第二話 進む恐怖

 ここは街の中心部からは少し遠いとはいえ、それなりに活気のある場所のはずだ。


 いくらまだ、ここの中心地からは少しハズレてるとはいえ何もないのはあり得ないはずだ。

 道や建物もごっそり無く、ましてや灯りすら無い。そして生き物の気配が全くしないのだ。

 三人は少し怯えながら辺りを見渡し立ち止まっていた。


 「ねぇ。此処って第三市場だよねぇ。道間違えたんじゃ無いよね?」

 「ああ。道なんざギルドから此処までほぼほぼ一本道だ。間違えようがねぇよ。 オイ。何なんだ? どうなってやがる?」


 この世界の街の構造はそのほとんどが、過去に滅んだ街を再利用して存在している。

 その為、街の端は大きなコンクリートの壁で覆われており、それぞれの区画も壁で区切られていた。

 雑多で小さな道はあれど、そのほとんどが一本道である。その筈だったが、、、、、、、。


 いくら灯りが無いとはいえ、まだ夕方の筈で全く何も見えないと云うのはあまりにもおかしかった。


 此処を隔てている壁は見えるが、その中にある物がごっそり無くなっているのだ。まるで最初から無かったかの様に。


 「なぁ?、、、、、、、、此処でこうしてても、しょうがないから中の方にいかないか?もしかしたら真ん中は問題無いかもしれないし人も居るかも知れない。何か事故だったんなら、助けを求めてる人が居るかも知れない。十五どうする?」

 「、、、、、、、、、、、、、、、、、。」

 「ねっねえ。やめたほうが良いと思うよぅ。何か分かんないけど、絶対ヤバいと思うよ? そう思うよね? 十五ちゃん? ねぇ。ねぇってば!!」

 「十五? どうした?大丈夫か?」

 「、、、、、、、、いくらこの街が雑で適当とは言え[企業]の警備隊が全く居ないのはおかしくねぇか?この辺りだけ静か過ぎるのはなんでだ? オイ、、、、、、、テツ。本気でこの先に行くつもりか?絶対にヤバい臭いしかしねぇぞ?いつものお前らし「ウルセェなっ!!危険なのは俺でも何となく解ってる。だが妹が働いてるのは、知ってるだろうがっ!!」


 テツは十五の胸ぐらを掴み、詰め寄っていく。

今この場所で何も全く把握できない事とあまりの異常事態に三人共が得体の知れない状況に恐怖と焦燥感が膨れ始めていた。


 「家族を見捨てろって事か?お前達が行かなくても俺は行くぞ!!」

 「待てって、お前だけで行かせるつもりはねーよ。キリが心配なのは俺もそうだって。だがヒナも居るんだぞ。連れてくつもりかよ?オイ。ここに置いてく事もできねーぞ。どうすんだよ?」

 「だったらどうするのが正解なんだよ?十五、お前頭いいんだろ?どうすりゃ良いんだよ?教えてくれよ。」


 互いが互いに、あまりの状況の異常さに、冷静に判断が出来なくなってきていた。

 どちらもどうするのが正しいのか答えは出ないまま声を荒げ始めた。


 「ちょっとちょっと喧嘩しないでよぅ。さっきはヤバいって言ったけど私もキリちゃんが心配だし、置いて行かれるのイヤよ。だから私も行く。キリちゃん見つけたらギルドに戻ろ?それで警備の人達に報告しよ?十五ちゃんもテツちゃんもそれでいい?」

 「、、、、、、、、、、、ああ。すまない。冷静じゃ無かったよ。それで行こう。十五も済まなかった。」


 二人共冷静にはなれたが十五は考えこんでしまっていた。


 「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 「十五ちゃん?聞こえてる?」

 「、、、、、、、、、、ヒナ。お前は俺たちの後ろに居ろ。無理はするな。テツ。俺もパニってたわ。ワリィな。だがキリを見つけたら直ぐに引き返すぞ。何かイヤな予感がする、、、、、、、。」

 「わかった。お前のカンは良く当たるしな。無理はしないよ。ヒナも何かあったら直ぐ逃げろよ?」

 「了解。二人共何かあったら守ってね?」

 「ああ。俺が先に行く。テツはヒナを連れて警戒しながらあるいて来てくれ。二人共何か異変があったら直ぐ逃げろよ?じゃ行くぞ。」

 「ああ。わかった。」

 「十五ちゃんも無理しないでね。」


 白波江 十五 22歳 区画作業員として働いている。


 この世界ではひたすらに命の価値が低い。

住民は大まかに分けて支配する側の[稀穣民]と使われる側としての一般市民の[定重民]。

 そして殆どの人々から居ない者として扱われている奴隷の様な扱いの[底の民]の3つで分けられている。


 この世界は常に疲弊し続けていて、物資はそのほとんどを過去の遺物で賄っているし、あらゆる生産する為の技術もほとんどが喪われて久しい。


 その為[定重民]以下の住人は、廃墟と言っても差し支え無い危険な場所で、少ない資源を探す作業に明け暮れる者が殆どだ。

 資源の奪い合いで、命を落とす住民も多い。


 更にはいつからか、[闘争病]と呼ばれる謎の奇病が発生。

発症した者は生物であれば、生命そのものに憎しみが芽生え老若男女、人間問わず殺さずにはいられなくなるというものだった。

 発症原因は不明。


 そもそも病気とは言っているが、本当に病気なのかは誰にも判断が出来ず、治療出来るのかも不明。

 身分の差を問わず人々は頭を抱えていた。


 だからこの喪われ続ける世界で生きていく為に、上位に位置する者の命令は、絶対として扱われるというルールが存在している。

 たとえその命を投げ出せという事であっても、、、。

偏執的なカースト制度はかなり根深く、一度生まれついた身分が変わる事は全く無いと言ってもいい。


 十五は[底の民]の生まれだった。

だが彼は生まれつき頭が良く、何故か喪われた筈の知識を持っている事にも気付いた。


 そして特筆すべきはもう一つ、この世界に生まれた者には持ち得ない筈の疑問と、抑えきれない程の怒りを抱えていた。


 彼は初め、とある[稀穣民]に飼われていた奴隷であったが、幼い頃よりその智慧を使い[定重民]として取り立てれれていた。

 しかしある事件を起こし本来なら即刻死罪を告られていてもおかしく無かったが、その知識は惜しまれ自身が持っている知識を教える事を条件に限定的な自由と身分を保障されていた。


 だからか、彼は解ってしまっていた。 


 この先に進めば確実に殺されると。

何が起こっているかも解っていないのだが、その事だけは本能的に彼は解ってしまっていた。


 先に進めば進むほど、得体の知れない直感とでもいう物が強くなっているのを感じ冷や汗を流していた。


 あと少しで目的の中心部に着くと思ったその時、十五に声をかける者が居た。


 「そこの君。これ以上進むと、君の予想通り、確実に死ぬぞ。しかし君が望んでいるものも手に入るぞ。ククッ何とも愉快な話じゃあないか。とても皮肉が効いている。」

 「なっ何だ?また何か起きたのか?誰だ?アンタ?生存者か?」


 気づけば目の前に男が立っている。

しかしその男の気配は朧げで顔の印象も掴みづらい。

唯一断定出来そうな事は目の前に居る物が男で十五と近い年頃だろうという事だけだった。


 「ハハッ見事に混乱しているね?とても愉快だよ。このあり得ない現状に?今君の近くにいる友人達の心配かな?これから自分達はどうなってしまうのかといった漠然とした不安?それとも、、、、、、、、。」

 「アンタは誰だって聞いてる!!答えろ!!」

 「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。ああ。なるほど。君が怖れている事は、、、、、少し賢しいだけで取り柄もない筈なのに、、、、、これから起こる事が、確実に予想できている事だね?ククッ心配しなくても良い。それは君にとって正しく正常なことだよ。僕たちにとってもね。」


 その男の言葉に十五は心臓を鷲掴みにされた気になる。


 彼が最後に言った言葉が当たっているからだ。自分は少し頭が良いだけ。


 特殊な能力などない筈だ。


 なのにここに来てから漠然と、この先でこれから起こる事が解ってしまっている。


 すなわち自分はこれから、何者かと殺し合いをする事になると、、、、、、。

 そんな訳のわからない事が頭の中で起きているし、こちらの考えが悉く読まれている事に十五は不安を煽られ、一刻も早くこの男との会話を打ち切りたかった。


 「さっきからテメェは何を言ってやがる。意味わかんねー事言ってんじゃねー!!オイ!! テツ ヒナこんな奴ほっといて先に進むぞ!!、、、、、、、オイ テツ?ヒナ?何処だ?」


 辺りを見渡しても二人は居なく、そして世界がさっきよりも暗くなっている事に気づいた。


 「君と二人で話がしたかったのでね、僕の領域に君を招待させてもらったよ。ああ、安心してくれ、話が終われば元居た場所に戻るよ。」

 「、、、、、、、、領域、、、何なんだ、、、、何を、、言ってるんだ、、、、」

 「クク、、混乱に恐怖、、、、わかるよ。まぁ今回は顔見せと君の忘れ物を届けにきただけだから、これ位にしておこう。君が死んでまた会いに来るとしよう。」


 そう語り終わった後、男は十五の右肩に手を置いた。


 「さて忘れ物を返しておくよ。ではいずれ、また。」


 男が手を離し去ろうとした瞬間、十五の右手に凄まじい痛みと熱が襲った。


 堪らず十五は膝を突き地面に転げ回った。


 「がっ!!いっ痛ぇ!!みっ右手が溶ける?、、、。がぁあぁぁぁぁぁああ、、、、、、ま、、、て、、何、、し、、、、た、、、、?」


 男はこちらを一瞥した後軽く微笑んで消え去った。

十五はあまりの痛みに意識を失いその場で気絶してしまった。


 「十五ちゃん?どうしたの大丈夫?」

 「どうしたんだ、たったまんまぼうっと突っ立って。それに凄い汗だぞ」


 十五はハッと我に帰り辺りを見渡す。テツ達が心配そうにコチラを覗きこんでいる。


 「ここは、、、、?さっきのアイツは?、、、、俺の右手、、、、は?」

 「何を言ってんだ?しっかりしろよ。アイツ?右手がどうかしたのか?」

 「どうしたの?手を怪我したの?いきなり立ち止まって動かなくなっちゃたけど、、、、、、大丈夫?」

 「、、、いや、、、、立ったまま?俺はどれ位こうしてた?」

 「え?えーと2、3分?位だけど、、、、。大丈夫なの?」


 先程あった出来事は幻覚だったのか?あれ程の痛みだったのに?右手を確認しながら呟いた。


 「十五、大丈夫そうなら先に進まないか?時間が惜しい。」

 「あっああ。悪かった。行こう。」


 少しばかり歩いた所で目的の場所が見えてくる筈だった。

 

 その筈だった。

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