第10話 目覚めてしまった

 皆さんは思考停止、或いは思考放棄という言葉をご存知だろうか。自分自身で物事について考え判断するのをやめてしまうことを意味し、理不尽や不条理、無理難題といった考えを巡らせても答えを導き出せないような状況化などでいっそ何も考えずにいた方が、思考を続けるよりマシな状態だと判断して陥いる状態である。


 例えばゲームで難関部分のステージに到達してそのまま何も考えず行って全滅した後にこのままではクリア不可能だと悟り攻略する為に色々攻略法やアイテム等を準備したりして万全の状態で挑戦していい感じのとこまで進行はするものの、結局ゴールする前に何度も何度もゲームオーバー画面を眺めることになり打つ手もなくなって時間も気力もごっそり持っていかれて『どうせクリア出来ないからもう適当やろう』と投げやりな気持ちになったことはないだろうか?

 テストで明らかに習ってない範囲や難問すぎる問いが出た時。又は試験前だと言うにもかかわらず殆ど勉強をしていなかったため、テスト当日に問題を解くどころか全く問題の内容すら理解できず『やっぱわかんないしどうせ赤点だろうから適当に書いとこ』となって思考を放棄する人は毎年必ず世の赤点を取る学生がいる事実を考えれば結構身近で起きている出来事言えるだろう。


 理由や原因はそれぞれ異なるもののこの大抵は世の理不尽と思える現象を目の当たりにした時にそれらが起こる。または自ら意識的に起こす者がいる。

 そしてロイ、ロベルト、セルレアの3人は話す言葉は共通語であるが話す内容が共通の認識からかけ離れたクレアの独特すぎる価値観を聞かされ続けるというこの世の頂点と呼べる攻略不可のクソゲーと言われる類のものを体験させられ、自らのキャパシティを大幅に超える事態になってしまったため正常状態に戻る為に数分間無意識のうちに思考停止状態になっていた。


 しかし凡人であれば復活に数時間はかかったであろう負荷を数分間によって回復してしまい、ある程度精神的余裕が生まれてしまったためロイ達は我に目を覚ましまった。



「ここは…」

「ようやく気づいたか。話をしていたのに急に動かなくなるから本当に頭が駄目になったのかと思ったぞ」

「開口一番に酷い言われようやな。そういえば俺はここで確か…あれ?なんやろ思い出せへん」

「はあ〜、やはり医者を呼ばないと駄目か?せめてロベルトとセルレアはそうでないことを祈るが」

「多分大丈夫だとは思うけど…ロキと同じく記憶の混濁が見られるよ」

「確かに私も部屋に入ってからの記憶はありませんがロイと同列扱いされるのは不愉快です」

「ロベルトとセルレアもおったんやな。つうかセルレアもさらっと毒吐くな。それで俺らはなんの話をしとったんや?全く思い出せへんのやけど」


 必死で思い出そうと首をひねるも、まるで頭の中にモヤがかかった様な状態で一向に思い出せずにいた。


「本当に覚えていないのか?ついさっきまで話してたんだが。アルトについての話だ」


 クレアからアルトの単語が出た瞬間に部屋の温度は暖かいにもかかわらず、ロキ達は背筋が寒くなるのを感じた。自ら藪蛇をつついてしまったような何か不味いものに足を踏み入れてしまったのではないか?と、これから起こるええ他の知れない恐怖に危惧した。


「あれ?なんやろかなこれ。自分から聞いといてなんだけどこれ以上聞かんほうがいい気がする」

「クレアからアルトの話ってだけで嫌な予感しかしないのに今日は特別脳から強い警告を出されてる感じがするんだけど」

「ええっと…長居してもお邪魔でしょうから私達はここらでお暇させてもらいますね」


 本能から送られてくる警告音に従って大火傷する前に撤退を試みる3人だったが目の前のエルフはそれを許してくれなかった。


「こらこら勝手に帰ろうとするな。まだ問題は解決していないのだからちゃんと最後まで付き合え」

「なんだか聞くのがこの上なく恐ろしいんだけど具体的にどんな話をしていたんですか」


 非常に良くない出来事が起こるであろうことは想像に難くないものの、このままでは絶対に眼前にいる人類最強が帰還することを許してくれず永遠にここから出れないことを3人は悟った。渋々ながら泥沼と思われる沼にロベルトは自ら切り出した。


「アルトから告白されたが振ってしまい、それを聞いたロキが最低な発言で返してきたからロイはこの世の悪で滅するべきという話をしていた」

「………あああ、なんか思い出してきた。確かクレアが子供の全ては母親の物とか、超人でも無理そうな条件をアルトの結婚相手には求めてるって話をしてたような…というか今のクレアの言葉かなり改悪されてへんかった?」

「それにもかかわらず結局クレアが気に入らなければ認めないという頭痛しかしないクソ過ぎる結論がでた気が…ちなみに兄さんがこの世の悪ていうのはあながち間違いでもないと思うよ」

「ふふふふ、2人共何をおっしゃっているのですか?そんな事あるわけないでわありませんか。きっと疲れて悪い夢を見たに違いありません。ロイを滅するべきという意見は同意ですが」


 (仮にも俺リーダーやのにパーティー内に味方がいないってどういう事?まあそれよりも)


「そうだねセルレアの言う通りきっと僕たちは疲れているんだね」

「そうやな。クレアが底抜けの親バカでも流石にあないなこと言うわけないわな。ははははは」


 3人は何かをかき消すかのように再び笑い始めた。本当はセルレアもロイ達が言った事が正しいのだと分かっていたがクレアの暴論とも言える数々のセリフが現実であったとはいえエルフとしても勇者としても先達であり尊敬しているクレアをセルレアとしては認めたくはないのであった。

 そしてロイとロベルトも自分たちの記憶のものが決して勘違いでないとは分かってはいたものの、まるで出口の見えない迷宮の様な会話と言えるかも怪しい話し合いが幻だったのだと思い込みたい一心でセルレアの考えを肯定せざる得なかった。


 

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