第16話 疑心暗鬼
「あ?そしたら
1番驚いていたのは
「……それ本当なの?」
春華の問いに李帆は黙って頷いた。
「……集会にも一度参加したことあるし。あの赤い腕章だって持ってる。私が裏アカウントで呟いたから……ここに来たんだと思う」
「このゲームのことをSNS上でバラしたってことか?場所と日時とかの情報も?」
はじめの問いかけに李帆が鬱陶しそうに答える。
「明日ギフト持ちを負かしてくるとしか呟いてないわよ。その呟きからきっと調べ上げたのよ!私がグループのメンバーだってことが分かれば命は助かるかもしれない……。というかギフト持ちと一緒にいるだけで何か報復されそうだわ……。だから私は今からゲームを抜ける」
そう言って美術準備室から出ようとしたが、春華が李帆の腕を力強く握った。
「危ないよ!いくら李帆ちゃんが排除派のメンバーだからって今のこの状況じゃ何されるか分からないよ?」
「うるっさいわね!」
李帆が掴まれた腕を力強く振ると遠心力で春華の手が離れた。
「あんた達もそうよ!早くゲームをやめて今のうちに逃げましょう。
異能者排除派ってことは狙っているのはギフト持ちだけ。私達の命は保証されてるってことでしょう」
その言葉に龍馬が俯いた。先程のアナウンスから一般人に対しては何も言及していなかった。ゲームの主導者が異能者排除派になったのであれば一般人はゲームを棄権すれば確実に助かる。反対に異能者達は死ぬかもしれないゲームを続けることになる。
李帆の発言は異能者を見捨てると言うことを意味していた。
「行くなら行けよ。所詮は僕らの存在を認めないクズどもが!」
律が心から言葉を振り絞るように吐き出した。その憎しみに溢れた険しい表情に誰も返答することができなかった。
すると力人が近くにあった四角形の木の椅子を蹴りあげた。椅子は力なくバキッと音を立てて薪割りのように割れた。そして無惨な姿になった椅子を手にしたまま美術準備室の出入り口に仁王立ちする。
その光景を見て誰もが恐怖した。怒りに燃えたぎっている力人は鬼のようだった。
「こいつらだけ助かるなんて……。納得いかねーよ。弓月も怪我したってーのに。ぜってぇここを通らせねぇ」
力人の迫力に流石の李帆もたじろいだ。そして神有高校生のチームに向かって叫んだ。
「早くあいつを黙らせてここから逃げましょう!私達簡単に有名大学に行けるのよ?これから明るい未来が待ってるんだから!ねえ!」
神有高校の生徒達は李帆に賛同することも他の案を出すこともできずに固まっていた。李帆だけが必死に自分たちが助かることを考えている。
自己中心的な考えの李帆に怒りを覚えたはじめが言葉を繋いだ。
「そんなのひどいな。僕らには明るい未来はないみたいな言い方。今の僕達なら君達"アザ"を人質に取って排除派と交渉することだってできる。異能を持たない君達が僕らに抵抗できると思う?」
「……それは脅しか?」
賢仁がはじめの発言を確かめるように問い返した。いつも穏やかな賢仁の表情とは裏腹に険しかった。
両チームの不和が顕在化し、火花を散らし始めた時だった。
「残りあと2分10秒」
聞き慣れない声が美術準備室に響き渡った。
一斉に声の主である頼の元に視線が集まる。今まで一度も発言してこなかった者の声はこの場にいたもの全員を惹きつけた。
「もうゲーム開始まで時間がないから私達は協力して立ち向かうしかない」
頼はクマがくっきりと残された眠たそうな顔で一同に声をかけた。その声は命令口調でもなく力を奮い立たせるような主張でもなかった。事実を淡々と述べているだけのように聞こえたがそこにいる誰もがハッとさせられた。
「今までの会話聞いてなかったのかよ!こけし女!」
力人が頼を睨みつけるが頼は少しも怯む様子はなかった。
「さっきの通知とこの3分という待機時間から相手に交渉する気はさらさらない。
排除派が『ゲーム』って言ってたからこれはゲームの延長で視聴者にはこれが番組の展開だと思わせるつもりなんだと思う。それと異能を持たない私たちが安全だという保証もない。
だったら私達はゲームに参加するしかない。協力し合うひとつのチームになって」
感情の起伏のない頼の言葉は様々な感情で入り乱れていた一同を冷静にさせた。さすがの力人も頼の正論に何も言い返すことができないようだ。落ち着いた雰囲気になったところで弱々しく龍馬が声をかけた。
「……あの……僕のプロポ操作に使ってたスマートフォンで外部に助けを呼ぶのはどうかな?それまでどこかに隠れてるとか……」
「助けに来る時間よりもゲーム開始の時間の方が早い。それに番組の企画だと信じ込まされたら終わりだよ」
「あー……はい」
提案を一蹴された龍馬は静かに身を引き下げた。龍馬の萎れた様子が緊迫した場の空気を変える。
「……そうだよな。ここでごちゃごちゃ言ってたって始まらない。協力して残り時間を凌ごう!」
龍馬の反応に少し笑っていた賢仁が今までの険悪な雰囲気を打ち破るように両チームに呼びかけた。
「この企画って異能者と一般人の交流でしょう?だったら見捨てるわけにいかないよ!」
春華が元気よく声を上げた。頼が声を上げたことによってチーム内は協力してゲームを乗り切るという方向に舵が切られそうになっていた。その雰囲気を打ち壊したのは李帆だった。
「だから何?私がギフト持ちに協力するわけないでしょう?」
「僕も協力なんてできない」
律もそっぽを向いてしまった。
その様子を見て頼は腰を下ろしいた正方形の木の椅子から立ち上がった。
「ごめん、きちんと伝えられなかったみたい」
頼は李帆と律に笑いかけた。その笑みは今この状況に合わないぐらい可愛らしく年相応の少女に見えた。頼がこんな風に笑えるなんて誰も想像していなかっただろう。逆にそのギャップが恐ろしくてその場にいた全員が思わず身構えた。
「私達は協力する道しかないんだよ」
そう言って美術準備室に置いてあった掃除用具入れを思いっきり開けた。その中にはアーチェリーの道具一式を入れたボウケースと竹刀、小型のドローンが詰め込まれていた。
「私に作戦がある。あの人たちに思い知らせよう。私たちにだって力があるんだって」
頼は片頬だけ口角を上げてみせた。
*
「子供達は傷つけないでください!中には普通の子供もいるんですよ?」
校庭にて手に結束バンドをつけられたアナウンサーの
異能者排除派の男は無感動に答える。
「それは難しい要望ですね……。我々の目的は異能者の子供を捕らえることですが負傷させずに捕らえることはできないでしょうね。異能者は恐ろしい力を持っている。ギフトなんて可愛らしいものじゃない。下手をしたら私たちの方が命を落としかねません。普通の子供は……すぐにでもこちらに投降してくるでしょう」
「……貴方達は間違ってる!人と異なるものを排除していく社会に明るい未来などない!こんなことをして政府の異能者保護機関や人権団体が黙ってないでしょう!」
今まで冷静だった男が初めて感情を露わにした。伊吹の頬を殴り飛ばしたのだ。伊吹は勢い余って地面に倒れ込んでしまった。その頭に男は腰に下げていた拳銃を突きつける。
「あんたは何も知らないからそんな綺麗事が言えるんだ!……それ以上何か話したら容赦しませんよ」
男が途中で取り乱したことに気がつくと静かな口調に戻り、拳銃を元に戻すとノートパソコンの操作を続けた。
伊吹が静かに後ろ手に縛られたままその場に座り直すと
「……。それ以上この人達に関わらない方がいい」
亀崎の言葉に伊吹は疑問を覚えた。今は静かにこの場をやり過ごすしかなさそうだった。本当は配信を続行させた亀崎にも文句を言ってやりたかったが亀崎の顔色の悪さを見て追求する気持ちが薄れてしまった。
亀崎は別の何かを恐れているようだった。伊吹は口の中に広がっていく血の味を感じながらゲームの行く末を見守ることにした。
間もなくゲームがスタートする。
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