007話ヨシ! 7ヶ月後、プロ推奨の豆食品

俺が手首を挫いてゴギッて、しばらく。

泣く泣く、腕力強化アトラクションの『うんてい』はお休みとなった。


しかたない。

なので、その余った時間でランニングの量を増やしてみた。


さらには、足にもオーラ強化!

だけど足首も挫いたグギったとかなったらイヤなので、慎重にやってみる。


試しに、腰から下にオーラを集中。



「── うわぁ……っ」



スタートダッシュがすげえ早い!

やたらと身体が軽くて、風になった気分だ!


前世で、自転車で坂道を下っている時を思い出す。



「♪この長い長い、下りぃざk ──」



── あ、失速。

気持ちよく歌っていると、オーラの集中が解けてしまった。


走力強化は、手にオーラを集中する時ほど、上手くできない。

慣れない部位だけあって、さすがに鼻歌交じりとはいかないか。


それに、膝から下とか部分的にオーラで強化しても、あまり効果がないっぽい。

腰から下全部にやらないと、スピードがでない。

オーラで包む範囲が広い分、集中力がいるし、オーラの消費も激しい気がする。


最近は、手の平だけなら10分近く余裕になってきた。


しかし、短距離ダッシュを繰り返して検証していると、すぐにオーラが底をついたようだ。

久しぶりに意識が遠のく。


……いかん。

ひさしぶりにゲロった。


さらに間の悪いことに、庭のすみっこでゲーゲーしている姿を、姉ちゃんに見られる。

姉ちゃん、相変わらず目線が冷たいぜ。



「あの子、またやってる……。

 どうやったら、あのバカなおるんだろ?」



知らねえのか、姉ちゃん!?

── 『バカは死んでもなおらない』んだぜ!

転生しても、またバカな事やってるオレが言うんだから、間違いない。


いや~、昔のひとはよく言ったもんだ。





▲ ▽ ▲ ▽



しかし、『うんてい』やってた時よりも、ランニングのみの方が身体が鍛えられてる感があるのは、なんなんだろう。


ちょっと腹筋割れてきた感じ。



(最近は、全裸で大きな鏡の前に立つのが楽しいな……。

 やっぱり、効果が目に見えるのは、最高だっ)



玄関前の全身鏡で半裸になり、得意げにマッチョポーズをとる毎日。

時々、陰で姉に冷たい目で見られていたりする。



2週間ほどすると、手首の痛みは完全にひいた。

色々な方向に動かしてみて、完全に手首がなおったのを確認。


あと、最近、柔軟体操を追加した。


身体を鍛える事ばかり考えていたけど、肝心の筋や骨を痛めたら、意味がない事に気づいたのだ。

あと、食生活も大事だ。


筋肉をつけるなら、プロテイン。

つまり、タンパク質が重要だ。

植物性なら豆類、動物性ならヘルシーな鶏肉。


俺が急に、今まで嫌がっていた豆料理を、バクバク食べるようになったので、ママがビックリしてる。



「あらまあ、今日も全部食べたのね?

 おかわりも?

 坊やったら、最近どうしたの?」



俺だって出来たら、このマズい豆食べたくないんだけどね。

いくら煮ても皮が硬いし、中身も青っぽくて、妙に口に残るし。


正直、子供はみんな嫌がる味だ。

絶賛わがまま絶頂期な、我が家の妹も例にもれない。



「お兄ちゃん、わたしのもあげるー」



ワガママざかりのマイシスターは、ゆで豆料理がまだ2/3も残った皿を、俺の皿に寄せてくる。



「お前もちゃんと食べろ、筋肉つくぞ」


「キンニクいらない、あげるー」



ママに見つからないようにコッソリ寄越よこすあたり、末っ子の要領の良さを感じる。

だが、姑息こそくなくせに抜けているあたりが、妹の愛嬌あいきょうなのだろう。



「カーチ、だめでしょ。

 出された料理はちゃんとたべなさいっ」



ほら、姉さんに怒られた。



「アットも、妹が可愛いからって甘やかさない」



なんか俺も怒られた。

えっと、いま俺、妹を甘やかしたりしたっけ?


……まあ確かに、あんまり妹が言うなら、仕方ないから食ってやろうかと思ったけど。


俺が、そんな事を考えながら首をかしげていると、姉さんが、何かボソボソ小声で続ける。



「そ、そんなに、豆が食べたいなら私の分をあげるから……っ」



ささっ、と自分の皿から豆料理を移し替えてくる。


── なんという一瞬の早業!?

俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!



「……あ、ありがとう……?」



俺は、不思議な事が起こった気分で、姉さんにお礼を言う。

すると、妹が口を尖らせた。



「ぶぅ~っ、おねえちゃんずるいっ」


「……ふぅ、お茶がおいしい」



姉さんは知らん顔をして、食後のお茶をすすっている。



「ん、んん………?」



あれ?

なんか、姉さんから上手く押しつけられた?


まあ、いいか。

俺は、おかわりに姉の分を上乗せさせられた、超特盛り煮豆の攻略を再開する。



「うん、やっぱりマズい……」



思わず口から出た、素直な感想。

それを聞きとがめたママに、後頭部をひっぱたかれた。

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