという事は、死んだんでしょうね。

前世を思い出したのは、何時も通り一日の締めとしてお気に入りの入浴剤を入れたお風呂に入っていた時。

溺れそうになったとか死にそうになったとか、そういう事は無いの。

本当に、何気なくふっと・・・ってな感じで、「あら、このお湯ってば社員旅行で行った時に入った温泉のお湯に似てるわね」なんて思って、そこから怒涛の如く頭の中に膨大な情報がなだれ込んできたの。その所為でお風呂で溺れそうになったわよ。

それが六才の時。

一気に精神年齢が上がった瞬間だったわ。


そしてこの世界はなんと、前世と違って剣と魔法の世界。記憶が戻った時はテンションあげあげだったわ。

なんせ、私の魔力は通常の人達より多かったからね。


私、六年前までは母と二人で住んでたのよ。

物心ついた時から父親はいなかったけど、これといって寂しさは感じなかったわ。

母は勿論の事、いっしょには住んでいなかったけど、おじい様とおばあ様がとても優しかったから。

だけど、時々母の知り合いという身なりの良い男の人がよく来ていていたわ。

小さい頃は優しいおじさんってな感じしか思っていなかったのよ。

だって、美味しいものをプレゼントしてくれたし、遊んでくれてたから。

でも、段々分かってきたの。母は貴族様の愛人なんだって。

貴族が愛人を囲う事はそう珍しい事ではないの。ただ、貴族間でも恋愛結婚が主流となってきている昨今では、愛人と言うだけで見下されるのよ。

私も幼少の頃、「愛人の子」「不倫の子」など、散々いじめられたし。

だから、家に来る男の人が大嫌いだった。その男を受け入れる母親も。

そして私は幼いながらも、いつかこの家から出て独り立ちする為に働こうって心に決めた。

そんな時に記憶が戻ったのよね。ラッキーだったわ。

生活は貧しくは無かったわよ。だって、男の人が援助してくれてたから。

何人もの使用人も居たし、私には貴族同様の勉強もさせられてたし。

正直、自我が目覚めるまでは訳も分からず勉強してたわね。目覚める前は、素直だったのよ。

でも、記憶が戻ったらどちらかというと日本の常識に引っ張られて、愛人だの不倫だのが許せなかった。

だから、初めは男の金で生活するのは嫌だったわ。でも、現実問題、十才にも満たないがきんちょに何が出来る?

何故か母親は男に頼りきっていて働かないし、自立心ゼロよ。

まぁ実際問題、元々母親は伯爵令嬢だし勘当されたわけじゃないから、働かなくても生活は出来るんだけどね。

でも私は違うわよ!いくらおじい様が私にメロメロでも自立するの!

だから八才になってすぐにパン屋さんで働いたの。

この国では、軽労働であれば八才から働く事が出来るのよ。

平民では、遅くても十才くらいから家計を助けるために働いてる子もいるのよ。日本とは大違いね。

母親もその男も大反対だったけど、大暴れしてなんとか働く権利を得たわ。

そのパン屋さんは、気の良い老夫婦が二人で営んでいて、私の事を「愛人の子」だとかって差別はしない、良い人達。

まるで自分の孫の様に可愛がってくれて、私自身も本当の祖父母同様に感じて心の拠所だったわ。


魔力があるのになぜパン屋?なんて思わないでね。

これにはちゃんと理由があるの。

子供達は十才になって初めて神殿で洗礼を受けて魔力を測定するのよ。それを一般的に儀式って言ってる。

その儀式を受けないと魔法は使えないわけ。簡単に言えば、今はストッパーがかかってて、儀式で外すって感じかな。

でも、私は自分で勝手にストッパー外しちゃったのよね・・・・


というのも、私はこの世界のを良く知っていたから。

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